
米ニューヨークにあるコロンビア大学で昨年続いた、パレスチナ・ガザでの戦争をめぐる抗議活動に参加したとして、3月から移民管理当局に拘束されていた、シリア出身の同大の元大学院生マフムード・ハリル氏が20日、ルイジアナ州の留置施設から保釈された。ハリル氏は、ドナルド・トランプ政権が学生の抗議デモを取り締まる中で、「標的とする人を間違えている」と訴えた。
ニュージャージー州の連邦地方裁判所は20日、ハリル氏が逃亡したり、地域社会に脅威を与えたりする恐れがないと判断し、同氏の入管関連手続きが続く中での保釈を認めた。
ハリル氏は、昨年のコロンビア大学でのパレスチナ支持活動の中心的存在だった。3月8日に拘束されると、ニューヨークやワシントンで抗議デモが起きた。
アメリカ政府は、ハリル氏の活動がアメリカの外交政策を妨げるものだとして、国外追放する方針だった。
こうした中、ニュージャージー州の連邦地裁のマイケル・ファービアーズ判事は今月11日、ハリル氏について、トランプ政権が国外追放も拘束の継続もできないとの判断を示していた。
「抗議しただけで拘束」と批判、政権は「米外交に有害」と
拘束されていたルイジアナ州の留置施設からニューヨークへ向かう前、ハリル氏は記者団に対し、息子と妻に会うのが何より楽しみだと語った。息子はハリル氏の勾留中に生まれた。
「これまで息子と過ごせたのは、政府が定めた1時間の面会時間だけだった」と、ハリル氏が述べた。
「やっと時計を気にせずに、息子と妻ヌールを抱きしめられる」
ハリル氏はまた、パレスチナ・ガザ地区でのイスラエルの軍事行動に抗議したことを理由に、トランプ政権が自分を標的にしたことを批判した。「ジェノサイド(集団虐殺)に抗議しただけで拘束されるべき人などいない」。
一方で、ガザでのジェノサイドを強く否定するイスラエルや、ユダヤ人については具体的に発言しなかった。
ホワイトハウスのアビゲイル・ジャクソン報道官は声明で、ハリル氏が「詐欺行為と虚偽の主張」を行い、「アメリカの外交政策に有害な行動」を取ったと非難した。
ホワイトハウスは、ファービアーズ判事にはハリル氏の保釈を命じる管轄権はないと主張している。
「控訴審で我々の主張が認められ、ハリル氏を国外追放できるようになると期待している」と、ジャクソン報道官は述べた。
アメリカ永住権を持つハリル氏は、勾留中に大学院を卒業した。妻が代わりに卒業式に出席し、卒業証書を受け取った。
拘束の理由は
ハリル氏は具体的な罪状で起訴されていない。
マルコ・ルビオ国務長官は、移民国籍法のこれまであまり適用されてこなかった条項を根拠に、ハリル氏の存在が「外交政策に深刻な悪影響を及ぼす可能性がある」と主張した。
しかし、ファービアーズ判事は先週、ルビオ氏が提示した根拠は違憲である可能性が高いとし、合法的な永住権保持者をそのような理由で拘束・国外追放することはできないと判断を示した。
その後、政府側の弁護団は、ハリル氏は2024年に永住権を申請した際に情報を提示しなかったために拘束されたのだと、別の理由を挙げた。
ハリル氏の弁護団は、政府がハリル氏の言論の自由を侵害し、抗議デモにおける同氏の役割を理由に標的にしたと主張。ニュージャージー州の連邦地裁に対し、ハリル氏の保釈を認めるか、妻と赤ちゃんがいる場所の近くに移送するよう求めていた。
ファービアーズ判事は20日、約2時間にわたる審理で、ハリル氏の入管関連手続きが進められる間、同氏の勾留を継続するという政府側の要請を疑問視した。
また、政府が新たに挙げた理由に基づいて拘束されるのは、「非常に異例」のことだと指摘した。
「合法的な永住者がこのような理由で拘束される可能性は、極めて低い」と、ファービアーズ判事は述べたと、アメリカでBBCと提携するCBSニュースは伝えた。
同判事は、「入管関連の容疑を、抗議活動に対する懲罰として利用しようとしている」と付け加えた。
保釈条件
保釈にあたり、電子監視装置の装着は不要とされ、パスポートとグリーンカードの謄本認証が交付される。
パスポートの実物は、政府が今後も保管し、このため国外渡航は禁止される。裁判所は、国外への渡航を禁止したが、出廷や弁護士との面会を理由としたニューヨーク、ミシガン、ニュージャージー、ルイジアナ各州への移動は許可される。ロビー活動や法的手続きのためにワシントンへ移動することもできる。
「この国で声を上げれば投獄されてしまうと、人々が恐れることがあってはならない」と、ニューヨーク大学法科大学の移民権利クリニックのアリーナ・ダス共同所長は述べた。ダス氏は20日、ハリル氏の保釈を訴えるために出廷した。
「ハリル氏がようやく家族と再会できるのを非常にうれしく思う。我々は引き続き、法廷で闘い続ける」と、ダス氏は述べた。
ハリル氏の妻ヌール・アブダラ氏は、米自由人権協会(ACLU)を通じて声明を発表。「3カ月以上の拘束を経て、マフムードが私と(息子)ディーンのもとへ帰ってくるとの知らせを受け、私たちはようやく安堵している。息子はそもそも、父親とばらばらにされるべきではなかった」と述べた。
(英語記事 Columbia graduate Mahmoud Khalil released from detention)