
ドナルド・トランプ米大統領は米東部時間23 日(日本時間24日)、イスラエルとイランの停戦合意が成立したと発表し、同24日午前1時(日本時間同日午後2時)すぎ、自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で「停戦合意が発効した。頼むから違反しないでもらいたい!」と書いた。
イスラエル政府は約1時間後、停戦案に合意したとの声明を発表。イラン国営メディアは、停戦発効前の「最後」のミサイル攻撃をしたと伝えた。
しかしその約90分後になると、イスラエル軍はイランからのミサイル発射を確認したと発表。イランが停戦に違反したと非難した。イスラエルのイスラエル・カッツ国防相はその後、イランによる停戦違反を受け、イスラエル国防軍(IDF)に対し「テヘラン中心部の政権拠点に対する強力な報復攻撃」を命じたと声明を発表した。IDFのエヤル・ザミール参謀総長も、「イラン政権による重大な停戦違反に対し、我々は力で応じる」と宣言した。
イランは停戦発効後の攻撃を否定している。
トランプ氏はイスラエル国防相の発表から約3時間後、「イスラエル。その爆弾を落とすな。そんなことをすれば大々的な違反だ。操縦士たちを帰還させろ。ただちに!」とすべて大文字で、「トゥルース・ソーシャル」に書いた。さらにその後は記者団に対し、イランもイスラエルもあまりに長年戦ってきたため「何をしているかわかってないんだ」と、アメリカの放送局では通常使用を控える卑語を強調のために交えて話した。
イスラエル首相府はその後、ベンヤミン・ネタニヤフ首相がトランプ大統領と電話で会談したと発表。イスラエル軍は「イランの(停戦)違反」への反応として、テヘランに近いレーダー施設を攻撃したが、それ以上の攻撃は控えたと明らかにした。
イスラエル、停戦合意の声明
トランプ氏が停戦発効と投稿した後、イラン国営メディアSNNは、停戦発効前の「最後のミサイル群」を発射したと伝えた。イラン国営メディアは、イランが攻撃を繰り返したことでイスラエルが停戦を受け入れざるを得なかったのだと主張した。
対するイスラエル政府は日本時間24日午後3時10分ごろ、トランプ大統領の停戦案に同意したと明らかにした。声明で、「イスラエルは停戦合意のいかなる違反にも、強力に反応する」と述べた。
イスラエル政府はまた、イラン攻撃による「目的を達成」したため、停戦に合意したと声明で説明。イランの核兵器と弾道ミサイルによる、イスラエルの存亡に直ちにかかわる「二重の脅威を排除した」としている。
また、イスラエルがイランの「軍事指導部に深刻な打撃を与え、イラン政府の中枢にある複数の標的を破壊した」とも主張している。
さらに声明では、過去1日間にイスラエル軍が「テヘラン中心部の政府関連施設を激しく攻撃し、数百人のバシジ民兵を排除した」としている。民兵組織バシジは、イラン政府が抗議活動の鎮圧などに用いる準軍事組織として知られる。
また、「さらに別の上級核科学者を排除した」ともイスラエルは声明で述べたうえで、「防衛における支援と、イランの核の脅威の排除への協力に対し、トランプ大統領およびアメリカ合衆国に謝意を表する」とした。
イスラエルは、停戦発効前のイランの攻撃のため、南部ベエルシェバで少なくとも4人が死亡し、22人が負傷したとしている。
他方、イラン北部の現地当局は24日、「テロリスト」による攻撃で少なくとも9人が死亡し、民家4軒が破壊されたと明らかにした。少なくとも33人が負傷したという。
イランのメディアはこれを、イスラエルによる攻撃だと伝えている。
一部のイラン・メディアは、死者には原子力専門の科学者モハマド・レザ・セディッキ氏が含まれると伝えている。
イスラエルは、停戦合意を発表した際、新たにイランの原子力科学者を1人殺害したと発表していた。
イランが停戦違反とイスラエル、イランは否定 トランプ氏はイスラエル警告
イスラエル政府が停戦合意を発表した約90分後、イスラエル軍はイランからミサイルが発射されたのを確認したと発表。防空システムで「迎撃に動いている」と述べた。
その後、イスラエルのカッツ国防相は声明で、イランによる停戦違反を受けて「テヘラン中心部の政権拠点に対する強力な報復攻撃」をIDFに命じたと明らかにした。
