
イスラエル軍は9日、イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区の海上封鎖に抗議し、ガザに人道援助物資を運ぶため航行していたヨット「マドリーン号」に乗り込んだ。活動家らが発表した。
活動団体「自由船隊連合(FFC)」は、通信アプリ「テレグラム」で「マドリーン号との通信が途絶えた」と投稿。救命胴衣を着用した人々が、両手を挙げて座っている写真を公開した。
イスラエル外務省は、船が「安全にイスラエル沿岸に向かっている」と述べ、乗員については「それぞれの出身国に帰国する見通し」だと発表した。
マドリーン号には、気候変動活動家のグレタ・トゥーンベリ氏も乗船。船はエジプト沖にいたとされている。
イスラエル外務省はソーシャルメディア「X」に9日、「グレタ・トゥーンベリは現在、イスラエルに向かっている。無事で元気だ」と写真付きで投稿した。「『自撮りヨット』の乗客全員が安全で無事だ。サンドイッチと水を提供した。見世物は終わりだ」とも動画付きで投稿した。
これに対してFFCは、マドリーン号にイスラエル軍が乗り込んだと報告後、トゥーンベリ氏を含む複数の活動家が事前収録した短い動画を投稿した。映像の中で活動家らは、「この動画を見ているということは、私たちはイスラエル軍、またはイスラエルを支援する部隊に捕まり、拉致されたということだ」と述べている。
FFCは、6日にイタリアのシチリア島を出港したマドリーン号が人道支援物資を積載しており、「イスラエルによる攻撃の可能性に備えていた」と説明していた。
「到達阻止」と国防相
イスラエルのイスラエル・カッツ国防相はこれに先立ち、マドリーン号は引き返すべきだと警告。ソーシャルメディアに、「憎悪の『マドリーン』船団がガザ沿岸に到達するのを阻止し、そのために必要なあらゆる措置を講じるよう、イスラエル国防軍(IDF)に指示した」と投稿した。
また、2007年から続くガザの封鎖について、「ハマスへの武器移送を防ぐこと」が目的で、ハマス壊滅を目指すイスラエルにとって安全保障上、不可欠なものだと主張した。
国防相は乗員に向かって、「反ユダヤ主義者のグレタ氏と、ハマスのプロパガンダ代弁者たちに対して、はっきりと言う。引き返すべきだ。ガザには到達できないからだ」と主張。「イスラエルは、封鎖を破ろうとする、あるいはテロ組織を支援しようとするいかなる試みに対しても、海上、空中、陸上を問わず行動を取る」と、警告していた。
これに対してFFCは、イスラエルによる海上封鎖は違法だと指摘。カッツ国防相の発言について、民間人に対する不法な武力行使を脅すもので、「その暴力を、中傷によって正当化しようとしている」と非難。FFCのハイ・シャ・ウィヤ広報担当は、「我々は脅しには屈しない。世界が注視している」と述べていた。
「マドリーン号は民間船で、武装しておらず、国際海域を航行している。人道支援物資と、世界各国の人権擁護者を乗せている。イスラエルには、我々のガザ到達を妨げる権利はない」とも同広報担当は主張していた。
同団体によると、マドリーン号には米や乳児用ミルクなど「象徴的」な支援物資が積まれているという。
イスラエル外務省は9日未明には「X」への投稿で、「グレタ氏らが行ったのは、宣伝目的だけのメディア向け挑発行為で、積載されていた支援物資はトラック1台分にも満たなかった」と主張。「過去2週間で1200台以上の支援トラックがイスラエルからガザに入っており、ガザ人道基金は、ガザの民間人に対して約1100万食を直接配布している」と述べていた。
さらに、「ガザ地区に支援を届ける方法は存在する。それはインスタグラムの自撮り写真ではない」と付け加えた。
マドリーン号には、ブラジル、フランス、ドイツ、オランダ、スペイン、スウェーデン、トルコの市民が乗船している。
イスラエルの特殊部隊は2010年、ガザに向かう支援船団を率いていたトルコ船「マヴィ・マルマラ号」に乗り込み、10人を殺害した。
イスラエルはガザ地区を3カ月にわたり封鎖した後、イスラエルとアメリカが支援する「ガザ人道財団(GHF)」による物資配給を優先する形で、ガザ地区への限定的な援助再開を5月末から認めた。GHFによる物資支給は、国連を回避しており、多くの人道団体から非難されている。
国連のフォルカー・テュルク人権高等弁務官は先週、パレスチナ人が「飢餓で死ぬか、わずかに提供される食料を得ようとして命を落とすかという、最も過酷な選択」を迫られていると述べた。
イスラエルが2023年10月7日のハマスによる前例のない越境攻撃を受け、ガザで軍事作戦を開始してから、まもなく20か月か経過する。この攻撃では約1200人が殺害され、251人が人質として連れ去られた。
ハマスが運営するガザ地区の保健省によると、それ以降、ガザでは少なくとも5万4880人が殺されている。