2025年7月16日(水)

BBC News

2025年6月25日

ショーン・セドン、BBCニュース

今月13日以降、イスラエルはイランの軍事インフラに損害を与え、イランはイスラエルの防衛システムをすり抜けてミサイルを落とし、アメリカはイランの核開発計画を攻撃した。

そして、23日からのめまぐるしい24時間の内に、事態はさらに加速した。

米空軍基地が攻撃され、米ホワイトハウスはイランとイスラエルの停戦を仲介したが、その停戦は崩壊寸前まで至った。

揺れ動いた1日を振り返る。

「屋内で避難を」

07:00 首都ワシントン/ 12:00 ロンドン / 14:00 テルアヴィヴ/ 14:30 テヘラン

中東の紛争が湾岸諸国へ広がろうとしていた。それを示す最初の兆候は、カタールにいる米国民に対する冷静な言葉による警告だった。

米政府は「屋内で避難を」と呼びかけ、「十分な用心のためです」と付け加えて、安心させようとした。

英政府も直後、同様の勧告をした。

イランがカタールでアメリカに反撃する可能性は常にあった。カタールの首都ドーハの郊外には、米軍の広大なアルウデイド基地がある。数千人の兵士が駐留する同基地は、中東でのアメリカの空の作戦を統括する場所だ。

イランの指導者らは、国内3カ所の核施設が22日未明にアメリカから前代未聞の攻撃を受けたことに対し、報復を誓っていた。攻撃された施設には、山中の地下深くにあるフォルド濃縮施設も含まれていた。

イラン最高指導者のアリ・ハメネイ師は、イスラエルの軍事作戦が始まって以来、地下シェルターで避難を続けているとされる。そしてハメネイ師はそのシェルターから、アメリカへの反撃を命じ、アメリカにとって中東で最も戦略的に重要な資産を狙うよう指示したとみられる。

「信じるに足る脅威」

12:00 首都ワシントン/ 17:00 ロンドン / 19:00 テルアヴィヴ/ 19:30 テヘラン

カタール政府が、同国上空の封鎖を発表した。

ドーハの航空管制官らは急ぎ、旅客機に引き返すよう指示を開始。発着の多さで世界有数のドーハの空港に向かっていた各便は、別の湾岸諸国に着陸し始めた。

BBCはその後、イランがアルウデイド空軍基地をミサイル攻撃するという「信じるに足る脅威」があると知った。

米政府関係者らは匿名で米メディアに対し、イランのミサイル発射装置がカタールに向けられているのが確認されたと説明した。

ピート・ヘグセス米国防長官と軍最高幹部らは、状況を注視するためホワイトハウスに向かった。

1時間もしないうちに、ドーハ上空で爆発音が響いた。豪華な高層ビル群の上には、イランの兵器を追跡する防空ミサイルの軌跡が残った。

「強みではなく弱点」

13:00 首都ワシントン/ 18:00 ロンドン / 20:00 テルアヴィヴ/ 20:30 テヘラン

イラン国営メディアが、アメリカに対する報復攻撃が行われていると報じ始めた。この直後に、イランの革命防衛隊がその事実を認めた。

「この地域の米軍基地は強みではなく、弱点だ」と革命防衛隊は主張した。ただ、攻撃はまもなく終わった。

カタールがアメリカより先に反応した。攻撃対象は米軍基地だったが、カタールの主権が「厚かましい攻撃」によって侵害されたと、同国政府は激怒した。

だが重要なのは、ミサイルは迎撃されたとカタールが発表したことだった。基地は攻撃開始前に避難が終わっており、死傷者はゼロだった。

同じころ、ハメネイ師のソーシャルメディア「X」アカウントに、扇動的なイラストが投稿された。米軍基地にミサイルが降り注ぎ、ぼろぼろのアメリカ国旗が燃えている図柄だった。

だが、このアカウントは破壊をたたえるのではなく、「私たちは誰も傷つけなかった」と書いた。

イランの攻撃計画をどうやらアメリカとカタールが事前に知っていたことが、うかがわれ始めていた。

外部のアナリストの目には、イランの指導者らがメンツを保ちつつ、対立激化を避けられるよう画策された動きに見えた。

イラン指導層は、アメリカに報復したぞと国民向けにアピールできる。そしてその報復は、自分たちよりはるかに強力な敵との直接戦争につながるような、そこまでの損失は相手に与えないという形のものだった。

