
イギリスとヨーロッパ大陸を結ぶ国際高速鉄道「ユーロスター」は10日、ロンドンとドイツ、スイスの都市をそれぞれ直通で結ぶ新たな路線計画を発表した。
ユーロスターは新型車両を最大50両導入する予定で、約20億ユーロ(約3300億円)を投じる。運行開始は2030年代初頭を目指している。
ロンドン―ドイツ・フランクフルト間の所要時間は約5時間、ロンドン―スイス・ジュネーヴ間は約5時間20分になる見通しだという。
ただし、ロンドン東部にある車庫のスペース確保が課題となっており、事業拡大には不透明な要素も残っている。
ユーロスターのグウェンドリーヌ・カズナーヴ最高経営責任者(CEO)は、運営コストの上昇やインフレによる消費者の予算圧迫といった課題がある中でも、欧州全体で鉄道旅行の需要が強いと述べた。
「国際的で持続可能な新たな鉄道旅行の黄金時代が到来している」とカズナーヴ氏は語り、顧客が「これまで以上に鉄道で遠くまで行きたいと望んでいる」と付け加えた。
今回導入される新型車両は、一部の旧型車両を置き換えるもので、ロンドン発着の列車本数は30%増加する見通しだ。
ユーロスターはまた、オランダ・アムステルダムおよびベルギー・ブリュッセルからジュネーヴへの既存の直通路線にも新型車両を投入する計画を進めており、パートナー企業と連携して運行開始に向けた準備を進めているという。
なお、フランクフルトおよびジュネーヴへの新路線が途中停車駅での乗降を可能とするかどうかについては、現時点で明らかにされていない。
車庫スペースが課題、競合の参入も
しかし、ユーロスターの計画はまだ盤石なものではない。
ロンドン東部にあるテンプル・ミルズ車庫は、ヨーロッパ大陸で使用されている大型車両に対応可能なイギリス国内唯一の施設であり、英仏海峡トンネル経由の路線にも接続している。
この路線を含むインフラ全体は、イギリス国内の高速鉄道を運営する政府組織「ロンドン・セント・パンクラス・ハイスピード(旧ハイスピード1)」が所有している。
現在、この施設はユーロスターが長期リース契約のもとで独占的に使用している。
しかし、ロンドンとヨーロッパを結ぶ列車運行を目指す企業は複数存在する。これには、スペインの新興企業エヴォリン、英富豪リチャード・ブランソン氏率いるヴァージン、そして英ジェミニ・トレインズと米ウーバーの合弁会社などが含まれている。
イギリスの鉄道・道路庁(ORR)はBBCに対し、ユーロスターの運行拡大計画に加え、他社によるテンプル・ミルズ車庫の使用申請についても審査を進めていると明らかにした。
同庁はすでに、同車庫にはユーロスターの車両増備か、競合他社の列車受け入れのいずれか一方には対応可能だが、両方には対応できないとの見解を示している。
ORRは、誰がテンプル・ミルズを使用できるかについて、10月末までに判断を下す予定だという。ただし、同車庫の重要なスペースを競合他社に奪われる可能性があることは、ユーロスターの拡張計画に深刻な影響を及ぼす恐れがある。
この点についてユーロスターは、これまでに「テンプル・ミルズ以外にも多数の選択肢がある中で、新たな車両基地への民間投資を引き続き促進していく」との方針を示している。
ユーロスターは新たな運行計画と併せて、2024年の乗客数が前年比で5%増加したと発表。昨年の全路線における乗客数は過去最多の1950万人に達したという。
また今後、最も人気のあるロンドン・パリ路線では、運行本数を増やすことも明らかにした。
ユーロスターのロンドン発列車は現在、パリ、ブリュッセル、アムステルダムに加え、スキーシーズン中はフランス・アルプス方面にも運行している。
さらに、フランス、ドイツ、オランダ、ベルギー国内でも列車を運行している。
英仏海峡トンネルを所有するゲットリンクは今年2月、ロンドン・セント・パンクラス・ハイスピードと合意を結び、ヨーロッパ方面への列車本数を増やす計画を進めている。