2025年7月16日(水)

BBC News

2025年6月19日

米ワシントンの連邦最高裁判所前でプラカードを掲げる、未成年の性別違和治療禁止法の支持者と反対派

アメリカの連邦最高裁判所は18日、トランスジェンダーの未成年に医師が性別違和(性同一性障害)の治療を行うことを禁じるテネシー州法を支持する判断を出した。25の州で同様の州法が成立していることから、今回の決定は全米各地に影響を及ぼす可能性がある。

最高裁判事は6対3の多数決で、未成年者が二次性徴抑制のホルモン治療などを受けられないようにする、テネシー州が2023年に定めた法律について、差別にはあたらないと判断した。

テネシー州の10代のトランスジェンダー3人とその親、性別違和の治療を行う医師1人は、未成年者の性別違和治療を禁止する同州法は性別による差別であり、法の下の平等な保護を保証する米国憲法に違反するものだと訴えていた。

この訴訟は、連邦最高裁がトランスジェンダーの医療問題を扱った初めてのケース。

判決文を作成したジョン・ロバーツ最高裁長官は、SB1法として知られるテネシー州法はトランスジェンダーの人々を差別するものではないとした。

また、「テネシー州は、性別違和や性同一性障害、性別不合を治療するために二次性徴抑制剤やホルモン剤を投与することに伴うリスクと利益の両方の議論が続いていると結論付けた」とした。

「このような治療を禁止するSB1法は、その不確実性に直接対応するものだ」と、ロバーツ長官は結論付けた。

「性別に基づく医療差別」

テネシー州法は、「未成年者が生物学的な性と異なるアイデンティティーを持つことや、自認する性別として生活すること」を可能にする医療行為や、「生物学的な性と自認する性の不一致による不安や苦痛」を治療することを禁止している。

二次性徴抑制剤やホルモン治療は、性別違和治療以外の医療行為にも広く使用されている。今回訴えを起こしたテネシー州の複数の家族は、同州法は他の医療目的で同じ薬を使用する未成年者には適用されないため、自分たちの子供は不当に標的にされていると主張した。

また、子どもに必要な医療に親がアクセスする権利を侵害しているとも訴えた。

リベラル派の判事、ソニア・ソトマイヨール氏、エレナ・ケイガン氏、ケタンジ・ブラウン・ジャクソン氏の3人は、今回の判断に反対した。

ソトマイヨール判事は法廷で、自身が作成した反対意見を読み上げた。その中で、この禁止措置は「性別に基づく医療差別」につながると、強い異議を表明。この判決により、「最高裁はトランスジェンダーの子どもたちとその家族を政治的な思いつきに委ねることになった」と指摘した。

「最高裁は、トランスジェンダーの子どもたちと、その子らを愛する親や家族に対し、計り知れない害をもたらすことを、何の躊躇(ちゅうちょ)もなく許可した」とも、ソトマイヨール氏は主張した。

この訴訟では、ジョー・バイデン前政権は家族側を支持していた。1月に発足したドナルド・トランプ政権は、前政権の主張を支持しないと裁判所に通知したものの、裁判所が判断できるよう、訴訟の継続は容認するとした。

テネシー州のジョナサン・スクメッティ司法長官はソーシャルメディアで、「画期的な勝利」だと判決を歓迎した。

「これは科学的根拠に基づく医療の大きな勝利であり、民主主義の大きな勝利だ。州政府が州法を決定できることを示すものだ」

スクメッティ州司法長官とテネシー州は、性別違和治療は「不可逆的」であるため、こうした禁止措置が必要だと主張している。

一方でトランスジェンダーの権利を擁護する人々は、二次性徴抑制剤などは完全に可逆的なものだと反論。こうした治療へのアクセスを禁止することで、より大きなリスクをもたらすとしている。

アメリカの主要なLGBTQ(性的少数者)人権団体ヒューマン・ライツ・キャンペーン(HRC)は、「壊滅的な」決定だとしている。

「最高裁は、医師や患者とその家族が下すべき医療的決定に、政治家が介入することを許した。最も必要な時に正義を求めた子どもたちへの非情な裏切りだ」と、HRCのケリー・ロビンソン会長は声明で述べた。

(英語記事 US Supreme Court upholds Tennessee ban on gender transition care for minors

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cr4wxdv2nqdo


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