
ジェイク・ホートン、ルーシー・ギルダー、BBCヴェリファイ(検証チーム)
アメリカのドナルド・トランプ大統領が先週末、イランの核関連施設数カ所への攻撃を命じた。以来、野党・民主党のみならず与党・共和党の議員らも、その法的権限を疑問視している。
共和党のトーマス・マッシー下院議員はソーシャルメディア「X」で、今回の攻撃は「合憲ではない」と主張。同党のウォーレン・デイヴィッドソン下院議員も、「合憲とする根拠を考えるのは難しい」と書いた。
一方、同党のマイク・ジョンソン下院議長は、大統領を擁護。「差し迫った危険のほうが、議会の行動までの時間より重大だと(トランプ氏は)評価した」とし、「どちらの党の大統領の下でも、同様の軍事行動を取ってきた伝統がある」とした。
トランプ氏の行動は憲法に沿うものだったのか、それとも同氏はまず議会に相談すべきだったのか。BBCヴェリファイ(検証チーム)が法律の専門家に聞いた。
憲法は軍事行動についてどう定めているのか
合衆国憲法で関係するのは、第1条と第2条の二つだ。
第1条は、「宣戦布告」を議会の権限の一つだと明記している。
しかし、大統領の権限を定めた第2条は、「大統領が軍の最高司令官である」と規定。ホワイトハウス関係者らは、これが今回のイラン攻撃の根拠だとの見解をBBCに示した。
憲法の専門家らは、第2条について、特定の状況において大統領に軍事力行使の権限を与えるものだと説明している。
それがどういう状況を指すのかは、憲法は明確にしていない。ただ、米シンクタンクの外交問題評議会の専門家らによると、「実際の攻撃や予想される攻撃」がある場合や、「その他の重要な国益を増進する」場合と解釈されている。
ここでいう国益には、核兵器の拡散防止も含まれ得る。トランプ政権はこれを、イラン攻撃が正当な理由だとしている。
憲法の専門家4人は、トランプ氏はこうした状況の下、軍事攻撃を命じる何らかの権限を有しているとBBCヴェリファイに話した。
「簡単に言えば、(トランプ氏は)確かに権限を持っていた」と、米ペンシルヴェニア大学法科大学院のクレア・フィンケルスタイン教授は言う。「大統領が議会の承認なしに単独で軍事行動に踏み切る慣例は、かなり前からある」。
別の憲法専門家で米ロヨラ・メリーマウント大学所属のジェシカ・レヴィンソン氏は、「戦争の様相を呈していない」限り、大統領の空爆指示の権限は限定的だと主張。「いつそうなる(戦争の様相を示す)かの明確な定義はない」とした。
一方、米ボウディン大学のアンドリュー・ルダレヴィッジ教授(政治学)は、「撃退すべき突然の攻撃」はなかったので、トランプ氏に今回の攻撃を始める権限があったとは思わないとBBCヴェリファイに話した。
憲法第1条は議会に宣戦布告の権限を与えているが、この条項が使われたことはほとんどない。
議会がこの権限を行使したのは、第2次世界大戦で日本が真珠湾を爆撃した後の1942年が最後だ。それ以前は、1812年以降10回しか行使されていない。
専門家らは、大統領が議会の承認を得ずに軍事行動を命じる権限を行使するのが、一般的になってきているとも話している。
ジョージ・W・ブッシュ大統領の下でホワイトハウスの法律顧問を務めていたジョン・ベリンジャー氏は、「ここ数十年間で、大統領が議会の承認なしにさまざまな目的で軍事力を使うことを、議会はますます容認してきた」と述べた。
保守的な憲法専門家のジョナサン・ターリー氏は、「議会と裁判所は、布告の必要性を事実上否定した」とBBCヴェリファイに話した。
過去の大統領はどうしてきたのか
バラク・オバマ大統領(当時)は2011年、議会の許可を求めずにリビアの空爆を指示し、憲法第2条に基づいて正当性を主張した。同じ年にパキスタンでオサマ・ビンラディン容疑者を殺害した作戦でも、同様だった。
トランプ氏は大統領1期目の2020年、議会の承認なしに、イラン革命防衛隊のカセム・ソレイマニ司令官の殺害を命じた。
1990年代には、民主党のビル・クリントン大統領(当時)が事前承認を得ずに、バルカン半島で空爆を実施した。最近では、ジョー・バイデン前大統領が在任中、イエメンの武装組織フーシ派やシリアへの攻撃で同じようにした。
前出の憲法専門家のターリー氏は、「アメリカの歴史を通して、この権限は大統領らが繰り返し使ってきた」、「トランプ氏は今回の行動に関して、歴史と前例が有利に働く」と話した。
ジョンソン下院議長は、トランプ氏を擁護する際に、歴代政権を引き合いに出して、「両党の大統領は第2条の下で最高司令官としての同じ権限を持って行動してきた」と主張。
「オバマ大統領はリビアで政権を崩壊させるため、8カ月にわたり作戦を実施した。それを邪魔する発言を民主党の議員らがするのを聞いたことはなかったが、今回は突如として、議員たちはとても怒っている」と述べた。
ほかの法律はどう定めているのか
トランプ氏のイラン攻撃を批判する人々は、アメリカがヴェトナム戦争撤退後の1973年に成立させた、戦争権限法についても言及している。同法は、議会に相談することなしに戦争を始める大統領の権限を制限している。
同法は、緊急事態において、大統領が議会の承認なしに武力を行使することを認めてはいる。だが、「合衆国の軍隊を敵対行為に投入する前に、可能な限りあらゆる場合において議会の意見を求めなければならない」と定めている。
前出の元ホワイトハウス法律顧問のベリンジャー氏は、「トランプ大統領がこの要件に従ったとは思えない」と言う。「これまでの報道からすると、トランプ大統領は実際には議会と実質的な協議をせず、共和党の幹部数人に伝えただけのようだ」。
米メディアは、民主党のチャック・シューマー上院院内総務が、攻撃開始の約1時間前に電話連絡を受けたが、詳細はほとんど知らされなかったと報じている。
一方、ホワイトハウスのキャロライン・レヴィット報道官は、トランプ政権が「議会指導者らに党派に関係なく電話」をかけ、シューマー氏とは攻撃前に話をしたとXに投稿した。
戦争権限法は、軍事行動について実施後48時間以内に、議会に通告しなければならないとも定めている。
ピート・ヘグセス国防長官は、イラン攻撃後に「(米軍の)航空機が安全になってから(議会は)通告を受けた」とし、「戦争権限法の通告要件に従っている」と述べた。
※編集部注:アメリカによるイラン攻撃をめぐり、ホワイトハウスは23日、米議会に攻撃開始を通告した書簡を公開した。トランプ氏の署名入りで、「この攻撃は、イランの核開発プログラムを消滅させることによってアメリカの重要な国益を増すためと、同盟国イスラエルの集団的自衛のために行われた」などと書かれている。