
ナタリー・シャーマン、BBCニュース
米連邦控訴裁判所は29日、ドナルド・トランプ大統領が発動した幅広い関税措置について、当面の間維持することができるとの判断を下し、差し止めを命じた下級審の判決を覆した。
トランプ氏の関税措置をめぐっては前日28日、ニューヨーク・マンハッタンにある米国際貿易裁判所が差し止めを命じた。
この訴訟は、中小企業やアメリカの一部州が、トランプ氏の政策の中心にあり、世界経済を揺るがしている関税措置に対して起こしたもの。
国際貿易裁判所の判断にトランプ政権関係者は憤り、司法の越権行為の一例だと主張し、即座に上訴していた。
連邦控訴裁は29日、ホワイトハウス側の申し立てを認め、関税措置を当面維持することができるとの判断を下した。
トランプ政権は控訴裁への申立てで、28日の貿易裁判所の判断は大統領の措置を不適切に覆し、数カ月にわたる厳しい交渉の成果を損なうおそれがあると主張した。
「外交政策や経済政策は裁判所ではなく政治部門が決めるものだ」と、政権は控訴にあたり力説していた。
控訴裁の判断が出る少し前、ホワイトハウスのキャロライン・レヴィット報道官は記者会見で、「トランプ大統領あるいはほかの大統領の、センシティブな外交・貿易交渉が活動家の判事によって妨害されるなら、アメリカは機能しない」と述べた。
ほとんど無名の貿易裁判所が28日に下した判断は、トランプ氏が2月に中国やメキシコ、カナダからの輸入品に課した関税を無効とするもの。トランプ氏はこの関税措置を、合成オピオイド(麻薬性鎮痛剤)の一種、フェンタニルのアメリカへの密輸に対処するためのものだと正当化していた。
貿易裁判所は、トランプ氏が先月発表した、世界各国からの輸入品に対する10%の基本関税と、欧州連合(EU)諸国や中国を含む貿易相手国へのいわゆる「報復関税」の税率引き上げについても、差し止めを命じていた。
貿易裁判所の裁判官3人は判決で、トランプ大統領が関税の正当化の根拠にしている1977年制定の国際緊急経済権限法(IEEPA)について、大統領にほぼすべての国に関税を課す広範な権限を与えるものではないとの判断を示した。
一方で、別の法律を根拠に発動された自動車や鉄鋼、アルミニウムへの関税措置は、差し止め命令の対象には含まれなかった。
ホワイトハウスは貿易交渉が続く中、多くの関税措置の一部を一時停止または見直してきた。
しかし、控訴裁の判断を受け、訴訟が進行中の間は関税措置を維持できることになった。次回の審理は6月5日に行われる予定。
関税措置をめぐる別の訴訟の審理を行うワシントンの連邦地方裁判所も29日、貿易裁判所と同様の判断を下した。
ルドルフ・コントレラス判事は、関税措置は大統領の権限を超えるものだとした。ただし、この命令は訴えを起こした玩具メーカーにのみ適用される。
今後どうなるのか
トランプ氏の貿易顧問を務めるピーター・ナヴァロ氏は29日、「たとえ我々が(裁判で)負けても、別の方法で(関税措置を)実施する」と、記者団に述べた。
トランプ氏が1962年の通商拡大法232条に基づき、国家安全保障上の懸念を理由に自動車、鉄鋼、アルミニウムに課した関税措置について、無効と判断した裁判所はこれまでのところ一つもない。
トランプ氏が今後、同法を根拠に、半導体や木材といったほかの分野にも輸入税の適用を拡大する可能性はある。
第1次トランプ政権時代に中国に関税を課すための根拠とした、1974年の通商法301条を適用する可能性もある。301条は、貿易相手国の不公正な取引上の慣行に対して当該国と協議することや、問題が解決しない場合の制裁について定めている。
1930年の通商法338条(特定国がアメリカに不利益をもたらす差別的待遇を採用していると認定した場合に、当該国からの輸入に最大50%の追加関税を課すことを定めている)は、過去数十年適用されていない。
しかし、ホワイトハウスは今のところは、裁判所の判断に異議を唱えることに注力しているとみられる。関税をめぐる問題はいずれ、最高裁で審理されることになると、広く予想されている。
「権力掌握」
複数企業が貿易裁判所に提起した訴訟に携わったイリア・ソミン弁護士は、貿易裁の判決が最終的に上級審で支持される可能性について「慎重ながら楽観視」していると述べた。
貿易裁判所の命令は、民主党と共和党の両方の大統領に任命された判事から出されたもので、トランプ氏に任命された判事も含まれると、同弁護士は指摘した。
「米大統領がこのような巨大な権力を掌握し、世界恐慌以来最大の貿易戦争を始めるなど、正常なことではない」と弁護士は述べていた。
一方で、米政策について企業への助言を行う米調査会社パンゲア・ポリシーの創設者、テリー・ヘインズ氏は、裁判所は「おそらく大統領について、『疑わしきは罰せず』を適用するだろう」と述べた。
会社経営者は、今後への期待を示しつつも、状況が解決したとは感じていないとした。
中国で玩具を製造しアメリカに輸入・販売する、ボストン拠点の「ストーリー・タイム・トイズ」のオーナー、カラ・ダイアー氏は裁判所の判断について、「非常にうれしく、安堵したが、それでも非常に慎重なままだ」と述べた。
「すごく混乱しているので、ビジネスとして計画を立てるのはまったく不可能だ」
「この問題が裁判システムを通じて解決され、将来の関税についてもう少し確実性が得られることを望んでいる」と、ダイアー氏は述べた。
オーストラリアの世界貿易機関(WTO)貿易交渉担当を務めたドミトリー・グロゾビンスキー氏は、重関税で他国を動かそうとするトランプ氏の力が、法廷闘争によって弱体化していると指摘した。
「彼にとっては今後、関税を引き上げるのがずっと難しくなる」と、グロゾビンスキー氏は述べ、「関税は結局のところ、交渉手段だった。トランプ大統領は他国と交渉するため、大きな棒を振りかざして脅していたのだが、その棒が今回、かなり心もとないものになってしまった」と話した。
(英語記事 Trump tariffs can stay in place for now, appeals court rules)