ベンヤミン・ネタニヤフ首相の側近で極右政治家のベザレル・スモトリッチ財務相は、ソーシャルメディアに、「テヘランは震えることになる」と投稿した。
IDFのザミール参謀総長も、「イラン政権による重大な停戦違反に対し、我々は力で応じる」と述べ、軍の公式アカウントを通じて「断固たる対応」を宣言した。
これに対してイラン国営メディアはイスラエルの主張を否定し、「停戦開始後にイスラエルに向けてミサイルを発射した事実はない」と伝えた
また、イラン軍のアブドルラヒム・ムサヴィ参謀総長も、過去数時間以内にイスラエルに向けて一切ミサイルを発射していないと語ったと、国営メディアは報じた。
イランの国家安全保障最高評議会は声明で、イスラエルと「そのテロ支援者ら」に対し、「戦争停止を強制する」と発表。「さらに侵略行為があれば、イランは断固かつ迅速に対応する」と警告した。
この約3時間後、トランプ氏は「イスラエル。その爆弾を落とすな。そんなことをすれば大々的な違反だ。操縦士たちを帰還させろ。ただちに!」とすべて大文字で、「トゥルース・ソーシャル」に書いた。
さらにトランプ氏は、「時間制限のあとに発射されたロケット砲が一発あったんだろう。それでイスラエルは出動するという。あの連中には、落ち着けといいたい」と述べた。北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席するため、オランダ・ハーグへ向かう前に記者団に話した。
大統領はさらに、前日の展開について気に入らないことが「ごまんとあった」と言い、「合意した直後にイスラエルが大量に発射したのが気に入らなかった。そんな必要はなかった」と批判。
「結局のところ、あまりにずっと長いことすごく必死に戦ってきた二つの国があって、もう自分たちが何してるのかまったくわかっていないんだ」とも、トランプ氏は強調語としての罵倒語を交えて話した。
トランプ氏はまた、両国が「わざとやったのかは、よくわからない」、「イスラエルが今朝、出動したのが気に入らない。自分にそれを止めさせられるか、試してみる」と話したほか、イランは「絶対に核(能力)を再建しない」として、「イランについても良いとは思っていない」と述べた。
イスラエル首相府はその後、ネタニヤフ首相がトランプ大統領と電話で会談したと発表。イスラエル軍は「イランの(停戦)違反」への反応として、テヘランに近いレーダー施設を攻撃したという。
首相府は、首脳同士の電話会談を経て、イスラエルは「それ以上の攻撃を控えた」と明らかにした。さらにトランプ大統領がネタニヤフ首相をねぎらい、「停戦の安定性を信頼していると、大統領は表明した」とも述べた。
トランプ氏は、ハーグへ向かうため大統領専用機に搭乗して間もなく、イスラエル軍機は引き返しているし、停戦は元通りだと投稿した。さらに同行記者団から、イランの体制転換を望むかと質問されると、「いいえ」と答えた。
「もしそうなるならそうなるまでだが、私は望んでいない。できるだけ素早く何もかも落ち着くのがいい」とトランプ氏は言い、「体制転換にはカオスがつきもので、理想の話をすれば、そんなにカオスは見たくない」と話した。
トランプ氏の停戦合意発表の後には
トランプ大統領は米東部時間23日午後6時(日本時間24日午前7時)すぎ、イスラエルとイランが「完全かつ全面的な」停戦で合意したとソーシャルメディアで発表していた。これについて、イスラエルとイランは、停戦が成立したとはしばらく発表せず、イランはミサイル攻撃を続けた。
トランプ氏は23日の投稿で、停戦は「今から約6時間後」に、双方の軍事作戦の「縮小」を経て開始されると書いていた。また、敵対行為が時間とともに段階的に解消されていくとし、「24時間目には」戦争は正式に終結するとしていた。
トランプ氏は、今回のイスラエルとイランの紛争を「12日間戦争」と呼び、「何年も続き、中東全体を破壊したかもしれなかった戦争だが、そうならなかったし、今後も決してそうならない!」と書いていた。
停戦の交渉に関わったとされる人物らが米メディアに話したところでは、カタールのシェイク・ムハンマド・ビン・アブドルラフマン・アール・サーニ首相が停戦合意に貢献したという。
