2025年7月16日(水)

BBC News

2025年6月20日

マーク・ポインティング気候変動記者

地球で現在の二酸化炭素(CO2)排出量の水準がこのまま続けば、象徴的な気温上昇幅の限界とされている摂氏1.5度を、わずか3年で突破する恐れがあることが、最新の研究で明らかになった。

この厳しい警告は、世界の著名な気候科学者60人以上による、地球温暖化の現状に関する最新の評価報告に基づくものだ。

2015年には、約200カ国が、19世紀後半の工業化以前と比べて気温上昇を1.5度以内に抑えることを目指す歴史的な「パリ協定」に合意した。これは、気候変動による最悪の影響を回避するための措置とされている。

しかし、各国は依然として石炭、石油、天然ガスの使用量を過去最高水準で維持し、炭素を多く取り込む森林の伐採も続けている。このため、国際的な目標の達成は危機にひんしているとされている。

今回の報告書の筆頭著者で、英リーズ大学プリーストリー気候未来センターの所長を務めるピアーズ・フォースター教授は、「すべてが間違った方向に進んでいる」と述べた。

「前例のない変化だけでなく、地球の温暖化や海面上昇の加速も確認されている」

これらの変化についてフォースター教授は、「以前から予測されていたもので、非常に高い排出量が直接的な原因なことは明らかだ」と指摘した。

科学者らは2020年初頭、地球の気温上昇を1.5度までに抑える可能性を50%に保つためには、人類が排出できるCO2の量はあと5000億トンと試算していた。

しかし最新の研究によると、2025年初めにはこの「カーボンバジェット(炭素予算)」が、1300億トンにまで縮小していることが判明している。

炭素予算の縮小は、主にCO2やメタンなどの地球温暖化を引き起こす温室効果ガスの排出が過去最高を更新し続けていることに加え、科学的な推定精度の向上によるものとされている。

現在の年間約400億トンという高水準のCO2排出量が続いた場合、残された1300億トンの炭素予算は、約3年で使い果たされる計算になる。

研究者らは、このままではパリ協定で定められた目標の達成が困難になる可能性があると警告している。ただし、地球の気温の上昇幅が人為的な影響によって1.5度を超えるのは、それより数年後になるとみられている。

昨年には観測史上初めて、世界の平均気温が19世紀後半の水準を1.5度以上、上回った

ただし、12カ月間という1回の期間での上昇は、パリ協定の目標を正式に逸脱したとは見なされていない。2024年の記録的な高温には、自然の気象パターンによる影響も加わっていたとされている。

それでも、昨年の高温の主因は人為的な温暖化で、工業化以前と比べると1.36度上昇していたと、研究者らは推定している。、

現在の温暖化の速度は、10年あたり約0.27度とされている。これは、地質学的な記録の中でも類を見ない速さだ。

このまま排出量が高水準で推移すれば、地球の気温は2030年ごろに1.5度の上昇に達する見通しだという。

この水準を超えた後でも、大量のCO2を大気中から除去すれば、長期的には気温上昇を抑えることが理論上は可能とされている。

しかし、報告書の著者らは、こうした野心的な技術を免罪符とすることに警鐘を鳴らしている。

「(1.5度を)大きく超過した場合、現在の排出による温暖化を完全に逆転させることは、(CO2)除去技術でも難しくなる」と、英インペリアル・コレッジ・ロンドンのヨエリ・ロヘリ教授(気候科学と政策)は警告した。

「ほんの少しの温暖化」も問題に

今回の研究には、すでに進行している気候変動の深刻さを示す衝撃的な統計が数多く盛り込まれている。

中でも特に注目されるのは、「地球のエネルギー不均衡」と呼ばれる、地球の気候システムに余剰熱が蓄積される速度だ。

過去10年ほどの間に、この加熱の速度は1970年代~1980年代の2倍以上となり、2000年代後半から2010年代にかけての水準と比べても約25%高くなっていると推定されている。

イギリス気象庁に勤める英ブリストル大学のマシュー・パーマー准教授は、これほど短期間で「これほど大きな数値が出るのは非常にやっかいだ」と述べた。

この最近の急増は、根本的には温室効果ガスの排出によるものだが、エアロゾルと呼ばれる微小粒子による冷却効果の減少も一因とされている。

この余剰エネルギーは行き場を求める。陸地を温め、気温を上昇させ、氷を解かすなどの形で現れるが、約90%は海洋に吸収されている。

これは海洋生態系への影響だけでなく、海面上昇にもつながる。温かい海水は体積が増えるうえ、氷河の融解によって海に流れ込む水も加わるためだ。

世界の海面上昇の速度は1990年代以降で2倍に達しており、世界中の沿岸地域に住む数千万人にとって洪水のリスクが高まっている。

こうした状況は厳しい現実を突きつけているが、報告書の著者らは、クリーン技術の導入が進む中で、排出量の増加ペースが鈍化している兆しも見られると指摘している。

そのうえで、「迅速かつ厳格な」排出削減が、これまで以上に重要だと強調している。

パリ協定の目標は、気温上昇幅が2度に達した場合、1.5度と比べて気候変動の影響がはるかに深刻になるという強固な科学的根拠に基づいて設定されている。

この目標はしばしば、1.5度未満なら「安全」で、1.5度を超えると「危険」と単純化されがちだが、実際には、わずかな気温上昇でも異常気象や氷の融解、海面上昇の深刻さが増すことが明らかになっている。

前出のロヘリ教授は、「今後10年間の排出削減は、温暖化の速度を大きく変える可能性がある」と述べた。

「回避できる気温上昇の分だけ、特に貧困層や弱い立場の人々への被害や苦しみを減らすことができるし、私たちが望む社会生活を維持するための課題も軽減される」

(英語記事 Three years left to limit warming to 1.5C, leading scientists warn

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c873052x82lo


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