2025年7月16日(水)

BBC News

2025年6月24日

中国では昨年販売された自動車のうち約半数がEVだった

アナベル・リャン・ビジネス記者、ニック・マーシュ運輸担当編集委員

「電気自動車に乗っているのは、貧しいからだ」と語るのは、ルー・ユンフェン氏。中国南部の広州市郊外にある充電ステーションにいた、配車サービスの運転手だ。

その近くに立っていたスン・ジングオ氏も同意し、「ガソリン車は維持費が高すぎる。電気自動車に乗ることで節約できる」と語った。

さらに、「環境保護にもなる」と述べ、自身が乗る白い「北京U7」モデルにもたれかかった。

こうした会話は、気候変動対策を訴える活動家たちにとって理想的な光景だ。多くの国では、電気自動車(EV)は高級品と見なされている。

しかし、昨年販売された自動車のうち約半数がEVだった中国では、こうした会話はもはや日常の一部になっている。

自転車の国からEVの国へ

21世紀初頭、中国の指導部は将来の技術分野で主導権を握るための計画を打ち出した。かつて自転車の国と呼ばれた中国は、今やEV分野で世界をリードしている。

人口1800万人を超える広州市では、通勤ラッシュの騒音が静かな振動音に変わった。

「EVに関して言えば、中国は他国より10年先を行き、性能も10倍優れている」と、自動車業界アナリストのマイケル・ダン氏は語った。

中国のBYD(比亜迪)は、今年初めにアメリカの競合テスラを抜き、世界のEV市場でトップに立った。

BYDの販売を支えているのは、14億人を超える広大な国内市場であり、現在は外国市場への進出も加速させている。大衆向けの手頃な価格のEVを製造する中国の新興企業も、同様に外国展開を目指している。

では、中国はどのようにしてこの優位性を築いたのか。そして、他国はその差を埋めることができるのか。

マスタープラン

中国のEV分野における優位性の起源をたどると、多くのアナリストは万鋼氏の存在を挙げる。ドイツで訓練を受けた技術者で、2007年に中国の科学技術部長に就任した人物だ。

「彼は周囲を見渡してこう言った。『良い知らせだ。我々は今や世界最大の自動車市場になった。悪い知らせは、北京、上海、広州の街を見ても、目に入るのはすべて外国ブランドの車ばかりだ』」と、アナリストのダン氏は語った。

当時、中国の自動車ブランドは、品質やブランド力の面で欧米や日本の自動車メーカーに太刀打ちできなかった。ガソリン車やディーゼル車の製造において、こうした国の企業は圧倒的な先行優位を持っていた。

しかし中国には、豊富な資源と熟練した労働力、そして自動車産業におけるサプライヤーのエコシステムが存在していた。ダン氏によれば、万氏は「ゲームのルールを変え、電気自動車へシフトによって流れを逆転させる」ことを決断したという。

これが、中国のEV戦略における「マスタープラン」だった。

中国政府は、早くも2001年の第10次5カ年計画で、EVを重点分野に位置づけていたが、実際に産業育成のために巨額の補助金を投入し始めたのは2010年代に入ってからだった。

中国は欧米の民主主義国家とは異なり、国家目標に向けて経済の広範な分野を長期にわたって動員する能力を持っている。

同国の巨大なインフラ整備事業や製造業における支配的地位は、その象徴といえる。

米シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」の推計によれば、2009年から2023年末までの間に、中国政府はEV産業の育成に約2310億ドル(約34兆円)を投じたとされている。

中国では、消費者や自動車メーカーだけでなく、電力会社やバッテリー供給業者に至るまで、EVに関して金銭的な支援や各種の優遇措置を受けることができる。

たとえば、BYDは当初、スマートフォン用バッテリーを製造していたが、こうした支援を受けてEV生産に注力するようになった。

また、寧徳市に本社を置く「寧徳時代新能源科技(CATL)」は2011年に設立され、現在ではテスラ、フォルクスワーゲン、フォードなどにバッテリーを供給している。世界のEVに使用されるバッテリーのうち、約3分の1を同社が生産している。

このように、長期的な計画と政府の助成を組み合わせることで、中国はバッテリー生産における重要なサプライチェーンを支配する体制を築いた。

また、中国は世界最大の公共充電ネットワークを整備しており、充電ステーションは大都市に集中して設置されている。これにより、ドライバーが最寄りの充電器まで数分でアクセスできる環境が整っている。

「現在、EVに搭載するバッテリーを製造しようとすれば、そのすべての道は中国を通る」と、前出のダン氏は語った。

この状況を「国家資本主義」と呼ぶ者もいれば、西側諸国では「不公正な商慣行」と批判する声もある。

一方で、中国のEV業界幹部らは、国内外を問わずすべての企業が同じ資源にアクセスできると主張している。

その結果として、中国では激しい競争と革新文化に支えられたEVスタートアップ業界が活況を呈していると言う。

EVメーカー「小鵬汽車(シャオペン、XPeng)」の顧宏地社長はBBCに対し、「中国政府が行っていることは、欧米で見られる政策支援、消費者への奨励策、インフラ整備と同じだ」と語った。

「ただし中国は、それを一貫して実行しており、最も競争力のある市場環境を育ててきた。誰かを特別扱いするようなことはない」と、顧氏は付け加えた。

顧氏は、シャオペンはEV業界を牽引する「中国のチャンピオン」だと語る。設立からわずか10年余りで、いまだ黒字化には至っていないものの、すでに世界のEVメーカーの上位10社に名を連ねている。

