2025年6月19日(木)

BBC News

2025年6月2日

アメリカのピート・ヘグセス国防長官

テッサ・ウォン、BBCニュース(シンガポールのシャングリラ・ダイアローグ会場)

アメリカのピート・ヘグセス国防長官は、中国が台湾にとって「差し迫った」脅威になっていると警告した。また、アジア各国に対し、防衛費を増やし、戦争抑止のためアメリカと協力するよう求めた。

ヘグセス氏は5月31日、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)で演説。アメリカは「中国を支配したり、締め付けたりする意図はない」が、アジアから押し出されはしないし、同盟国が脅かされるのを見過ごすこともないと述べた。

これに対し中国は、地域の平和にとってアメリカが「最大のトラブルメーカー」になっていると非難している。

アジアでは多くの人が、中国による台湾侵攻を恐れている。中国は台湾を自国領の自治島だとしており、武力行使を否定していない。

ヘグセス氏は演説で、中国について、「(アジアの)あまりにも多くの部分を支配・コントロールすることを望んでいる」、「覇権主義的な大国」になろうとしていると評した。中国は南シナ海での領有権をめぐり、近隣諸国と衝突している。

また、中国がアジアの「パワーバランスを変えるため、軍事力行使の可能性に関する準備をしている」と発言。中国軍は2027年までに台湾を侵攻できるようになるべきだと、習近平国家主席が指示したとされることに言及した。

この期限については、アメリカの政府や軍の高官が何年も前から指摘している。ただ、中国政府が認めたことはない。

ヘグセス氏は、中国が「そのために必要な軍備を整え、毎日訓練し、本番のリハーサルを行っている」と主張。

「はっきりさせておきたい。共産中国が武力で台湾を征服しようとすれば、インド太平洋と世界に壊滅的な結果をもたらすだろう。ごまかす理由はない。中国の脅威は本物だ。そして、それは差し迫っている可能性がある。そうではないことを望むが、確かにそうかもしれない」と述べた。

ヘグセス氏はまた、アメリカは中国との戦争や衝突を望んでいるわけではないと説明。

「私たちには、中国を支配したり、締め付たり、包囲したり、挑発したりする考えはない。政権交代も画策していない。(中略)しかし、中国が私たちや私たちの同盟国およびパートナーを支配できないようにする必要がある」と述べた。さらに、「私たちがこの重要な地域から押し出されることはない」と付け加えた。

中国が反発

この発言には、在シンガポール中国大使館が反発。フェイスブックへの投稿で、「挑発と扇動に満ちた」演説だとし、ヘグセス氏について、「中国を繰り返し中傷・攻撃し、『中国の脅威』と呼ばれるものを執拗に誇張している」とした。

また、「実際には、アメリカこそが地域の平和と安定にとって最大の『トラブルメーカー』になっている」と主張。例として、アメリカが南シナ海に「攻撃的兵器を配備」したり、同大使館が「中国の島々や岩礁」と呼ぶ場所を偵察したりしているとした。

さらに、「アメリカが今世界に最も提供しているのは『不確実性』だ」、「同国は平和を守り、紛争を起こさないと主張している。それはもう聞いた。どう動くのかを見るとしよう」と書いた。

中国は発言こそ強硬だが、この会議においては存在感を意図的に低下させていた。

英シンクタンクの国際戦略研究所が主催するシャングリラ・ダイアローグは、アジアでの影響力を争うアメリカと中国がそれぞれの構想を地域の国々にアピールする場として長年機能してきた。

しかし今年は、アメリカが過去最大規模の代表団を派遣したのに対し、中国はかなり低レベルのチームを送り、1日に予定されていた演説も取りやめた。

公式の説明はないが、中国国営メディアは、国防相を派遣しない同国の決定を「過大に解釈すべきではない」とする匿名の専門家の言葉を引用し、大ごとではないと印象付けようとした。

「抑止力は安くない」

ヘグセス氏は、戦争を防ぐため、アメリカは同盟国と共に「抑止力の強力な盾」を築き上げることを望んでいると発言。アメリカは「これからも友好国を包み込み、協力のための新たな方法を見つけていく」と約束した。

