
米富豪イーロン・マスク氏は28日、アメリカ政府の規模縮小という、激しい議論を巻き起こしてきた取り組みに関与した末に、ドナルド・トランプ政権から離れる意向を示した。この取り組みでは、数千人の連邦職員が解雇された。
マスク氏は、自身が運営するソーシャルメディア「X」への投稿で、「政府効率化局(DOGE)」の運営に携わる機会を与えたトランプ大統領に感謝を述べた。
ホワイトハウスが28日夜、マスク氏を特別政府職員としての職務から「オフボーディング(退任手続き)」する作業を開始したとの情報を、BBCはつかんでいる。
マスク氏の役職は当初から一時的なものであり、今回の退任は予想されていた。一方でマスク氏はこの前日、トランプ氏の政策の中核とされる法案を批判していた。
マスク氏はXに、「特別政府職員としての予定任期が終了するにあたり、無駄な支出を削減する機会を与えてくれたトランプ大統領に感謝したい」と投稿した。
「政府全体としても、DOGEの使命が生活の一部として根付くことで、その取り組みは今後さらに強化されていくだろう」
南アフリカ出身でテクノロジー業界の大物であるマスク氏は、「特別政府職員」に任命されており、年間130日間、連邦政府の職務に従事することが認められていた。
トランプ氏が大統領に就任した1月20日から起算すると、マスク氏の退任は5月末になるとみられていた。
トランプ政権の予算案を批判
一方、前日の27日にマスク氏は、トランプ政権の予算案に「失望した」と発言した。この予算案には、数兆ドル規模の減税と国防費の増額が盛り込まれている。
宇宙開発のスペースXと電気自動車(EV)大手テスラの最高経営責任者(CEO)であるマスク氏は、BBCがアメリカで提携するCBSのインタビューで、トランプ氏が「大きくて美しい法案」と称するこの予算案が、連邦政府の財政赤字を拡大させると批判した。
また、この法案がDOGEの取り組みを「損なうものだ」との見解を示した。
「法案は大きくてもいいし、美しくてもいい。しかし、その両方であることは難しいと思う」とマスク氏は語った。
マスク氏は、トランプ政権の一部の閣僚級関係者と非公開の場で対立していたとされる。また、当初は連邦政府の予算から「少なくとも2兆ドル(約290兆円)」を削減すると表明していたが、その後、目標額を半減させ、最終的には1500億ドルに引き下げた。
DOGEの取り組みにより、連邦政府の文民職員約230万人のうち、推定26万人が職を失うか、早期退職に応じたとされている。
一部のケースでは、連邦判事が大規模解雇を差し止め、解雇された職員の復職を命じた。
また、連邦職員の削減を急速に進めた結果、アメリカの核関連プログラムに従事する職員などが誤って解雇される事態も発生した。
マスク氏は4月下旬、自身がトランプ政権の改革の象徴として批判の的となっていることを受け、再び自らの企業の経営に専念する意向を表明していた。
マスク氏は28日、米テキサス州で行われたスペースXのロケット打ち上げに先立ち、米紙ワシントン・ポストに「DOGEはあらゆる問題のスケープゴートになりつつある」と語った。
「どこかで何か悪いことが起きると、たとえ我々に全く関係がなくても非難される」
テスラの経営にも影響
マスク氏が政府に関与していた期間中、テスラの販売台数は大幅に減少した。
今年1~3月期には前年同期比で13%減少し、同社史上最大の落ち込みとなった。
株価も一時は45%下落したが、その後は大きく回復し、現在は10%の下落にとどまっている。
テスラは最近、投資家に対し今後も厳しい経営状況が続く可能性があると警告している。また、成長見通しの提示を見送る一方で、「政治的な風向きの変化」が自動車の需要に大きな影響を与える可能性があると述べている。
マスク氏は先月の決算説明会で、DOGEに割く時間を「大幅に減らし」、「今後はテスラにより多くの時間を割く」と明言した。
活動家らはテスラに対するボイコットを呼びかけ、販売店前での抗議活動や、車両および充電ステーションへの破壊行為を行っている。
こうした反発が暴力的かつ広範囲に及んだことを受け、アメリカのパム・ボンディ司法長官は先に、破壊行為を「国内テロ」として扱う方針を示した。
マスク氏は27日、カタールのドーハで開催された経済フォーラムに出席し、今後5年間はテスラのリーダーとしての職務に専念する意向を表明した。
また今月初めには、今後は政治献金を削減する考えを示している。マスク氏は昨年、トランプ大統領の選挙活動や共和党候補への支援に、計約3億ドルを費やしていた。
(英語記事 Elon Musk leaves White House but says Doge will continue)