
イギリスの首相官邸は22日、アメリカがイラン核施設を空爆したことを受け、キア・スターマー英首相がドナルド・トランプ米大統領と電話で協議したと発表した。
英首相官邸の報道官は、両首脳が、イランができるだけ早く交渉の席に戻り、恒久的な解決に向けて前進する必要性について協議したと説明した。
スターマー氏は先に、アメリカがイラン国内の核施設3カ所を空爆したことを受けて、中東やそれ以外の地域にまで、「事態の激化が拡大するおそれがある」と警告していた。
スターマー氏は、「事態の安定化」と外交的解決の実現に向けて全力を尽くしている」と国民に伝えたいとした。
今回のイラン空爆にイギリスが関与した事実はないが、アメリカから事前通告を受けていたと、スターマー氏は明かしていた。
英首相官邸の報道官によると、両首脳はイランの核開発計画が国際的な安全保障に与える「深刻なリスク」について改めて確認した。
「両首脳は、脅威の軽減を目的とした21日夜のアメリカによる措置について協議し、イランは決して核兵器を保有すべきでないという点で一致した」、「今後数日間、緊密に連絡を取り合うことで合意した」と、同報道官は付け加えた。
スターマー氏は22日午後、緊急事態対策委員会「COBRA会議」を開き、エマニュエル・マクロン仏大統領やフリードリヒ・メルツ独首相ら各国首脳と電話で協議した。
その後、英仏独はイランに対し「地域の安定を脅かすような行動をこれ以上は取らない」よう求めた。
「我々は緊張を緩和し、(イランとイスラエルの)紛争が激化・拡大しないよう、共同で外交努力を継続していく」と共同声明で述べた。
同日夜、デイヴィッド・ラミー英外相は、イランとイスラエル双方の外相と協議し、「この危機を終わらせるため、外交的な、交渉による解決を要請した」と、ソーシャルメディアに投稿した。
アメリカは21日夜(日本時間22日午前)、イスラエルのナタンズ、イスファハン、フォルドにある核関連施設3カ所を空爆したと発表した。
ピート・ヘグセス国防長官は22日朝、記者会見を開き、前日のイラン空爆について説明。「私たちはイランの核開発計画に壊滅的な打撃を与えた」と述べた。
これに対し、イランのセイエド・アッバス・アラグチ外相は、アメリカによる攻撃は「言語道断」であり、「永続的な影響をもたらす」ものだと警告した。
イランの核開発は「脅威」とイギリス
スターマー首相氏は22日、首相公式別荘「チェッカーズ」で、事態の激化は中東そして「中東を越えて」リスクをもたらすと述べた。
「だからこそ、我々は事態の緩和や、核開発計画をめぐる非常に現実的な脅威に関する交渉に戻るよう人々を説得することに、全力を注いでいる」
そのうえで、イギリスは「イランが核兵器を保有してはならないとの立場を明確にしている」とし、同地域の安定が優先事項だと付け加えた。
ジョナサン・レイノルズ英ビジネス相もBBC番組「サンデー・ウィズ・ローラ・クンスバーグ」で、「イランは、抽象的な意味でも仮定的な意味でもなく、この国にとって脅威だ」と述べた。
「責任ある英政府が、イランの核兵器保有を許すことなどあり得ない」と、レイノルズ氏は強調した。
昨年10月には、英情報局保安部(MI5)のケン・マカラム長官が、イランが支援する計画について、2022年以降に20件対処してきたと明らかにした。これらの計画は、「イギリスの市民や居住者に致命的な脅威をもたらす恐れ」があるものだったとした。
マカラム長官は当時、「イギリス国内で、かつてないペースと規模で計画が相次いでいた」と述べていた。
レイノルズ英ビジネス相は、アメリカのイラン攻撃を歓迎まではしなかった。自分は「別の方法を望んでいた」としつつ、「イランの核保有を防ぐことは、英国の国益にかなう」とした。
イギリスは平和的な緊張緩和を「望んでいた」が、「イランは、平和的な解決を求める外交的呼びかけに耳を貸さなかった。それは間違いだった」と、レイノルズ氏は付け加えた。
スターマー氏は、イギリスは「自国の利益や、自国の人員、資源を守れるよう、そして当然、同盟国のそれらを守れるよう、中東地域へ資源を移している」と述べた。
英国防筋によれば、中東に展開する英軍は現在、最高レベルの警戒態勢にあるという。