一方で、「抑止力は安くはない」と強調。ヨーロッパを例に挙げながら、アジアの国々も防衛費を増やすよう求めた。

ドナルド・トランプ米大統領は、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国に対し、国内総生産(GDP)の少なくとも5%を防衛に支出するよう要求している。ヘグセス氏はこれを、「きつい愛だが、愛には変わりない」としている。エストニアなどの国々は要求を満たすよう素早く動いており、ドイツなども応じる姿勢を示している。

ヘグセス氏は、中国や北朝鮮の脅威を引き合いに出しながら、「アジアの重要な同盟国やパートナーが、より強大な脅威に直面しているにもかかわらず支出を抑えているのに、ヨーロッパの国々がそのようなことをするのは道理に合わない」と述べた。

また、「ヨーロッパは(防衛費を)増大させている。インド太平洋地域のアメリカの同盟国も、自国の防衛力を早急にアップグレードすることで、後に続くことができるし、そうすべきだ」と主張。アジアの国々はアメリカに「依存するのではなく、パートナー」になるべきだと訴えた。

「常識的な」ビジョン

ヘグセス氏は演説で、「アメリカは恒久的な敵を持たないし、探しもしない」という、世界各国との付き合い方に関するトランプ氏の「常識的な」ビジョンをたたえた。

そしてトランプ氏を、現実主義的な外交姿勢で知られたシンガポール初代首相の故リー・クアンユー氏になぞらえた。

ヘグセス氏は、「アメリカは、道徳的で説教じみた過去の外交政策には興味がない。他国に対し、政策やイデオロギーを受け入れろと圧力をかけるためにここにいるのではない。気候変動や文化問題について説教を垂れるためにここにいるのではない。私たちの意志を押し付けるためにここにいるのではない」と述べた。

この会議の米代表団の一員であるタミー・ダックワース上院議員(民主党)は、こうした発言を批判。「私たちは基本的人権を尊重し、国際法と秩序を守る。そして、それこそが私たちが推し進め続けることだ」と述べた。また、ヘグセス氏のメッセージは全体として、上から目線だとした。

他方、米代表団のブライアン・マスト下院議員とジョン・ムーレナー下院議員(共に共和党)は、ヘグセス氏の演説は中国の脅威に対する明確なメッセージになったと、BBCの取材で主張。アジアの多くの国々が歓迎していることが、各国当局者との会合からわかると話した。

ムーレナー氏は、「私が耳にしたメッセージは、人々が航行の自由と隣国への尊重を望んでいるが、中国が見せた攻撃的な行動に威圧感を感じているというものだ」、「アメリカの存在は歓迎され、望まれている」と述べた。同氏は下院で、米中間の競争に関する委員会の委員長を務めている。

シンクタンク「カーネギー・チャイナ」の非常勤研究員イアン・チョン氏は、ヘグセス氏が防衛費の増額を求めたのは「最近のアメリカにすればごく普通のこと」だと分析。日本、韓国、台湾などアジアの同盟とアメリカとの間では数十年前から続く「永遠の課題」ではあるが、「トランプ政権はよりしつこく、より多くを要求している」とした。

そして、「アジアの各国政府は耳を傾けるだろうが、どこまで応じるかは別の話だ」と付け加えた。

シンガポールのシンクタンク「ユソフ・イシャク研究所(ISEAS)」シニアフェローのウィリアム・チュン氏は、一部の例外を除いて、「中国の脅威に対するアジア各国の認識は、ロシアに対するヨーロッパの認識と同種ではない」と説明。

アジアの多くの国は、中国に対して「より楽観的な見方」をしており、「南シナ海における中国の強硬姿勢は認識しているが、それ以外はほとんどすべてにおいて、中国と協力することを望んでいる」と述べた。

また、ヘグセス氏の呼びかけについては、「よく言えば無知、悪く言えば思い上がり」だとした。

(英語記事 Hegseth warns China poses 'imminent' threat to Taiwan and urges Asia to boost defence

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c7v7jqq5585o


新着記事

»もっと見る