
ナタリー・シャーマン、BBCニュース
日本製鉄は18日、長期にわたって難航していたアメリカの鉄鋼大手USスチールの買収を完了した。経営に関して、米政府に異例の権利を認めた。
日鉄は買収に149億ドル(約2兆1600億円)を投じた。世界最大規模の鉄鋼メーカーが誕生し、米鉄鋼業界の主要企業となる。
2023年に発表された買収計画は、経営難に陥っていた、124年の歴史を誇るUSスチールを救うとされていた。
しかし、昨年の米大統領選挙で暗礁に乗り上げた。共和党のドナルド・トランプ大統領と民主党の対立候補の双方が、アメリカ最後の鉄鋼大手の一つを外国企業が買収することに懸念を示した。
だがその後、日鉄が譲歩し、トランプ氏は態度を一変させた。トランプ氏は、国家安全保障上の心配が取り除かれたと表明。
トランプ氏は13日、買収を正式に認める大統領令を出した。
日鉄はUSスチールの株式を1株あたり55ドルで買い取り、同社の負債を引き受けることで合意した。支払い総額は149億ドルとなった。
また、2028年までに110億ドルをUSスチールに投資することを、米政府に約束した。これには、同年以降に完成する新たな設備も含まれるという。
このほか、米政府にUSスチールの「黄金株」を発行し、重要な決定に対する拒否権を与えた。雇用や生産の国外移転や、工場の閉鎖や休止などの決定が対象となる。
日鉄はさらに、USスチールの本社をペンシルヴェニア州ピッツバーグに残し、最高経営責任者や取締役会の過半数など、経営の要職に米国民を起用することを約束した。
社名と本社はそのまま
日鉄とUSスチールは声明で、「本パートナーシップにより、USスチールは象徴的な社名とペンシルヴェニア州ピッツバーグの本社を維持し、今後何世代にもわたって、米国において原料採掘から製品製造までを一貫して運営し続ける」とした。USスチール株の取引は停止された。
両社は、この買収で「10万人以上の雇用を維持、創出する」とした。
トランプ氏は、米鉄鋼業の保護を経済政策の重要な柱にしている。国内メーカーの利益のため、鉄鋼の輸入関税を50%に引き上げている。
トランプ氏は、日鉄の投資がなければUSスチールは雇用を減らす可能性があると地元当局者らから話を聞き、買収について考えを変えたと述べた。
USスチールの労働組合のリーダーらは、買収に反対していた。ジョー・バイデン前大統領も任期終了の直前、買収の阻止に動いた。
日鉄とUSスチールはその後、バイデン氏が国家安全保障の問題に関する見直しを不適切に政治利用したとして、訴訟を起こした。
全米鉄鋼労働組合のデイヴィッド・マコール会長は声明で、日鉄が最終合意で大統領に、「驚くべき個人的支配権」を与えたとし、USスチールへの注目は今後薄れていくだろうと予測。
「しかし、私たちの組合は残る。私たちは監視を続け、日鉄に約束を守らせる」とした。
(英語記事 Japan's Nippon seals controversial US Steel deal after Trump pact)