ほんの1週間前にカナダで開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、スターマー氏がトランプ氏と会談するなど、緊張緩和を働きかけていた。スターマー氏は以前、トランプ氏がイランとイスラエルの紛争に近く介入するつもりであることを示す様子は「何もない」とも述べていた。
イランは、自国の原子力開発計画は平和目的のもので、60%濃縮のウランについては、研究・開発計画の一環だと主張している。
しかし、国際原子力機関(IAEA)は直近の報告で、イランが現在、60%濃縮ウランを核兵器9発分に相当する量まで蓄積していると警告。「正当な懸念の原因」になっていると指摘している。
イランがなぜ、兵器級に近い濃縮度のウランを必要とするのか、BBCが尋ねると、イランのサイエド・アリ・ムーサヴィ駐英大使は、「我々の側から軍事攻撃を行う意図はない」と答えた。
さらに、イランはアメリカの行動に対応するための「量と質」を検討しているとも付け加えた。
イスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領は、BBCのローラ・クンスバーグ記者に対し、イランの核開発計画は「大きな打撃を受けた」と語る一方で、アメリカの攻撃について事前に知らされておらず、「発生時に目が覚めた」ため、何が起きたのか詳細は分からないと付け加えた。
イスラエルはこのところ、イラン国内の軍事施設を標的とした攻撃を続けている。イランもこれに反撃している。
21日には、米軍のB-2爆撃機が米ミズーリ州の基地からイランまで、ノンストップで飛行し、空爆を仕掛けた。
インド洋のチャゴス諸島のディエゴ・ガルシア島にある英軍基地は使用しなかった。
空爆後のテレビ演説で、トランプ大統領は今回の爆撃を「壮大な軍事的成功」と述べ、イランが速やかに和平に応じなければ、「さらに大きな」攻撃に直面することになると警告した。
IAEAの最新情報では、核関連施設の外で放射線量の上昇は報告されていない。
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、今回の空爆について「危険なエスカレーション」だと懸念を表明した。
イギリスの最大野党・保守党のケミ・ベイドノック党首は、「アメリカはイランの核施設を標的にすることで、世界的なテロを助長してイギリスを直接脅かす体制に対して断固たる行動を取った」と述べた。
一方、英野党・自由民主党のエド・デイヴィー党首は、イギリスが「紛争の緩和と、外交的解決を実現すること」が「不可欠」だと述べた。
スターマー氏は以前、紛争の緩和に向けた、さらなる交渉を呼びかけていた。
ラミー英外相は先週、米ワシントンを訪問し、マルコ・ルビオ米国務長官やスティーブ・ウィトコフ中東担当特使と会談。20日にはスイス・ジュネーヴで開かれた協議に欧州代表団の一員として出席し、イラン政府関係者とも会談を行った。
イギリスの外務・英連邦・開発省(FCDO)は現在、イランやイスラエル、イスラエル占領下のパレスチナ・ガザ地区などへのすべての渡航を控えるよう勧告している。
同省はまた、イスラエルからの出国を希望する英国人を対象に、イスラエル・テルアヴィヴからのチャーター便の運航を手配している。
同省によると、このチャーター便は「影響を受けやすい状況にある英国籍者およびその扶養家族」を対象としたもの。イスラエルの空域が再開されれば来週中の出発を目指すとしているが、「急な変更の可能性もある」という。
英航空大手ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)は22日、現在の情勢を受け、アラブ首長国連邦のドバイおよびカタール・ドーハへの運航を一時停止すると発表した。
同社広報は声明で、「乗客と乗員の安全確保のため、フライトスケジュールを調整している」と説明。利用者には代替手段を案内済みだとした。
21日にロンドン・ヒースロー空港を出発予定だったすべてのフライトと、同空港への折り返し便はキャンセルされた。
23日までに搭乗予定だった利用客は、7月6日までの別便に無料で変更できるという。
(英語記事 Starmer and Trump discuss need for Iran to return to negotiations)