
アメリカ連邦最高裁判所は23日、ドナルド・トランプ大統領の政権が、移民を母国以外の第三国へ移送する措置を再開することを認めた。
連邦政府が移民に対して「第三国に移送された場合に直面する危険について説明する実質的な機会」を与えるよう命じた下級審に、最高裁判事9人中6人が反対し、この判決を覆した。
これに対し、リベラル派の判事3人は反対意見を示し、「違法行為を報償するものだ」と非難した。
この訴訟は、ミャンマー、南スーダン、キューバ、メキシコ、ラオス、ヴェトナム出身の8人の移民に関するもの。8人は今年5月、南スーダン行きとされる航空機で移送された。
トランプ政権は、この8人を「最悪の中でも最悪」だと表現。アメリカ国内で殺人、放火、武装強盗といった「凶悪犯罪」を犯したと主張している。
一方、移民側の弁護士は連邦最高裁への提出書類の中で、拘束されている者の多くが刑事有罪判決を受けていないと訴えている。
8人の移送が発表された直後、マサチューセッツ州ボストンのブライアン・マーフィー連邦地裁判事が、この措置が自身が4月に出した命令に違反していると判断した。この命令では、第三国に移送された場合、拷問や殺害の危険があると主張する機会を、移民に与えるよう政府に指示していた。これは、移民が他の法的手段を使い果たした場合でも適用されるとしていた。
トランプ大統領は、ボストンの控訴裁判所が先月、下級審の判断を差し止めることを拒否したことを受け、最高裁に本件を持ち込んでいた。
ジョー・バイデン前大統領によって任命されたマーフィー判事による介入を受け、トランプ政権は、移民ら8人を東アフリカのジブチに留め置くことを余儀なくされた。ジブチには米軍基地が存在する。
ジョン・サウアー米訴訟長官は連邦最高裁に対し、移民当局は会議室を改装して、「危険な犯罪者のために即席の拘束施設を設けざるを得なかった」と述べた。
サウアー長官はまた、暴力的な犯罪歴を持つ移民を母国に送還しようとしても、受け入れを拒否されることが多く、米国内にとどまることになるため、「法を守る市民が犠牲になっている」と主張した。
連邦最高裁のソニア・ソトマイヨール判事、エレナ・ケイガン判事、ケタンジ・ブラウン・ジャクソン判事の3人は、23日に出された多数派の匿名決定を厳しく批判し、「重大な権限の乱用だ」と非難した。
ソトマイヨール判事は、「どうやら最高裁は、数千人が遠く離れた地で暴力にさらされる状態よりも、地裁が政府に救済措置の範囲を超えて、原告に憲法上認められている通知と手続きを行うよう命じるという、ごくわずかな可能性の方を重く見たようだ」と述べた。
また、「このような裁量の行使は、理解不能であり、到底容認できない」と指摘した。
原告側を代理する全米移民訴訟同盟(NILA)は、今回の最高裁判断を「恐るべきものだ」と非難した。
NILAのトリナ・リアルムート事務局長は、この決定で、原告らは「拷問や死」の危険にさらされることになると述べた。
一方、米国土安全保障省は最高裁の判断について、「アメリカ国民の安全と安心にとっての勝利だ」とする声明を発表した。
同省のトリシャ・マクローリン報道官は、「移送機を再び飛ばす時だ」と述べた。
今回の最高裁の判断は、大規模な移民退去政策を推進するトランプ大統領にとって、新たな勝利となった。
最高裁は先月にも、トランプ氏によるヴェネズエラ国民への一時保護資格の打ち切りを認めた。これにより、約35万人の移民が影響出るという。
また、キューバやハイチ、ニカラグア、ヴェネズエラからの移民およそ50万人に対し、アメリカ国内で2年間の滞在を認めていた人道的プログラムを一時停止する大統領の権限を認める判断も示している。
(英語記事 US Supreme Court allows Trump to resume deportations to third countries)