2025年6月22日(日)

BBC News

2025年6月3日

イギリス政府は、ロシアや中国といった核保有国からの新たな脅威に直面する中で、「戦闘即応体制」への移行を目指し、軍備に数十億ポンド規模の投資を行う方針だ。ジョン・ヒーリー国防相が2日、議会で明らかにした。

政府は、長らく待たれていた「戦略的防衛レビュー(SDR)」に盛り込まれた全62項目の提言を受け入れると表明した。提言には、原子力潜水艦12隻の新造、弾薬工場6カ所の新設、人工知能(AI)などの先端技術の導入が含まれている。

ヒーリー国防相は、イギリス軍は「新たな脅威の時代」に対応するため、「戦闘力を10倍に高める必要がある」と述べた。

一方、最大野党・保守党のジェイムズ・カートリッジ影の国防相は、今回の計画を「期待外れで資金不足だ」と批判。「完全に失望させる内容だ」と非難した。

SDRは、過去の労働党政権で国防相を務めたロバートソン卿が主導した。報告書は、イギリス軍は現在、ロシアや中国のような相手と戦うための装備が整っていいないと指摘。兵器の備蓄不足、人員の確保難、士気の低下といった問題を挙げている。

また、イギリスはすでに重要な国家インフラを日常的に攻撃されており、経済の脆弱(ぜいじゃく)性が試され、社会的結束も脅かされていると警告している。

ロシアについては、「差し迫った重大な脅威」で、ウクライナ侵攻によって「目的達成のために武力行使をいとわない姿勢が明白になった」としている。

一方、中国は「高度で持続性の高い困難な存在」だと指摘。、「諜報活動やサイバー攻撃を通じて優位性を追求し続ける可能性が高い」と分析している。さらに、2030年までに中国が核弾頭を1000発保有する見通しだと報告書は述べている。

このほか、イランと北朝鮮も地域の不安定要因として言及されている。

こうした脅威に対抗するため、国防省はAI、ロボット、レーザーといった新技術の導入を進めるべきだと、報告書は提言している。

ヒーリー国防相は下院での演説で、「冷戦終結以降、現在ほど深刻かつ予測困難な脅威に直面したことはない」と述べた。

「ヨーロッパでは戦争が起きており、ロシアの侵略姿勢は強まっている。新たな核のリスクが生じ、イギリス国内も日々、サイバー攻撃を受けている」

「我々の敵対勢力は互いに連携を強めており、戦争の様相は技術によって変化している。イギリスの防衛も、新たな脅威の時代にふさわしい形へと転換しなければならない」

「戦闘即応体制」への移行

今回のSDRでは、北大西洋条約機構(NATO)を最優先とする防衛政策を推進するという戦略的目標が掲げられた。イギリスは今後、NATOに対し、1949年の創設以来で「最大規模の貢献」を行う方針だ。

また、軍の中核的目的として、「戦闘即応体制」への移行を明確化した。

これに伴い、陸海空の各軍も強化する。王立海軍は、航空機やドローン(無人機)、軍艦、潜水艦を組み合わせた「ハイブリッド海軍」へと移行し、北大西洋「およびそれ以遠の海域」での哨戒活動を強化していく。

陸軍は、防空能力、AI、長距離兵器、地上型ドローン群を統合し、「戦闘力を10倍に高めた」部隊を目指す。英空軍(RAF)は、F-35戦闘機、タイフーン戦闘機、自律型航空機を導入し、「次世代空軍」への転換を図る。

そのほかの主な提言は以下の通り。

米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の一環として、原子力潜水艦12隻を新造

新型核弾頭の開発に150億ポンドを投資

常時稼働可能な弾薬生産体制を確立するため、15億ポンドを投じて工場を6カ所新設

イギリス国内で最大7000発の長距離兵器(ミサイルやドローンなど)を製造し、軍に配備

サイバー空間における防御・攻撃能力を強化するため、「サイバー・電磁指揮部隊」を新設

軍用住宅の修繕費に、2029年までに追加で15億ポンドを拠出

兵士への目標情報の迅速な提供を可能にする技術開発に10億ポンドを投資

ヒーリー国防相はまた、次回の総選挙後に、陸軍の正規兵数を現在の7万4400人から少なくとも7万6000人に増員する方針を明らかにした。

さらに、2030年までに志願制の若者組織「カデット部隊」を30%拡大し、軍の生活を体験できる「ギャップイヤー制度」を導入する計画も示した。

ヒーリー氏は、研究開発や兵器製造への投資拡大により、およそ3万人分の高度技能職が新たに創出される見込みだと述べた。

野党からは財源めぐる批判

今回のSDRは、国防費を国内総生産(GDP)の2.5%に引き上げるとの前提で策定された。イギリスの現在の水準は約2.3%とされている。

しかし、報告書が「小幅な増強」と位置付けた陸軍の人員拡充については、現時点で財源が確保されていない。

BBCが取材した国防関係者は、最大12隻の新型攻撃型潜水艦の建造を実現するには、国防費をGDPの少なくとも3%に引き上げる必要があると述べた。

保守党は、年間約200億ポンド(約3兆8600億円)の追加支出となるこの目標を、今後10年以内に達成すべきだと主張している。

カートリッジ影の国防相は、「財源がなければ、この報告書は空虚な欲しいものリストに過ぎない」と批判し、「報告書に記された艦船や潜水艦は空想の艦隊だ」と述べた。

また、「政府はロシアに強いメッセージを送ろうとしているが、実際に発信されているのは極めて弱いメッセージだ」と非難した。

「大きな前宣伝の割に、SDRは期待外れだった」

「発表は遅れ、資金は不足し、内容も期待外れだ。我々の軍は、もっとふさわしい扱いを受けるべきだ」

これに対しキア・スターマー首相は、今回の見直しが「戦闘準備が整った、装甲国家」の実現に寄与すると主張した。

スターマー氏は、グラスゴーで行われたSDRの発表イベントで、「高度な軍事力を持つ国家から直接的な脅威を受けている今、最も効果的な抑止手段は、我々が備えていること、そして平和を力によって実現する覚悟があることを明確に示すことだ」と述べた。

野党・自由民主党のヘレン・マグワイア報道担当(国防担当)は、政府の計画を歓迎する姿勢を示しつつも、「世代を超えるリスクに対応するには、世代を超える覚悟が必要だ」と警鐘を鳴らした。

マグワイア氏はまた、「この野心的な計画をどうやって財源面で支えるのかという極めて重要な問いに、いまだ明確な答えが示されていないのは驚くべきことだ」と述べた。

(英語記事 Defence plan will ensure UK is ready for war, minister says/At a glance: Key points from government's defence strategstrategy

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cn5y3736l9vo


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