緊張緩和が見えてきた。そして世界は、アメリカ大統領がソーシャルメディアにログインするのを待った。

「平和の時」

16:00 首都ワシントンDC / 21:00 ロンドン / 23:00 テルアヴィヴ/ 23:30 テヘラン

「弱い」、「予想通り」、「効果的な対処がとられた」。

イランの米軍基地攻撃について語った、ドナルド・トランプ米大統領の言葉だ。大統領の語り口は時間がたつにつれ、融和的なトーンが増していった。

トランプ氏は、イランが「早期通告してくれた」ことに感謝し、「すべてを『システム』から出していた」とした。

そして、「おそらくイランは今、この地域の平和と調和へと進むことができるだろう」とした。

この2時間前には、イランは米空軍基地を攻撃していた。その2日前には、トランプ氏はイランに対する前例のない攻撃を命じた。トランプ氏はかねて、イランは邪悪で、世界の安全を脅かす危険な存在だと言い続けていた。

それが今では、トランプ氏はイランの指導者らに、平和に向けて「オリーブの枝」を差し出していたのだ。

この時のトランプ氏の一連の投稿は、大勢を混乱させた。そしてその締めくくりに、トランプ氏はすべて大文字でこう書いた。「おめでとう、世界。平和の時がきた!」。

「12日間戦争」

18:00 首都ワシントン/ 23:00 ロンドン / 01:00 テルアヴィヴ/ 01:30 テヘラン

この時、アメリカ、イラン、イスラエル、カタールが水面下で忙しく協議を進めていたことが、後に明らかになった。

トランプ氏は、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と直接電話で話した。トランプ氏にとってネタニヤフ氏は盟友だ。ネタニヤフ氏がイランに仕掛けた戦争に、短時間参加するほどの関係だ。電話は非公開だったが、伝えた内容は明らかだ。戦いを終える時だと、トランプ氏はイスラエルの首相に伝えたのだ。

この間、アメリカのJ・D・ヴァンス副大統領と、首席国際交渉官のスティーヴ・ウィトコフ中東担当特使は、イラン側と直接、そして外交の裏ルートを通じて、接触していた。

ワシントンではトランプ氏のチームが、「取引」を急いでまとめようとしていた。取引こそ、トランプ氏が何より大切にしているものだし、それなのに中東ではなかなか実現してこなかったのだ。

成功した、いやうまくいっていない――などの情報が出回り始めた。だが、前進が報じられるようになると、徐々に、そして確実に、機運が高まっているように見えた。

そして、イギリス時間午後11時(日本時間翌午前7時)過ぎ、トランプ氏は再びソーシャルメディアに現れ、こう書き込んだ。「みんな、おめでとう」。

完全かつ全面的な停戦がイランとイスラエルの間で合意されたと、トランプ氏は書いた。「進行中の最終任務」のために一定の時間を設け、発効は6時間後とした。

また、この紛争は今後、「12日間戦争」と呼ばれるべきだと、トランプ氏は書いた。

アメリカから約1万キロメートル離れた中東では、また新しい一日が幕を開けつつあった。

「最後のミサイル攻撃」

22:00 首都ワシントン/ 03:00 ロンドン / 05:00 テルアヴィヴ/ 05:30 テヘラン

イスラエル全土で空襲警報のサイレンが鳴り響き、市民はシェルターへ向かうよう指示された。イスラエル国防軍(IDF)は、イランから発射されたミサイルが接近中だと警告した。

イスラエルによると、イランは1時間足らずの間に3度のミサイル攻撃を実施。その後も朝にかけて、さらに複数のミサイルが発射されたとイスラエル軍は主張した。

イスラエル南部ベエルシェバでは、複数階建ての集合住宅にミサイルが直撃し、4人が死亡した。このうち少なくとも3人が身を潜めていたセーフルーム(防護室)に、ミサイルが貫通した。

ネタニヤフ首相は、イランが保有する中で最大級のミサイルを住宅地への攻撃に使用したと非難した。

同じころ、イラン・メディアは、北部アスタネーイェ・アシュラフィイェの町がイスラエルによる激しい夜間攻撃を受け、9人が死亡したと報じた。死者には核科学者モハマド・レザ・セディギ・サベル氏も含まれるとされる。

同地域の副知事は、アパート4棟が「完全に破壊され、周辺の住宅も爆発で損傷を受けた」と述べた。現場の状況をとらえた複数の写真には、住宅が立ち並ぶ通りの一面にがれきが散乱する様子が写っていた。

停戦合意の発効間際にイスラエルが「最後のミサイル攻撃」を行ったのだと、イランは非難した。

その後、イスラエル国防軍も夜間に作戦を実施したことを認めた。隣国イラクの政府は、自国領内の基地がドローン(無人機)による攻撃を受けたと主張した。イラクでは親イラン武装勢力が活動しているが、この攻撃の標的の詳細は明らかになっていない。

