
BBCワールドサービス・グローバル偽情報取材チーム
森林の空き地で、2人の人物が木製の柱の列の後ろに立っている。柱の上には、顔写真が貼られている。
写真には、アメリカのドナルド・トランプ大統領、J・Dヴァンス副大統領、実業家のイーロン・マスク氏の肖像が含まれている。その前にはアメリカ国旗が掲げられている。
2人の人物は、青い印が付いた迷彩服を着用している。この青色は、戦場でウクライナ兵が識別のために用いる色だ。
「我々にはお前たちのような同盟国は必要ない」と、1人がウクライナ語で述べ、国旗と肖像に火をつけた。
しかし、この映像は演出されたものであることが明らかになっている。着用されている制服は、インターネット上で容易に購入できる一般的な迷彩服であり、ウクライナ語の発音も非常に不自然で、強いロシア語なまりがある。
この映像は、メッセージアプリ「テレグラム」内のポーランド語チャンネル「Polska Grupa Informacyjna」で共有された。このチャンネルは、BBCが特定した22件のポーランド語チャンネルの一つだ。これらのチャンネルは合わせて15万人以上の登録者を抱え、さまざまな形態の親ロシア的な偽情報やプロパガンダを拡散している。
テレグラムはポーランドで広く使用されているわけではないが、専門家によると、同アプリ上で発信された虚偽のメッセージが過激派グループの間で拡散され、その後、より大勢が利用する他のプラットフォームへと広がっているという。
BBCが特定した22件のポーランド語チャンネルの多くは、自らをポーランドのニュース・情報サービスと称している。そのうち2件は「中立的」であると主張し、1件は「偏りのない」ニュースを提供するとしている。あるチャンネルは、「一般には知られていない、信頼できる検証済みの情報」を提供すると主張し、別のチャンネルは「真実が求められる場所に我々はいる」というスローガンを掲げている。
これらのチャンネルの大半は、ロシア国営メディアであるRT(旧ロシア・トゥデイ)やスプートニクの報道を頻繁に引用・転載している。これらのメディアは、情報操作やプロパガンダの拡散を理由に、欧州連合(EU)内で禁止されている。ポーランドはEU加盟国だ。
こうしたチャンネルはまた、ロシア政権の関係者や支持者の発言を頻繁に引用したり、リンクしたりしている。引用されているのは、ウラジーミル・プーチン大統領、ドミトリー・メドベージェフ国家安全保障会議副議長、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官、ロシアのプロパガンダ番組のテレビ司会者のウラジーミル・ソロヴィヨフ氏、そして「Zブロガー」と呼ばれる親ロシア派の戦争評論家たちなどだ。
一部の投稿には、明らかに虚偽の情報が含まれている。たとえば、「UKR LEAKS_pl」というチャンネルが投稿した画像には、軍服姿の人物が人々に血のりを塗っている様子が写っており、「『ブチャの犠牲者』がどのように準備されたか」とのキャプションが添えられている。これは、2022年にロシア軍がウクライナのブチャで数百人を殺害した、広く記録された事実を否定する意図があるとみられる。
また、複数のチャンネルがウクライナの指導者や兵士を「ナチス」と呼ぶ表現を繰り返している。「InfoDefensePOLAND」というチャンネルは、ある投稿でウクライナ政府を「ナチス政権」と呼び、「アメリカや西側諸国に支配されている」と主張している。
これらのチャンネルでは、真実と虚偽の情報を混在させて共有したり、重要な情報を意図的に省略し、誤解を招く印象を与えたりすることが多い。
たとえば6月17日、ロシアはウクライナの首都キーウにここ数カ月で最大規模の攻撃を実施し、住宅地が直撃された。ウクライナ当局によると、この攻撃で少なくとも28人が死亡した。
しかし、22件のチャンネルのうち半数以上がこの事件を完全に無視し、一部のチャンネルは代わりに、ウクライナにおけるロシア軍の前進を強調する内容を投稿した。また、他のいくつかのチャンネルは、クレムリン(ロシア大統領府)の主張をなぞる形で、死傷者の責任はウクライナにあるとし、ロシアの攻撃は軍事施設のみを標的にしていると主張した。
引用と再投稿
BBCがテレグラムのデータを分析した結果、多くのチャンネルが2022年のロシアによるウクライナへの全面侵攻の時期に登場したことが明らかになっている。
少なくとも3件のチャンネルは、当初ロシア語で情報を発信していたが、その後ポーランド語に切り替えて再ブランディングされた。
テレグラムのデータによると、22件のチャンネルの大半が互いに頻繁に引用、再投稿、言及を行っている。2022年および2023年には、「優良なポーランド語テレグラム情報源」と称するリストを共有し、フォロワーに購読を呼びかける投稿も確認されている。
ポーランドは、ロシアの全面侵攻以来、ウクライナを支援する国々の中で重要な役割を果たしてきた。特に侵攻初期には、軍事支援や装備の提供において先導的な立場を取った。
一方で、ロシアの攻撃対象となることを懸念し、ポーランドはEUや北大西洋条約機構(NATO)で、防衛分野のパートナーとしての存在感をますます高めている。また、2022年以降、約100万人のウクライナ難民を受け入れている。
テレグラムは「出発点」
ポーランドのファクトチェック(事実確認)団体「デマゴグ」に所属するアレクシ・シムキエウィチ氏によると、2022年以降、ロシアによる偽情報や影響工作は「ポーランドのデジタル情報空間における恒常的な要素」となっているという。
シムキエウィチ氏は、テレグラムが情報の「出発点」として機能していると指摘する。
