2025年7月16日(水)

BBC News

2025年6月20日

イスラエルの攻撃を受けてイラン国営放送(IRIB)の建物から黒煙が上がった(16日、テヘラン)

イランとイスラエルは13日以来、互いに攻撃を続けている。こうした中、アメリカのドナルド・トランプ大統領は、アメリカがこの紛争に加わる可能性について問われ、「やるかもしれないし、やらないかもしれない」と述べた。

現状と今後の展開について、BBCの専門家や特派員が視聴者や読者の質問に答えた。

なぜイスラエルは今、イランを爆撃しているのか

そうするしかないのだというのが、イスラエルの姿勢だ。この数カ月というものイランは核兵器の開発を加速させ、イランの核開発を抑制するための協議は膠着(こうちゃく)し、ゆえに今回の行動は「最後の手段」だった――というのが、イスラエルの主張だ。

イランからの脅威はイスラエルの存在そのものを脅かすもので、イランが核兵器を手に入れれば、それを使うはずだとイスラエルは主張する。というのもイランはかつて、イスラエル国家の破壊を誓ったことがあるからだ。

ただし、イランが核兵器の完成に近づいているという見解は、イスラエルを除き、中東地域では必ずしも共有されていない。国際原子力機関(IAEA)も共有していない。アメリカ政府が最後に公表した情報諸機関の報告も、イランが近く核兵器を製造するという見解は示していない。

(フランク・ガードナー、BBC安全保障担当編集委員)

イランの民間人はどこへ避難できるのか

イスラエル国防軍(IDF)は、イランの首都テヘランの一部地域に対して避難命令を出した。ただし、対象となったのは、極めて人口密度が高い地域だ。

首都から国の北部へ逃れようとする住民の車が長蛇の列をなして大渋滞する、そうした写真や映像を私たちは見ている。

イラン北部は比較的安全だとされているものの、そこもすでに攻撃されている。イスラエルによる攻撃があまりに広範囲に及んでいるため、安全と言える地域は存在しない状況だ。

テヘランでは当局が、地下鉄駅の構内を24時間開放し、市民が避難所として使えるようにすると発表した。

テヘランの人口は約1000万人に上る。このため、全住民の避難が決して現実的でないのは、容易に想像できる。

(ナフィセ・コーナヴァルド、BBC中東特派員)

アメリカが参戦したら、イランはアメリカの標的を攻撃するのか

そのリスクは間違いなくあるし、そのような事態になればアメリカはかなりの影響を受ける。

中東全域の19カ所に、アメリカ兵4万〜5万人が駐留している。キプロスにもアメリカ軍関係者がいるし、バーレーンには米海軍施設もある。

アメリカがどのように、そしてどの程度、関与すると決めるかによって、今後の展開は大きく左右される。

(マイキー・ケイ、BBC番組「セキュリティ・ブリーフ」司会者)

イランの代理勢力は対イスラエル紛争でイランを支えるか

そうは思わない。もはや、そうならないと思う。

2023年10月7日にイスラム組織ハマスがイスラエルを攻撃して以降、イスラエルはイランの一番の防衛線を体系的に破壊してきた。

イスラエルはパレスチナ・ガザ地区で、ハマスの戦力を枯渇(こかつ)させた。レバノンでは、イスラム教シーア派組織ハマスの戦力をほとんど奪った。

そしてシリアでは、イスラエルによってではないものの、バッシャール・アル・アサド大統領が失脚。このためシリアはもはやイランの同盟国ではない。

イエメンの反政府勢力フーシ派は、イエメンで比較的、抑え込まれている。このため統制のとれた動きができない。

(フランク・ガードナー、BBC安全保障担当編集委員)

イランの指導者は誰で、どれくらい支持されているのか

アリ・ハメネイ師がイランの最高指導者だ。宗教指導者だが、イランの大統領よりもはるかに大きい権限を持っている。

軍の最高司令官であると同時に、イラン国家の意思決定を担う。アメリカとの交渉でも、ハメネイ師が決定権を持つ。

ただし、国民的な支持を得ているわけではない。イラン国民は分裂しており、その溝は深まっている。

イランでは2022年9月から、大規模な反体制デモが各地で起こり参加した多くの女性が権利と自由を要求した。

とはいえ、現政権には依然として一定の支持層が存在することも無視できない。特に、軍内部では政権と結びついた勢力が、現体制を支持し続けている。

(ナフィセ・コーナヴァルド、BBC中東特派員)