イランのセイエド・アッバス・アラグチ外相は、「現時点では、停戦や軍事作戦の停止に関する『合意』はまったくない」とソーシャルメディア「X」に投稿した。
「しかし、イスラエルの政権が遅くともテヘラン時間の午前4時までに、イラン国民に対する違法な攻撃を停止すれば、私たちはその後に対応を続けるつもりはない」とした。また、「私たちの軍事作戦の停止に関する最終決定は、あとで行う」とした。
同氏はさらに、「イスラエルの攻撃を罰するという、私たちの強力な軍隊による軍事作戦は、午前4時ぎりぎりまで続いた」、「最後の血の一滴まで、愛する国を守る覚悟を持ち続け、最後まで敵のいかなる攻撃にも対応した勇敢な軍隊に、すべてのイラン国民とともに感謝する」としていた。
イラン国営メディアなど同国の報道機関は当初、トランプ氏の発表を単に同氏の「主張」だと伝えていた。
イラン政府幹部は、トランプ氏の投稿の30分ほど前、イランには停戦について何の提案もないと米CNNに話した。
この匿名の幹部は、アメリカとイスラエルの首脳の言葉は、イランへの攻撃を継続するための「ごまかし」だと主張。「この瞬間も、敵はイランを攻撃している。イランは報復攻撃を強めようとしているところであり、敵のうそには耳を貸さない」と述べていた。
イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)系のファルス通信は、「事情を知る人物」が、トランプ氏の発表は「完全に虚偽」だと述べたと報じた。
この匿名の人物は同通信に、イランは「公式・非公式の停戦案」を受け取っておらず、「数時間以内」に「作戦上の」対応を通して、発表が虚偽だとイスラエルに示すことになると話したという。
また、この人物はトランプ氏の発表について、イランによってドーハの米軍基地が攻撃されたというアメリカにとっての「屈辱」から、アメリカが「世間の関心」をそらそうとする試みだと述べたという。
イラン国営テレビ局IRINNは、停戦は、イランによるカタールの米軍基地への攻撃の「成功」を受けて、イスラエルに「課された」ものだと伝えた。イランが発射したミサイルについては、カタールはすべて撃墜したとしている。
同局の司会者は、イランの攻撃のあとにトランプ氏が停戦を「懇願した」との声明を読み上げた。
BBCが提携する米CBSニュースは、米政府高官の話として、イスラエルとイランの双方が停戦に合意したと話したと報じた。トランプ氏はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と直接連絡を取っており、イランからこれ以上の攻撃がなければイスラエルは停戦に合意するとの、ネタニヤフ氏の意向を確認しているという。
CBSはまた、イランの政府関係者らが、停戦合意に至ったことを認めたと伝えていた。
イランとイスラエルの攻撃の応酬は23日も続いた。テヘランでは同日夜、イスラエル軍から3地区に避難命令が出された。BBCペルシャ語の記者によると、イランでは24日午前2時すぎまでに、いくつかの爆発が報告された。トランプ氏の発表では、停戦は数時間後まで始まらないとされている。
トランプ氏による「停戦」発表後の24日も、イランからイスラエルに向けミサイルが発射されたとイスラエル軍が発表。防衛システムが稼働したとした。
イスラエルの救急機関マゲン・ダヴィド・アドム(MDA)は、この空爆でイスラエル南部で少なくとも4人が殺害され、ほかにも負傷者が出たとした。
イランが米軍基地を攻撃
トランプ氏の「停戦合意」の発表より前の、カタール時間23日午後8時(日本時間24日午前2時)ごろ、イランはカタールにあるアルウデイド米空軍基地に向けてミサイルを発射した。アメリカが21日に、イランの核関連施設を攻撃したことへの対応とみられる。
同基地への攻撃についてトランプ氏は、アメリカとカタールのどちらにも死傷者は出ていないと説明。イランの対応は「非常に弱い」とした。また、イランから「早期通告」があったとし、おかげで誰も死傷しなかったと感謝の意を示した。
カタールは、米軍のアルウデイド基地を狙ったミサイルはすべて迎撃されたとし、イランの攻撃を「明白な違反行為」と非難した。