「虚偽または操作的な主張はまずテレグラムに投稿され、そこからXなどのより大きなプラットフォームに拡散する。そしてXから、たとえばフェイスブックのグループ内での議論へと波及していく」
同氏によると、これらの親ロシア的なテレグラムチャンネルは、ウクライナへの支援を思いとどまらせ、世論を分断し、ポーランド社会とウクライナ社会の間に亀裂を生じさせることを目的としているという。
シムキエウィチ氏はまた、ポーランド国内ではウクライナからの難民の支援に対する疲弊感が見られるようになっており、その一因として反ウクライナ的なプロパガンダの影響があると述べた。
これらのチャンネルで拡散されているメッセージの中には、露骨に親ロシア的または反ウクライナ的なものもあるが、より巧妙なものも存在する。
たとえば最近の投稿の一部では、ロシアの脅威に対抗しようとするEU諸国の防衛支出の増加が、ポーランド人を含む市民を貧困に追い込んでいると示唆している。
また、よく見られる主張として、ウクライナ難民に関する根拠のない一般化がある。こうした主張では難民らを、攻撃的で法を犯し、受け入れ国の負担となっている存在として描いている。
シムキエウィチ氏は、こうしたメッセージが「実際の不安に訴えかけている」と指摘し、ポーランド社会に存在する経済的・文化的な懸念を巧みに利用していると述べた。
首都ワルシャワにある国立研究機関「NASK」の上級アナリスト、フィリプ・グウォワチ氏は、ポーランドには「ロシアに対する強い歴史的な反感」があると説明する。ポーランドはかつて数十年にわたり、ソヴィエト連邦の影響下に置かれていた。
そのため、「あからさまな親ロシア的メッセージは効果がない」ことがあり、親ロシアのメッセージを広めたい勢力は時に「極右的な内容や陰謀論などと組み合わせて、クレムリン寄りの主張を押し出す」ことがあるという。
グウォワチ氏は、テレグラムが極右コミュニティーや陰謀論者の間で特に大きな影響力を持っていることから、こうした情報拡散に「理想的なプラットフォーム」だと話した。
チャンネルの運営者は?
多くのチャンネルの運営者の正体は不明のままだが、専門家らによると、ロシアやその同盟国であるベラルーシとの関係がうかがえるという。NASKのグウォワチ氏は、多くのチャンネルの投稿時間が、モスクワの勤務時間帯に沿ったシフト制のスケジュールに従っているようだと話した。
「UKR LEAKS_pl」は、複数言語で展開されるテレグラムチャンネルと関連プラットフォームから成る「UKR LEAKS」グループの一部だ。このグループは、ウクライナ保安庁(SBU)の元職員で、後にロシア側に転向したワシリー・プロゾロフ氏によって運営されている。
「InfoDefensePOLAND」は、30以上の言語で活動している「InfoDefense」グループに属している。運営には、ウクライナ出身で現在はロシアに滞在している親ロシア派のブロガー、ユーリ・ポドリャカ氏が関与しているとされる。ポドリャカ氏は、ロシア政府と協力したとして、ウクライナの裁判所から欠席裁判で有罪判決を受けている。
同チャンネルはBBCに対し、「世界中に500人以上のボランティアがいる。ロシアを支持する人々は世界中に多く存在し、そういう人たちが我々を支援している。ユーリ・ポドリャカ氏もその一人だ」と述べた。
「Pravda PL」というチャンネルは、親クレムリン派のニュースサイトやSNSページから成る大規模な国際ネットワーク、「Pravda」グループ傘下にある。
フランスの偽情報対策機関「ヴィジナム」によると、このグループはロシアが占領するクリミアに拠点を置いているロシアのIT企業と関係があるという。
ニュースや情報サイトの信頼性を評価する企業「ニュースガード」によれば、「Pravda」はそのコンテンツを広範囲に拡散しており、AIチャットボットの応答にも「感染」を広げているという。
ニュースガードは、Pravdaで共有された虚偽の主張を用いて、10種類のチャットボットを検証した。その結果、チャットボットがこれらの偽情報を繰り返したり、引用したりする場合がある一方で、疑問を呈するケースもあったと報告している。
なお、「Pravda」と「UKR_LEAKS」は、BBCのコメント取材に応じなかった。
アメリカの肖像画を燃やす映像を共有した「Polska Grupa Informacyjna」は、ウクライナ側の視点を含む多様な内容を投稿している。同チャンネルはBBCに対し、自分たちは「独立系ニュースチャンネル」で、「最も重要な原則は中立性だ」と述べ、親クレムリン的な主張を広めているとの指摘を強く否定した。
また、投稿コンテンツについては「ネット上で出回っている物議を醸す資料の一例として共有されている可能性があり、編集部としての承認や評価は伴っていない」と説明した。また、内容が偽情報であると判明した場合には、削除や訂正を行うとしている。
一方、ファクトチェック団体「デマゴグ」のシムキエウィチ氏は、テレグラム上での親ロシア的な偽情報の拡散について懸念を示している。これは、RTやスプートニクといった国営メディアのコンテンツが、ポーランド語のメディア空間に残り続け、広範な視聴者に届いてしまうことを意味するという。
「こうしたコンテンツは、しばしば虚偽であり、操作されているか、完全に捏造(ねつぞう)されたものだ」とシムキェヴィチ氏は述べた。
さらに同氏は、反ウクライナ的な投稿が「ロシア政権の視点や主張をポーランドの公共言論空間の中で正当化し、定着させる役割を果たしている」と警鐘を鳴らした。
(英語記事 The Telegram channels spreading pro-Russian propaganda in Poland)