2025年7月16日(水)

BBC News

2025年6月17日

ナタリー・シャーマン・ビジネス記者、リリー・ジャマリ北米テクノロジー記者

ドナルド・トランプ米大統領の一族が経営するトランプ・オーガナイゼーションは16日、新たな通信事業「トランプ・モバイル」を立ち上げた。トランプ大統領の名前を活用した最新のビジネス展開となる。

トランプ氏の息子らが経営するトランプ・オーガナイゼーションは声明で、「アメリカ国内で製造された」金色のスマートフォン「T1」を、499ドル(約7万2000円)で販売すると発表。通信サービスは月額47.45ドルで提供されるとした。この料金は、トランプ氏が第45代および第47代大統領であることにちなんで設定されたという。

倫理監視団体などはこの新事業について、「汚職や利益相反の新たな温床になりかねない」と警鐘を鳴らしている。

また、サプライチェーンの専門家はBBCに対し、部品をすべてアメリカ製でまかなってスマートフォンを製造するのは「事実上不可能だ」と指摘した。

首都ワシントンの市民団体「責任と倫理のためのワシントン市民(CREW)」の広報ディレクター、メガン・フォークナー氏は、「トランプ氏が在任中に個人的な利益を得る新たな手段をまたもや作り出したことは信じがたい」と非難した。

トランプ氏は、自身のビジネスを信託に移し、子どもたちが管理していると主張している。ホワイトハウスも、大統領はすべてのアメリカ国民の利益のために行動しているとの立場を維持している。

しかしフォークナー氏は、この新事業について、トランプ氏に影響を与えたいと考える人々が顧客になる可能性や、大統領が家族の関与する業界に対してどのような政策や規制を行うかといった、これまでと同様の問題を提起していると述べた。

メイド・イン・アメリカ?

テクノロジーの専門家らは、トランプ・オーガナイゼーションが主張する「アメリカ製」のスマートフォンについて、その意味を疑問視しており、現時点でスマートフォンを完全に国内で製造するのは不可能に近いと指摘している。

米ジョンズ・ホプキンス大学のケアリー・ビジネススクールで組織経営を教えるティンロン・ダイ教授は、「動作する試作機すら存在しない。極めて実現性は低い」と述べた。

また、「奇跡が必要だ。それなりの規模の経済が求められる。この種の製品への持続的な需要も必要だ」と付け加えた。

トランプ氏はかねて、米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)に対し、アメリカ向けのiPhoneを国内で製造するよう圧力をかけている。

トランプ氏は先月、アメリカで製造されていないiPhoneに対して、「少なくとも」25%の輸入関税を課すと警告した。

調査会社CCSインサイトのアナリスト、レオ・ゲビー氏は、アメリカには現在、スマートフォンの組み立てに必要な「高度なサプライチェーンがそもそも存在していない」と指摘。トランプ・オーガニゼーションが発表した8月の発売予定には現実味がないとの見方を示した。

一方でゲビー氏は、「外国から輸入した部品を使ってアメリカ国内で組み立てる可能性はある。それが『T1』をアメリカ製だと主張する最も現実的な方法だろう」と述べた。

発表では、通信サービスを運営し、「トランプ」ブランドのライセンスを受けているビジネスパートナーの名称などの詳細は明らかにされていない。

BBCはビジネスパートナーの情報や倫理的懸念への見解、「アメリカ製」との主張の根拠などについてトランプ・オーガナイゼーションに問い合わせたが、現時点で回答は得られていない。

同社は発表の中で、「勤勉なアメリカ国民には、手頃な価格で、自らの価値観を反映し、信頼できる品質を提供するワイヤレス通信サービスが必要だ」としている。

また、国外に駐留する軍人を家族に持つ世帯に対しては、国際電話料金の「割引」を提供する方針も打ち出している。

発表によると、通信サービスの顧客サポートはアメリカ国内に拠点を置く。金色のスマートフォンは、すでに予約受付を開始しているという。

トランプ氏の純資産が2倍に

この新事業は、トランプ氏が大統領就任以前から展開していたビジネス戦略の延長線上にある。トランプ氏は長年、自身の名前をホテル経営者やゴルフ場運営者にライセンス供与し、使用料やロイヤルティーを得る形で収益を上げてきた。

しかし、政界に進出してからの10年間で、「トランプ」ブランドを通じた収益機会は大きく広がった。

最新の財務開示によると、トランプ氏は昨年、「トランプ」ブランドの聖書や腕時計、スニーカー、香水などを含む商品から数百万ドルを得ており、総収入は6億ドル(約860億円)を超えたと報告されている。

米経済誌フォーブスは今年3月、トランプ氏の純資産を51億ドルと推定しており、前年の2倍以上に増加したと伝えた。

この急増の背景には、トランプ氏の「熱狂的な支持層」の存在があるとされており、同氏が運営するソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」を展開する企業の価値を支えていると分析されている。この事業は昨年、トランプ氏の資産の約半分を占めたという。

アメリカの携帯電話市場は現在、AT&T、ベライゾン、Tモバイルの3大通信事業者が支配しており、いずれも月額40ドル未満からの料金プランを提供している。

一方で、これらの大手通信網を借りてサービスを提供する中小規模の事業者も増加しており、低価格や個別プランで、特定の顧客層をターゲットに開拓している。

米連邦通信委員会(FCC)が2024年に発表した報告書によると、「仮想移動体通信事業者(MVNO)」と呼ばれるこうした事業者は、最大手でも加入者数は1000万人未満にとどまっている。

米俳優ライアン・レイノルズ氏が出資していた「ミント・モバイル」は、2023年にTモバイルに13億5000万ドルで買収された。当時のアナリストの推計では、同サービスの加入者数は約200万〜300万人とされていた。

レイノルズ氏は同社の株式の25%を保有しており、この売却によって約3億ドルの利益を得た可能性がある。

(英語記事 Trump Organization enters mobile phone business

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cz097y0mpljo


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