発射されたミサイルについて、イランは6発、アメリカは14発だったとしている。ロイター通信によると、カタールは19発だったとしているという。
アルウデイド基地には、米軍の中東地域でのすべての航空作戦を統括する司令部が置かれている。イギリス軍の兵士らも交替で、同基地に駐留している。
米国務省によると、カタールには米国民約8000人が居住している。英国民も数千人いる。米英両国はイランの今回の攻撃の数時間前、自国民に対し、安全確保を呼びかけていた。
米軍基地への攻撃は、イラン国営メディアが最初に伝え、その後にイラン軍が認めた。
イラン軍精鋭部隊の革命防衛隊(IRGC)は声明で、「イランは自国の主権に対するいかなる攻撃にも黙ることはない」、「この地域の米軍基地は強みではなく、弱みだ」と付け加えた。
イランが事前にミサイル発射の準備をしていると警告していたことが、攻撃の直後に明らかになった。米紙ニューヨーク・タイムズは、イラン政府関係者3人の話として、攻撃の犠牲者を最小限に抑えるため、イランがドーハに攻撃の意図を伝えていたと報じた。
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は、「私たちは誰も侵害していないし、誰からの侵害も決して受け入れない。誰の侵害にも屈服しない。これがイラン国家の論理だ」(BBCペルシャ語サービス訳)とソーシャルメディア「X」で表明した。
この報復攻撃の元となった、アメリカによるイラン核関連施設への攻撃をめぐり、ホワイトハウスは23日、米議会に攻撃開始を通告した書簡を公開した。多くの議員は、攻撃前に議会の承認を求めることが法律で規定されているにもかかわらず、トランプ氏がそうしなかったと批判している。
公開された書簡はトランプ氏の署名入りで、「この攻撃は、イランの核開発プログラムを消滅させることによってアメリカの重要な国益を増すためと、同盟国イスラエルの集団的自衛のために行われた」と書かれている。
【解説】イランによる明らかに計算された反応――フランク・ガードナーBBC安全保障担当編集委員
イランによるカタールのアルウデイド米空軍基地へのミサイル攻撃は当初、一見して、大規模な軍事的エスカレーションと受け止められ、湾岸のアラブ諸国を巻き込んだ地域全体の紛争に発展する可能性が懸念された。
今でも事態悪化の可能性は残されている。カタール政府は激怒し、あからさまな主権侵害だと非難している。
カタールはこれまでに、イスラエルのイラン攻撃を非難し、外交努力を求めてきた。それだけに、今回のイランによる攻撃に反発しているのだ。
加えてカタールは長年にわたり、イランと友好関係を維持してきた。両国間の海域で両政府は、巨大な海底ガス田を共同開発している。
それでも今回のイランによる攻撃は、明らかに計算され、演出された対応だった。現時点で死傷者は報告されておらず、攻撃は予告されていたとされている。これは、2020年にアメリカがイランの革命防衛隊「コッズ部隊」司令官カセム・ソレイマニ氏を殺害した後の、イランの反撃と同じ手法だ。
今回発射されたのはミサイル6発とされる。危険な攻撃力ではあるものの、おそらくイランが今も実施可能な、大量のミサイルや無人機による大規模攻撃とは規模が異なる。
だとするとイランの狙いは、アメリカの攻撃に報復するという約束を果たしつつ、アメリカとその同盟諸国による壊滅的な反撃を招くほどの大々的な報復はしないということだったのだろう。
今後の対応はトランプ米大統領次第だ。もし大統領がこれ以上の攻撃を控えるのなら、今回の攻撃が米・イラン対立の最高潮だったということになる可能性もある。
将来的には、米・イラン間の核交渉再開の余地さえあるかもしれない。しかし、トランプ氏は別のことを考えている可能性もある。もしイランをさらに攻撃する必要があるとトランプ氏が判断すれば、湾岸地域は非常に激しい夏を迎えることになり得る。
(英語記事 'Do not drop those bombs,' Trump warns Israel after it vows 'powerful strikes' on Iran/What we know about Iran's attack on US base in Qatar)