
カナダのマーク・カーニー首相が初めて議長を務めた主要7カ国首脳会議(G7サミット)は、17日までの2日間、綿密に計画された議題を掲げて開催された。
しかしその予定は、イスラエルとイランの間で新たに勃発した戦争と、アメリカのドナルド・トランプ大統領による早期退席によって大きく狂わされた。
それでもカーニー首相は17日、「このサミットは、短期的な効率性よりも長期的な強靱(きょうじん)性を重視する新たな協力の時代の始まりとなる」と述べた。
カナダ・カナナスキスで行われた劇的なG7サミットから、五つの注目点を取り上げる。
トランプ氏の突然の離脱
G7を構成するイタリア、アメリカ、フランス、ドイツ、イギリス、カナダ、日本の各国首脳のうち、17日の会合はトランプ米大統領が欠席し、1人少ない状態で行われた。トランプ氏は、サミットを途中退席して首都ワシントンに戻るという、予期せぬ決断を下した。
各国の首脳は、この突然の退席について前向きな姿勢を示した。
カナダのカーニー首相は、大統領の決断を完全に理解していると述べた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、記者から事実上G6になったのではないかと問われた際、「無礼な質問だ」と一蹴した。
トランプ大統領は、イスラエルとイランの間で急速に展開する情勢を理由に退席したと説明した。アメリカからはスコット・ベッセント財務長官が現地に残り、引き続き会議に参加した。
「G7リサーチ・グループ・ロンドン」のデニス・ルディッチ代表は、トランプ氏の退席は必ずしも悪いことではなかったと指摘した。
ルディッチ氏によると、大統領が出席していた間、各国首脳は「薄氷を踏むような」雰囲気で、笑顔を見せながらも「何が起きるか分からない」という緊張感を漂わせていたという。
しかし翌日には、首脳らはよりリラックスした様子を見せ、「演出されたような印象はなく、自然な雰囲気だった」という。
ただしトランプ大統領は、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領、オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相、メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領との予定されていた会談をキャンセルすることになった。
イスラエルとイランの戦争
17日までに、世界の関心はカナダ・ロッキー山脈の山岳リゾートで開催されていたG7サミットから、中東で進行中の紛争、およびアメリカが今後どのような対応を取るのかという不確実性へと移っていた。
この紛争は、サミット初日の議論にも影を落とし、首脳らは中東地域の緊張への対応で足並みをそろえようとした。
最終的には、アメリカを含む7カ国すべてが、「ガザでの停戦を含む、中東における敵対行為の緩和」を求める共同声明を発表した。ただし、イスラエルとイランの間の停戦には言及しなかった。
その後、トランプ氏は、アメリカが停戦に向けて動いていると示唆したマクロン大統領を、「注目を集めようとしている」と非難した。
これに対しマクロン氏は17日、その選択肢について議論していたのはトランプ氏の方だと反論した。
「アメリカの政権の方針転換について、私に責任はない」とも、マクロン氏は述べた。
こうした応酬があったものの、共同声明は各国の結束を示すものとなった。
ウクライナ、インド、外交
ウクライナに関しては、ゼレンスキー大統領が今回のサミットでカナダから新たな支援を得たものの、共同声明による支持は得られなかった。
報道によると、カナダは当初、戦争に関する強い声明を発表する予定だったが、アメリカの反対により断念したとされている。
この点について問われたカーニー氏は、意見の不一致はなかったとし、議長声明でウクライナに言及したと述べた。
この声明では、G7各国が「ウクライナにおける公正かつ持続的な平和の実現に向けたトランプ大統領の努力を支持する」と表明するとともに、ロシアに対して停戦への合意を求めた。
また、「ロシアへの圧力を最大化するため、金融制裁を含むあらゆる選択肢を検討する決意がある」とも記した。ただし、トランプ大統領はこうした制裁に慎重な姿勢を示している。
カーニー氏には、国内で波紋を呼ぶ可能性のあるもう一つの問題があった。インドのナレンドラ・モディ首相のサミット出席は、カナダ国内のシーク教徒の間で緊張を生んだ。
カナダでは2023年、インドからの分離独立を主張するシーク教指導者が暗殺される事件が発生。カナダ政府が、この事件にインド政府の職員が関わっていると述べたことで関係が悪化し、2024年に双方が外交トップを追放した。
カーニー首相の事務所によれば、インドとカナダは今回、外交サービスを回復することで合意したという。
両首脳の会談内容によると、カーニー氏は「国境を越えた犯罪と弾圧、安全保障、ルールに基づく国際秩序」について言及したとされている。
こうした中でも、カナダとイギリスで中央銀行総裁を歴任したカーニー首相は、初のG7サミットを首相かつ議長として迎え、人工知能(AI)や量子コンピューティング、移民の密入国、重要鉱物などの分野で共同声明を取りまとめるという成果を残した。
前述のルディッチ氏は、「このアプローチはシンプルで、詳細かつ行動重視だった。まさに銀行家らしい」と評価した。
また、気候変動という言葉を明示せずに山火事対策での国際協力を強化する合意を例に挙げ、「成果重視の外交姿勢」を称賛した。
カーニー首相が求めていた貿易合意
今回のサミットで最も注目を集めた場面の一つは、トランプ大統領とカーニー首相による会談だった。
両国は、先月開始された協議を経て、報復関税をめぐる対立の解消に向けた貿易・安全保障協定の締結に近づいていると報じられている。
トランプ大統領は、「自分は関税主義者だが、カーニー首相はもっと複雑な考えを持っている」と述べ、依然として課題が残っていることを認めた。
しかし、カーニー首相の事務所は声明で、「両首脳は今後30日以内に合意に向けた交渉を進めることで一致した」とし、両者の立場の違いは乗り越えられるとの見方を示した。
カーニー首相はこの期限について、「カナダの利益を最優先に、アメリカの利益とも整合するよう」合意を目指すと述べた。
今回のG7サミットはまた、カーニー首相にとって、複数の各国首脳に対してカナダとの貿易を売り込む機会ともなった。
首相は、カナダ経済をG7で最も強固なものとするという高い目標を掲げており、同時にアメリカへの過度な経済依存からの脱却も目指している。
17日には、欧州当局がカナダとの防衛調達協定の締結に近づいていると明らかにした。カナダは、アメリカ製装備への依存を減らすことも目指している。
一方のトランプ大統領は
トランプ大統領は、今回のサミットで何を求めるかを率直に語っていた。貿易協定だ。
カーニー首相は協定の締結には至らなかったが、イギリスのスターマー首相とトランプ大統領は、先月に合意した関税協定の一部を発効させたことを受け、笑顔で会談に臨んだ。
他の多くの首脳も、関税や貿易問題についてトランプ大統領に明確な姿勢を求めていた。
日本の石破茂首相もカナダと同様、トランプ大統領との間で大きな進展は得られなかったが、貿易協議を継続することで一致した。
石破首相は記者団に対し、「ぎりぎりまで交渉し合意の可能性を探ってきた。いまなお双方の認識が一致していない点が残っている」と述べた。
アメリカにも一定の圧力がかかっている。トランプ大統領は、自らが設定した7月9日という期限までに貿易協定をまとめると約束している。これは、トランプ氏が「解放の日」と読んだ関税の90日間の猶予期間の終了日でもある。
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、アメリカと欧州連合(EU)の間で進行中の貿易協議について、「複雑」だが「前進している」と述べ、7月までの合意を目指していると明らかにした。
(英語記事 Trade, a sudden exit, Middle East conflict - five takeaways from G7)