イランの現政権が倒されたらどうなる

はっきりした答えはない。

現政権にとって代わるため協力できるような、統一的な反政府勢力はイランに存在しないというのを、私たちはここ数年、目の当たりにしてきた。

今は複数の選択肢が取り沙汰されている。その一人が、亡命中のレザ・パーレヴィ元皇太子だ。

国外在住のパーレヴィ氏はイラン内外に一定の支持者を持つとされるが、それがどれくらいの規模なのかは不明だ。

他方、国内の改革派を含め、元皇太子に反対する勢力もいる。約40年前に打倒された王政への回帰を、国民の多くは望まないかもしれない。

そのため、仮に現政権が倒されたとしても、その後に誰か一人が代わりになれるのかは、はっきりしない。

(ナフィセ・コーナヴァルド、BBC中東特派員)

フォルドとは? どこにある?

フォルドとは、イランが持つ二つの重要なウラン濃縮施設の一つで、テヘランから南へ約200キロにある。

施設を攻撃から守るため山中に建設されており、イランにとって濃縮ウランの備蓄を増やすために欠かせない濃縮施設のひとつだ。

イスラエル国防軍(IDF)はすでに、フォルド攻撃を実施している。ただしこれは主に、フォルドの守りを弱体化させるための、主にイランの地対空ミサイルや防空システムを標的にした攻撃だったとみられている。

(マイキー・ケイ、BBC番組「セキュリティ・ブリーフ」司会者)

イランは原爆入手にどれだけ迫っているのか

イランが核兵器の開発を進めていたのかどうかについて、確実に把握しているのは、イランの核科学者や安全保障体制の幹部、そして最高指導者のみだ。それ以外の人が知り得ることは、推測の域を出ない。

しかし、IAEAは今月初め、イランが約20年ぶりに、核拡散防止条約(NPT)の順守義務に違反していると指摘した。IAEAによると、イランは60%まで濃縮されたウランを約400キログラム保有。これは民生の原子力利用に必要なレベルをはるかに超えた、高濃縮ウランだ。

IAEAは、イラン当局の協力は不十分で、濃縮ウランを兵器開発に転用していないと、IAEAとして確認できなかったと報告している。ただしこれは、イランが原爆開発に邁進(まいしん)していると主張するのとは異なる。

イスラエル軍は先週、「ここ数カ月の情報は、イランが前にも増して核兵器入手に近づいていることを示している」と発表した。

しかし、それは誰による情報なのか。最も近い同盟国アメリカからの情報ではなさそうだ。アメリカ国家情報長官のタルシ・ギャバード氏は今年3月、連邦議会に対して、「イランは前例のない量の兵器級ウランを保有しているものの、核兵器の製造に着手しているようには見えない」と証言していた。

他方、イラン政府は一貫して、自分たちの原子力開発事業は完全に平和的なものだと主張し続けている。

(フランク・ガードナー、BBC安全保障担当編集委員)

イスラエルは核兵器を持っているのか

イスラエルは、約90発の核弾頭を保有すると推定されている。ただし、「わからない」というのが本当の答えだ。

イスラエルはこれまで、核兵器保有について肯定も否定もしてこなかった。

イスラエルは、核拡散防止条約(NPT)の締約国でもない。NPTは、核兵器の拡散を防ぐために締結された国際的な枠組みだ。

核兵器を持つには、三つの要素が必要とされている。第一に、90%まで濃縮されたウラン、第二に核弾頭の製造能力、そして第三にその弾頭を標的まで到達させる手段だ。

イスラエルはこれまで、この三つのいずれについても、公式に表明していない。

(マイキー・ケイ、BBC番組「セキュリティ・ブリーフ」司会者)

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c4ge77rjrjko


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