
アンソニー・ザーカー北米特派員
ドナルド・トランプ米大統領は、昨年の大統領選挙の運動中、国内での左翼の無法な振る舞いを許さず、大統領の権限をフル活用して対応に当たると約束した。
そのトランプ氏にとって、カリフォルニア州で続いた移民関税捜査局(ICE)の取り組みに対する抗議デモは、その公約を実行に移すきっかけとなった。
ロサンゼルス市警察(LAPD)は、抗議デモはおおむね平和的だと説明した。地元当局も、衝突は暴力的なものもあるが、対応可能だとした。だが、そんなことは関係ない。
トランプ政権は、入国管理当局の職員が標的にされ負傷したと主張し、現地の警察などの対応が遅すぎたと批判している。
国土安全保障省のクリスティー・ノーム長官は8日朝、米CBSニュースの番組で、「LAPDの到着を数時間待つことや、当局者が危険な状況に置かれるまで(LAPDが)支援しないことは、暴力的な抗議活動が起きている時にはうまくいかない」と発言した。
これに対しLAPDは、「状況が許す限り迅速に行動した」とし、通報から55分以内に群衆の解散に取りかかったとしている。
トランプ氏は、カリフォルニア州のギャヴィン・ニューサム知事の反対を押し切って、カリフォルニア州兵2000人を連邦政府の指揮下に置いた。ピート・ヘグセス国防長官は、米海兵隊も「厳戒態勢」にあると警告している。国内で現役軍が出動すれば、まれな事態となる。
トランプ氏は8日朝までに、勝利を宣言し、州兵に対して平和を取り戻したとして感謝した。ただ、この時点ではまだ、州兵は完全には集結していなかった。
トランプ氏の反応の素早さは、政権がこの戦いに備えていたこと、それどころか待ち望んでさえいたことをうかがわせる。
ホワイトハウスは、法と秩序の推進、そして積極的な移民取り締まりは、トランプ氏に勝ち点をもたらす事案だと考えている。
同氏の行動は、同氏のコアな支持層を興奮させだろうし、治安に不安感を覚えている無党派層を引き付ける可能性がある。
ノーム長官はCBSの番組で、2020年にミネソタ州で起きた「Black Lives Matter(黒人の命は大事)」抗議運動は野放しのまま広がったと主張。トランプ氏の新政権は前とは違う対応を取るとして、こう言った。
「2020年の繰り返しにはさせない」
一方、野党・民主党は、政権が軍用品を身に着け覆面をした入国管理官らを使って、レストランや商店で民間人を拘束しているのは、人々の怒りをかき立てる行為だと問題視する。トランプ氏が、訓練された兵士の派遣に熱心なのも、不当だとしている。
コーリー・ブッカー上院議員(ニュージャージー州)は、「大統領が(州知事から)要請されてもいないのに、何世代にもわたる伝統を破って、このようなことをするのは、状況をあおり、事態を悪化させるだけだ」と非難。
「移民当局による意見聴取のため出頭し、法律を守ろうとしていた人々を、米大統領は拘束し、混乱と混迷をつくり出している。そのことが原因となって、現在の平和的な抗議行動の多くが起きている」とした。
アメリカには、夏に抗議行動が活発になるという長年の伝統がある。今はまだ6月上旬でしかない。
トランプ氏の大統領2期目が始まって5カ月が過ぎた。今回のカリフォルニアのデモは、個別の事案かもしれないが、もしかするとこの先にさらに大きな社会情勢不安が起きる、その始まりなのかもしれない。
(英語記事 Trump's intervention in LA is a political fight he is eager to have)