同社は、広州市にある本社に中国の優秀な若手人材を多数集めている。カジュアルな服装の社員たちはフラットホワイトを片手にくつろぎ、ショールームではインターネット配信者たちがライブで車を販売している。

社員が上階から1階まで滑り降りることができるカラフルな滑り台は、中国の工業地帯というよりも米シリコンバレーの企業を思わせる。

こうしたリラックスした雰囲気の中でも、顧氏は「より良い車をより安く提供するというプレッシャーは非常に大きい」と語った。

BBCは今回、シャオペンの新型モデル「モナ・マックス」の試乗に招かれた。このモデルは最近、中国国内で約2万ドル(約320万円)で販売が開始されたばかりだ。

この価格で、自動運転機能、音声操作、フルフラットシート、映画や音楽のストリーミング機能などが搭載されている。中国の若手大卒者たちは、こうした機能を初めて購入する車に当然備わっているべき標準装備と見なしているという。

自動運転車に多く採用されているLiDAR(ライダー)センサー技術を開発する「ヘサイ・テクノロジー」の共同創業者の一人、李一帆最高経営責任者(CEO)は、「新世代のEVメーカーは(中略)車をまったく別の存在として捉えている」と語った。

「EVは理にかなっている」

中国の若者はEVの最先端技術に大きな魅力を感じているが、EVを経済的に魅力ある選択肢とするために、中国政府が巨額の支出を行っていることも大きな要因だと、CSISの調査は指摘している。

一般市民は、ガソリン車からEVへの買い替えに対する補助金のほか、税制優遇措置や公共充電ステーションでの割引料金などの恩恵を受けている。

こうした優遇策が、配車サービスの運転手であるルー氏にも、EVへの転換を決意させた。ルー氏2年前まで、400キロメートル走行するためにガソリン代として200元(4100円)を支払っていたが、現在ではその4分の1の費用で済んでいるという。

中国では、交通渋滞や大気汚染を抑制するための政策の一環として、車両のナンバープレート取得に数千元を支払うのが一般的で、場合によっては車両本体より高額になることもある。しかし、ルー氏は現在、EV専用の緑色ナンバープレートを無料で取得している。

「金持ちはガソリン車に乗る。資金が無限にあるからだ」とルー氏は語り、「私にとってはEVの方が理にかなっている」と述べた。

上海では、EV所有者の一人であるデイジー氏(仮名)が、充電ステーションではなく、EVメーカー「蔚来汽車(NIO)」が提供する自動バッテリー交換ステーションを利用している。

このステーションでは、3分足らずで機械が空のバッテリーを満充電のものと交換してくれる。ガソリン満タンにするよりも安価で、最先端の技術が提供されている。

これからどうなるのか

中国のEV産業の成長を支えてきた政府補助金については、自国の自動車産業を保護しようとする他国から不公正だとの批判が出ている。

アメリカ、カナダ、欧州連合(EU)はいずれも、中国製EVに対して高率の輸入関税を課している。

一方、イギリス政府は同様の措置を講じる予定はないとしている。そのため、イギリスはシャオペンやBYDといった中国メーカーにとって魅力的な市場となっている。シャオペンは今年3月、「G6」モデルのイギリス向け納車を開始し、BYDは今月、「ドルフィン・サーフ」モデルを同国市場に投入した。価格は2万6100ドル(約380万円)からとされている。

こうした動きは、国連が気候危機を回避するための「カギ」と位置づけるEVへの移行を積極的に支援する西側諸国の政府にとって、歓迎すべき展開といえる。

イギリスを含む複数の西側諸国は、2030年までにガソリン車およびディーゼル車の販売を禁止する方針を打ち出している。この目標の実現を最も助けてくれるのが中国だとされている。

「中国は、将来的に世界中のあらゆる車を自国で製造することを見据えている。中国は周囲を見渡して、『我々より優れたことができる国があるか?』と問いかけている」と、自動車業界アナリストのダン氏は語った。

「デトロイト、名古屋、ドイツ、イギリス――世界中の自動車産業の中心地の指導者たちは、首を振っている。時代は変わり、中国は自らの将来に大きな自信を持っている」

一方で、環境面での利点があるにもかかわらず、中国の技術に依存することへの懸念や不信感は依然として根強い。

イギリス対外情報部(MI6)の元長官、リチャード・ディアラブ卿は最近、中国製のEVは「車輪のついたコンピューター」であり、「北京から制御可能だ」と警鐘を鳴らした。

ディアラブ氏が、中国製EVが将来的にイギリスの都市機能を停止させる可能性があると主張したことについて、BYDの李柯副社長は、BBCのインタビューでこれを一蹴した。

「ゲームに負けた人は何でも言える。でも、それがどうしたというのか」と、李氏は述べた。

「BYDは非常に高い水準のデータセキュリティーを確保している。すべてのデータは現地の通信事業者を通じて処理しており、実際には競合他社より10倍優れている」

それでも、ディアラブ氏の懸念は、過去に中国製技術をめぐって繰り返されてきた国家安全保障上の議論を想起させる。

その例としては、通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の製品が複数の西側諸国で禁止された件や、動画配信アプリ「TikTok」がイギリス政府の公用端末で使用禁止となった事例がある。

一方、広州市に住むスン・ジングオ氏は、こうした議論をよそに、次のように語った。

「この技術を世界にもたらした中国に、世界は感謝すべきだと思う」

「私は本当にそう思っている」と、スン氏は笑いながら述べた。

追加取材:セオ・レゲット国際ビジネス担当編集委員(ロンドン)

(英語記事 How China made electric vehicles mainstream

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c0epwe959w4o


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