2025年7月16日(水)

BBC News

2025年6月16日

イランのミサイル攻撃を受けた建物(16日、イスラエル・テルアヴィヴ)

ジェイムズ・ランデイルBBC外交担当編集委員

13日未明にイスラエルが開始し、イランが応戦した双方の攻撃は、今のところろこの二国の間に限定されているように見える。国連をはじめとした国際社会の大多数は、両国に自制を呼びかけている。

しかし、その要求を両国が無視したら? 戦いが激化して拡大したら?

あり得る最悪のシナリオを、ほんのいくつか検討してみる。

シナリオ1:アメリカが引きずり込まれる

アメリカ政府は関与を否定しているものの、イランはイスラエルによる一連の攻撃について、アメリカ軍がこれを容認し、少なくとも黙認したと見なしている。

イランは、中東各地に点在するアメリカの拠点を報復攻撃することもできる。あり得る標的には、イラクに駐留する米特殊部隊の拠点や、ペルシャ湾岸地域の米軍基地、さらには各地の米外交施設などが含まれる。

中東各地でイランが支援する武装組織のハマスやヒズボラはかなり弱体化しているものの、イラク国内の親イラン民兵組織は依然として武装し、即応態勢にあるとされる。

アメリカ政府はこうした攻撃の可能性を事前に警戒し、一部の人員を中東地域から退避させていた。アメリカ政府はイランに対し、アメリカの国民や施設に対するどのような攻撃も、イランにとって重大な結果を招くと強く警告している。

では仮に、たとえばテルアヴィヴでアメリカ国民が殺害された場合、どういう事態になり得るのか。

ドナルド・トランプ大統領は、否が応でも対応せざるを得ないかもしれない。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はもう長年にわたり、イランとの対決にアメリカを巻き込もうとしていると批判され続けてきた。

複数の軍事専門家によると、イランの核施設、特にフォルドのように地中深くにある施設を破壊できる大型爆撃機と地中貫通爆弾(バンカーバスター)を持つのは、アメリカだけだ。

トランプ氏は、自分の支持基盤である「MAGA(アメリカを再び偉大に)」層に対し、いわゆる「永遠の戦争」を中東で始めたりしないと約束してきた。しかしその一方で、与党・共和党内には、今こそイランで体制転換を目指すべき時だと、イスラエル政府に同調する声も多い。

仮にアメリカが紛争当事国として本格的に関与するなら、それは重大なエスカレーションとなり、長期的な影響をもたらす可能性があるし、壊滅的な影響につながる可能性もある。

シナリオ2:湾岸諸国が引きずり込まれる

イランがイスラエルの防御を突破できず、警備が厳重なイスラエルの軍事施設などに損害を与えられなかった場合、湾岸地域の、もっと攻撃しやすい他の標的をミサイルで狙うことは常に可能だ。湾岸地域には、イランが自分たちの敵に味方し応援してきたと敵視する国々がある。イランはそうした国を狙うかもしれない。

湾岸地域には、エネルギー関連施設やインフラなど、標的になり得る重要施設がたくさんある。イランは2019年には、サウジアラビアの油田を攻撃したと非難された。また2022年には、イランが支援するイエメンの反政府武装組織フーシ派が、アラブ首長国連邦(UAE)を攻撃したとされているのだ。

その後、イランと一部の湾岸諸国との間では、一定の和解が進んだ。

しかし、こうした国々は米軍基地を抱えている。一部の国は、公然とではなかったにせよ、イランが昨年イスラエルをミサイル攻撃した際には、イスラエル防衛に密かに協力した国もあった。

仮に湾岸諸国が攻撃された場合、その国々はアメリカに対して、イスラエルだけでなく自分たちも、アメリカの戦闘機で守るよう要請するかもしれない。

シナリオ3: イスラエルがイランの核能力を破壊できない

もしイスラエルの攻撃が失敗したら? イランの核施設があまりに地中深いところにあり、あまりに堅牢(けんろう)に守られていたら? もし60%にまで濃縮されたウラン約400キログラムが、破壊されなかったら? そのウランはもうあと少しで兵器級で、核兵器10発分の弾頭が作れる量なのだが。

濃縮ウランは、秘密の坑道の奥深くに隠されているかもしれない。それに、イスラエルは核科学者の一部を殺害したかもしれないが、イランが手にした技術や専門知識を爆弾で破壊することはできない。

仮に今回の攻撃でイラン指導部が、これ以上の攻撃を抑止するにはできる限り素早く核開発を進めるしかないと、そう確信したならば、その先はどうなるのか。

イスラエルに殺害された軍幹部に代わる、新しい幹部たちが、前任者よりも強硬姿勢で、前任者ほど慎重ではないなら、その場合はどうなるのか。

その場合、最低限でもイスラエルは否応なく、ますます攻撃するかもしれない。その場合はこの地域全体が、攻撃と反撃の連鎖に縛り付けられてしまう。イスラエル国内ではこういう戦略を、残酷なまでに端的に「芝刈り」と呼ぶ。

シナリオ4:世界経済に衝撃を与える

原油価格はすでに高騰している

もしイランがホルムズ海峡を封鎖し、石油の流通をさらに制限しようとしたら、どうなるのか。

また、アラビア半島の反対側で、イエメンのフーシ派が紅海での船舶攻撃を強化した場合はどうなるのか。イランが支援する代理勢力のうち、最後に残ったのがフーシ派だとされている。そしてフーシ派が、予測困難で高リスクの行動を好むのは、これまでの活動から実証済みだ。

すでに世界中で多くの国が、生活費の高騰に苦しんでいる。原油価格がさらに上昇すれば、トランプ政権による関税戦争で、ただでさえ軋(きし)んでいる世界経済システムが、インフレという追い打ちをかけられることになる。

加えて、忘れてはならない人物がいる。原油価格の上昇で恩恵を受けるのは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領なのだ。中東産の原油価格が急騰すれば、ロシア大統領府には何十億ドルもの原油収入が流れ込み、ウクライナ侵攻を継続するための軍資金となる。

シナリオ5:イランの政権が崩壊し空白が残る

イランのイスラム革命政権を崩壊させるという、イスラエルの長年の目標が実現したとする。その場合、その先はどうなるのか。

イスラエルのネタニヤフ首相は、イランの核能力破壊することが一番の目的だと主張している。しかし、14日の声明では、幅広い目標には体制転換が含まれていると、はっきり示した。

ネタニヤフ首相は「誇り高きイラン国民」に向け、イスラエルの攻撃は、「邪悪で抑圧的な体制」から「みなさんが自由を手にするため、その道を切り開く」ものだと語りかけた。

イラン政府の打倒は、地域の一部では、特にイスラエルの一部では歓迎されるかもしれない。しかし、その後にどのような空白が残されるのか。どのような、予期できない結果につながるのか。イラン国内で内戦が始まったら、それはどういうものになるのか。

過去にはイラクやリビアで、強力な中央集権政府が取り除かれた後にどうなったか、多くの人が記憶している。

今後の展開は、今後数日間の情勢に大きく影響されるとみられる。

イランがどのように、そしてどの程度の強さで報復に出るのか。また、アメリカがイスラエルに対してどの程度の抑制を働きかけることができるのか――この2点が、今後の中東情勢を大きく左右する鍵となる。

(英語記事 Israel-Iran strikes: What are the worst-case scenarios?)

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cm2y2rzred3o


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