ただ少なくとも、戦闘が停戦合意が発効するぎりぎりまで続いていたことは確かだ。

「停戦が発効」

01:00 首都ワシントン/ 06:00 ロンドン / 08:00 テルアヴィヴ/ 08:30 テヘラン

トランプ大統領は「停戦が発効した。絶対に破るな!」とすべて大文字で、ソーシャルメディアに投稿し、停戦開始を宣言した。

それから間もなく、イスラエル政府も停戦で合意したと正式に認めた。

イスラエルは声明で、イランの核と弾道ミサイルの能力を排除するという戦争目的を達成し、その結果としてイスラエルは「世界の強国」の一員となったと主張した。

一方で、イランのセイエド・アッバス・アラグチ外相はすでに夜のうちに、トランプ氏が提案した停戦案を受け入れる用意があると示唆していた。アラグチ氏は、イスラエルが現地時間午前4時までに攻撃を停止すれば、「それ以降に報復を続けるつもりはない」と述べた。

しかし、停戦合意が発効してそれほどたたないうちに、危機的状況が訪れた。

イスラエル国防軍は、停戦開始後にイランからミサイルが発射され、防空システムが作動したと発表した。

イランは攻撃を否定したが、イスラエルのイスラエル・カッツ国防相は「テヘラン中心部にある(イランの)体制の拠点に激しい攻撃」を行うよう命じたと発表。イスラエル閣僚で極右のベザレル・スモトリッチ財務相は「テヘランは揺れることになる」と警告した。

トランプ氏が大急ぎでまとめた停戦合意は、発効からわずか数時間後には、崩壊しつつあるように見えた。

イスラエルの戦闘機がイランの首都へ向かう中、トランプ氏は再び、すべて大文字でこう投稿した。「その爆弾を落とすな。そんなことをすれば大々的な違反だ。操縦士たちを帰還させろ。ただちに!」。

「あの連中は落ち着くべき」

07:00 首都ワシントン/ 12:00 ロンドン / 14:00 テルアヴィヴ/ 14:30 テヘラン

一夜明けたワシントンでは、トランプ氏がホワイトハウスの庭に姿をみせ、待機する大統領専用ヘリコプターに乗り込もうとしていた。オランダ・ハーグで24日から開催される北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席するためだった。

報道陣も集まっていた。様々な発表や、主張や、否定が目まぐるしく飛び交った前夜について、トランプ氏が何を語るのかを聞き逃さないよう待ち構えていた。

トランプ氏は、イスラエルとイランの双方が停戦合意に違反したとしながら、合意自体はまだ有効だと主張した。

停戦合意発効後にイランへ向かっていたイスラエルの戦闘機を帰還させるよう、ネタニヤフ首相に求めたことについては、こう述べた。「時間制限のあとに発射されたロケット砲が一発あったんだろう。それでイスラエルは出動するという。あの連中には、落ち着けと言いたい」。

トランプ氏はさらに、合意が成立した直後に「これまで見たことのないような」攻撃をイスラエルが仕掛けたのが「気に入らない」と述べた。怒っている様子だった。

続けて、「イランについても、良いとは思っていない」とも述べた。

トランプ氏は報道陣に背を向けて立ち去ろうとしつつ、イスラエルとイランに対する不満を爆発させた。「あまりにずっと長いことすごく必死に戦ってきた二つの国があって、もう自分たちが何してるのかまったくわかっていないんだ」と、トランプ氏は強調語としての罵倒語を交えて話した。

大統領専用ヘリ「マリーン・ワン」に乗ってメリーランド州の空軍基地へ移動したトランプ氏は、大統領専用機「エアフォース・ワン」に乗り換えた。

オランダへ向かう機内で、トランプ氏はネタニヤフ氏に電話をかけた。2人は緊迫したやり取りを交わしたようだ。

BBCがアメリカで提携するCBSニュースは、ホワイトハウス関係者の話として、トランプ氏がネタニヤフ氏に「極めて厳しく、率直な」態度を示したと報じた。ネタニヤフ氏の方は、「事態の深刻さと、トランプ氏が表明した懸念を理解した」という。

報道によると、トランプ氏はエアフォース・ワンに同乗する記者団に対し、イスラエルの軍用機がイランを攻撃する寸前だったことをほのめかした。そして、軍用機を帰還させるようネタニヤフ氏に求めたのだと認めた。

イランの指導部に関しては、核兵器の開発などそんなことを考えるのは「最後のこと」のはずだと、トランプ氏は述べた。

(英語記事 How a volatile 24 hours edged Iran and Israel to a ceasefire

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c5ylrxx6vvyo


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