2025年6月17日(火)

BBC News

2025年6月11日

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相率いる右派連立政権の主要メンバー、イタマル・ベン・グヴィル国家安全保障相(左)とベザレル・スモトリッチ財務相

イギリスは10日、イスラエルの極右閣僚2人に入国禁止などの制裁を科すと発表した。イスラエル占領下のパレスチナ・ヨルダン川西岸地区で、「パレスチナ人コミュニティーに対する暴力行為を繰り返し扇動した」ことが理由とした。

制裁対象となるのは、イスラエルのベザレル・スモトリッチ財務相とイタマル・ベン・グヴィル国家安全保障相。イギリス外務省が発表した制裁措置には、イギリスへの入国禁止と同国内の資産凍結が含まれる。

これは、オーストラリア、ノルウェー、カナダ、ニュージーランドとの5カ国共同措置の一環。

イスラエルは、「選挙で選ばれた議員や政権メンバーがこのような措置の対象となるとは、常軌を逸している」と反論した。

デイヴィッド・ラミー英外相は、スモトリッチ氏とベン・グヴィル氏が「過激な暴力行為と、パレスチナ人の人権に対する深刻な侵害行為を扇動した」と指摘した。

こうした中、アメリカのマルコ・ルビオ国務長官は、今回の動きを非難する内容をソーシャルメディアに投稿。「これらの制裁は、停戦を実現して人質全員を帰国させ、戦争を終わらせるという米国主導の努力を前進させるものではない」とした。

また、5カ国に対し、制裁措置を撤回するよう求め、アメリカは「イスラエルと協力し合い、抵抗する」と付け加えた。

アメリカのマイク・ハッカビー駐イスラエル大使も、ルビオ国務長官と同様に制裁措置を非難。「衝撃的な決定」だと、BBCに語った。

スモトリッチ氏とベン・グヴィル氏は、パレスチナ・ガザ地区でのイスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘をめぐっても、批判の的となっている。2人は、ガザ地区への援助物資の受け入れに反対しており、パレスチナ人住民をガザ地区外へ移住させるよう求めている。

入植者の暴力は「容認できない」

英外務省は、「ヨルダン川西岸地区のパレスチナ人コミュニティーは、過激なイスラエル人入植者による深刻な暴力行為に苦しみ続けている。入植者は、将来的なパレスチナ国家の樹立を妨げようともしている。イギリスはオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、ノルウェーと共同で、国際的な対応を強化することにした」と説明した。

ラミー外相は制裁の発表後、「これらの行動は容認できない。だからこそ、我々は今行動を起こしている。責任者を追及するために」と述べた。

「我々はガザでの即時停戦、ハマスに今も拘束されている人質の解放、援助の急増、そして『2国家解決』への道筋を実現するよう努める。ハマスが将来的に、ガザ統治の役割を果たすことはできない」

イギリス、入植を「再び」阻止しようと

イスラエルのギデオン・サール外相によると、5カ国による「容認できない決定」に対応するために来週、閣議が開かれる。

英外務省は、5カ国は「イスラエル人入植者がヨルダン川西岸地区で、パレスチナ人コミュニティーに対して行っている暴力行為と脅しを止めなければならないということを、明確にしている」と説明。

同省は声明で、イスラエルの閣僚2人に対する制裁を、ガザで起きていることから切り離して見ることはできない」と主張。「イスラエルはガザで、国際人権法を順守しなければならない」とした。

制裁対象の2人はそれぞれ、連立政権を構成する超国家主義的な政党を率いている。ベン・グヴィル氏の政党「ユダヤの力」は議会で6議席、スモトリッチ氏の宗教政党「宗教シオニズム」は7議席を保有しており、連立政権(過半数を8議席上回っている)の存続に両党の支持は不可欠だ。

スモトリッチ氏は、ヨルダン川西岸地区での新規入植の建設式典で、イギリスの措置に「軽蔑」の念を抱いていると語った。

「イギリスはすでに一度、我々の故郷の発祥地への入植を阻止しようとしたことがある。我々は再びそれを許すわけにいかない」と、スモトリッチ氏は述べた。「神のご意志のもと、我々は入植を続ける決意だ」。

この発言は、イギリスがパレスチナを統治し、特に1930年代後半から1940年代後半にかけて、ユダヤ人の入植を制限した時期を指したもの。

イスラエルは1967年の第3次中東戦争でヨルダン川西岸地区と東エルサレムを占領して以来、約160の入植地を建設。約70万人のユダヤ人が暮らすようになった。

国際社会の大多数は、こうした入植を国際法違反とみなしている。昨年7月には、国連の主要な司法機関、国際司法裁判所(ICJ)も、イスラエルによるパレスチナ占領政策は国際法に違反しているという、画期的な勧告的意見を出した。これに対して、ネタニヤフ首相は「うその判断」だとICJを批判した。

英外務省のハミッシュ・ファルコナー中東担当相は10日に議会下院で、2024年には過去20年間で「最も深刻な入植者による暴力行為」がヨルダン川西岸地区で発生したとし、今年も「同様の暴力行為が続く見込み」だと述べた。

ファルコナー氏は、制裁対象のスモトリッチ氏とベン・グヴィル氏について、ヨルダン川西岸地区での「入植者による暴力行為を扇動した責任がある」とし、そうした暴力行為が「パレスチナの民間人の死や、町や村の全住民の避難」につながったと指摘した。

また、英政府が警告したにもかかわらず、スモトリッチ氏とベン・グヴィル氏が「ぞっとする」発言を継続したため、対抗措置を取ったとした。

国際社会の圧力強まる

両閣僚をめぐっては長年、制裁が検討されてきた。

デイヴィッド・キャメロン元首相は昨年10月、外相を務めていた2023年~2024年当時、イスラエルに圧力をかける手段として2人への制裁を計画していたと明かした。

イギリスの今回の決定は、ガザとヨルダン川西岸でのイスラエル政府の活動に対し、さらなる措置を講じるよう求める市民や議会の圧力が高まっていることを表している。

イギリスやそのほかの同盟国の圧力は、着実に高まっている。

先月にはイギリス、フランス、カナダの首脳が、イスラエルが国際法に違反する危険性があるとする共同声明を発表した。イギリスも、イスラエルとの貿易協定に関する協議を停止した。

ラミー英外相は先月に下院で、スモトリッチ氏がパレスチナ人をガザから「一掃する」と述べたことについて、「忌まわしく」「危険な」過激主義だと述べた。

英野党・保守党のプリティ・パテル影の内相は、制裁措置に直接コメントしなかったが、「(ハマスに拘束されている)残りの人質が解放され、必要とする人々に援助が届き続け、紛争の持続的に終結するよう、イギリス政府はあらゆる機会を利用してその影響力を活用しなければならないことを、我々は明確に表明してきた」と述べた。

野党・自由民主党のエド・デイヴィー党首は、制裁措置を歓迎しつつ、前の保守党政権と現在の労働党政権が「行動を起こすまでに時間をかけすぎた」ことが「残念」だと述べた。

イスラエルが2023年10月7日のハマスによる前例のない越境攻撃を受け、ガザで軍事作戦を開始してから、まもなく20カ月が経過する。この越境攻撃では約1200人が殺害され、251人が人質として連れ去られた。

ハマスが運営するガザ地区の保健省によると、それ以降、ガザでは少なくとも5万4927人が殺されている。

(英語記事 UK sanctions far-right Israeli ministers for 'inciting violence' against Palestinians

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c0qgxx2292ko


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