
デイヴィッド・グリッテン(ロンドン)、ヨランド・ネル(エルサレム)
イスラエルの閣僚らは29日、占領下のヨルダン川西岸地区で22カ所の新しいユダヤ人入植地建設を承認したと発表した。過去数十年で最大規模の拡大となる。
すでに政府の許可なく建設された前哨基地が、今後はイスラエル法の下で合法化されるほか、まったく新しい入植地を建設するという。イスラエル・カッツ国防相とベザレル・スモトリッチ財務相が発表した。極右政治家のスモトリッチ氏は、西岸地区の開発計画を担当している。
西岸での入植地建設は国際法上、一般的に違法とされているものの、イスラエルはこれに反論し続けており、入植地はイスラエルとパレスチナの間で特に激しい争点となっている問題の一つ。
カッツ国防相は、入植地増設は「イスラエルを危険にさらすパレスチナ国家の樹立を阻止する」ものだと主張。パレスチナ自治政府はこれを「危険なエスカレーション」と批判した。
入植活動に反対するイスラエルの監視団体「ピース・ナウ」は、政府の発表を過去30年以上で「最も大規模な動き」と呼び、「ヨルダン川西岸地区を劇的に作り変え、占領をさらに強化することになる」と警告した。
イスラエルは、1967年の中東戦争でヨルダン川西岸地区と東エルサレムを占領して以来、約160カ所の入植地を建設し、約70万人のユダヤ人をそこに入植させてきた。推定330万人のパレスチナ人が同じ地域に暮らしている。パレスチナ人はいずれ樹立したい独立国の領土にするため、ガザ地区と共に、ヨルダン川西岸地区と東エルサレムの返還を望んでいる。
歴代のイスラエル政府は入植地の拡大を容認してきた。しかし、ベンヤミン・ネタニヤフ首相が2022年末に入植を支持する右派連合を率いて政権に復帰し、さらに2023年10月7日のイスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃を契機にガザ紛争が勃発して以来、入植地拡大の動きは急激に勢いを増している。
「歴史的帰還」と主張
カッツ氏とスモトリッチ氏が今回発表した決定は、政府が2週間前に下したものとされる。声明によると、22の新たな入植地建設と「北サマリア(ヨルダン川西岸北部)の入植地の更新、イスラエル国家の東軸強化」を政府が承認したという。
新しい入植地の正確な位置は発表されていないが、出回っている地図からは、ヨルダン川西岸全域で新しい入植地が建設される計画とみられる。
カッツ氏とスモトリッチ氏は、2005年にイスラエルがガザ地区から部隊と入植者を撤退させた際に、同時に撤退したヨルダン川西岸北部奥地にあった2カ所の入植地、ホメシュとサヌールにも入植地を建設するとして、これは「歴史的な帰還」になると強調した。
ホメシュでは2年前、入植者グループがユダヤ教の宗教学校と無許可の前哨基地を設立している。監視団体ピース・ナウによると、イスラエル法が今後合法化する12の拠点に、ホメシュが含まれることになる。
ピース・ナウによると、9カ所の入植地は新設で、ホメシュのすぐ南にあるナブルス近郊のエバル山や、ラマラの西に位置するベイト・ホロン・ノースなどが含まれる。ベイト・ホロン・ノースではすでに数日前から建設作業が始まっているという。
ピース・ナウはさらに、予定されるもうひとつの入植地ノフェイ・プラットは現在、公式には東エルサレム近郊の別の入植地クファル・アドゥミムの「近隣地区」と位置付けられているものの、今後は独立した入植地として扱われるようになると説明した。
「パレスチナ国家を阻止」目的と
カッツ氏は、この決定は「イスラエルを危険にさらすパレスチナ国家の樹立を阻止し、敵に対する緩衝地帯を設ける、戦略的な動きだ」と説明した。
「これはシオニズムの動き、安全保障のための国家的対応、国の将来に関する明確な決断だ」とも、国防相は述べた。
スモトリッチ氏はこれを「一世代に一度の決断」と呼び、「次の一歩は主権だ!」と宣言した。
しかし、パレスチナ自治政府を率いるマフムード・アッバス議長の報道官は、これを「危険なエスカレーション」と呼び、イスラエルが引き続きこの地域を「暴力と不安定の循環」に引きずり込んでいると非難した。自治政府は、イスラエル支配下にないヨルダン川西岸の一部を統治する。
「この過激なイスラエル政府は、あらゆる手段を使ってパレスチナ独立国家の樹立を阻止しようとしている」と、ナビル・アブ・ルデイネ氏はロイター通信に話した。
ピース・ナウのリオール・アミハイ代表は、「イスラエル政府の一番の目標は、占領地域の併合と入植地の拡大だ。もはやイスラエルは、それを隠そうともしていない」と指摘した。
人気ニュースサイトYnetのイスラエル人記者で、ヨルダン川西岸地区と入植地を取材しているエリシャ・ベン・キモン氏は、BBC番組「ニューズアワー」で、閣僚の7~8割がヨルダン川西岸地区の正式な併合宣言を希望しているのだと話した。
「イスラエルは、この地域をイスラエル領と宣言する寸前だと思う。今のタイミングは二度と戻ってこないと彼らは信じている。この唯一の機会を逃したくないからこそ、今この行動に出ている」のだと、ベン・キモン氏は述べた。
イスラエルは1980年に東エルサレムを事実上併合したが、国際社会のほとんどがこれを承認していない。
何十年も続くイスラエルとパレスチナの紛争を「二国家」案で解決しようと、その機運を今一度盛り上げようとする取り組みにとって、イスラエル政府の今回の決定はいっそうの打撃になる。
二国家解決とは、イスラエルと並んで独立したパレスチナ国家を樹立するという国際的に承認された和平案で、これを協議するため来月にもニューヨークの国連本部でフランスとサウジアラビアの首脳会談が予定されている。
ヨルダン外務省はイスラエルの発表について、「占領を固定化することで平和への見通しを損なう」「国際法の明白な違反」だと非難した。
イギリスのヘイミッシュ・ファルコナー中東担当相は、イスラエルの動きは「パレスチナ国家の樹立に対する意図的な妨害」だと述べた。
ピース・ナウによると、ネタニヤフ政権は政権発足以来、合計49カ所の入植地新設を決定した。さらに、既存の入植地の「近隣地区」に認定される7カ所の無許可入植地の合法化手続きも開始した。
国際司法裁判所(ICJ)は昨年7月、「イスラエルによるパレスチナ占領地への継続的な駐留は違法」だとする勧告的意見を出した。ICJはさらに、イスラエルの入植地は「国際法に違反して建設され、維持されている」と述べ、イスラエルは「すべての入植者を退去させるべき」だとした。
ネタニヤフ首相は当時、ICJは「うその判断」をしたと批判し、「ユダヤ人は自分たちの土地を占領などしていない」と主張していた。
(英語記事 Israel announces major expansion of settlements in occupied West Bank)