2025年7月16日(水)

BBC News

2025年6月30日

国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長は、イランがIAEAとの協力関係を断っても、核開発をめぐる交渉が今後も行われることを期待していると述べた

国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長は28日、イランには核兵器の製造に転用可能なウラン濃縮を「数カ月以内」に再開できる能力があるとの見解を示した。

グロッシ事務局長は、アメリカが中東の現地時間22日未明にイランの主要核施設3カ所を空爆したことについて、深刻な被害をもたらしたものの、「完全な」破壊には至らなかったと述べた。この見解は、この空爆で核施設が「完全に抹消された」とするドナルド・トランプ米大統領の主張と相反する。

「率直に言って、(核施設の)すべてが消滅し、何も残っていないとは言えない」と、グロッシ氏はBBCがアメリカで提携するCBSニュースに語った。

イスラエルは13日、イランが核兵器の製造に近づいていると主張し、イラン国内の核施設や軍事拠点への攻撃を開始した

アメリカもその後、イランのフォルド、ナタンズ、イスファハンにある核施設3カ所を空爆した。ただ、被害の全容はいまだ明らかになっていない。

ウラン濃縮再開の可能性

グロッシ氏は、イランが「数カ月以内に(中略)複数の遠心分離機を稼働させ、濃縮ウランを生産できる」可能性があると、CBSに語った。

さらに、イランには依然として「産業的・技術的な能力」があるとし、「イランが望むなら、それを再開できる」と付け加えた。

イランが今も核開発能力を維持している可能性を指摘したのは、IAEAが初めてではない。24日には、米軍のイラン空爆は核開発計画を数カ月後退させただけだとする、米国防総省の主要情報機関である国防情報局(DIA)の初期評価の内容が流出した。

ただし、今後の情報次第では、異なる被害の程度が示される可能性もある。

DIAの初期評価にトランプ氏は激怒し、イランの核施設は「完全に破壊された」と宣言。「歴史上最も成功した軍事攻撃の一つをおとしめようとする試み」だとメディアを非難した。

現在のところ、イランとイスラエルはトランプ氏が仲介した停戦合意を守っている。

しかしトランプ氏は、米情報機関がイラン国内で懸念される水準までウランが濃縮される可能性があると判断すれば、イランへの爆撃を「間違いなく」検討するとしている。

イラン軍のアブドルラヒム・ムサヴィ参謀総長は29日、イラン政府には、イスラエルが停戦合意を順守するという確信はないと述べた。

「我々が戦争を始めたわけではないが、侵略者に対して全力を尽くして応じた。敵が停戦を含む取り組みを守るか非常に疑わしいため」、再び攻撃された場合に「武力で応戦する用意をしている」と、ムサヴィ参謀総長が述べたと、イラン国営テレビは伝えた。

核施設の状況

こうした中、イラン国内からは、核施設の被害状況について異なる見解が示されている。

イラン最高指導者アリ・ハメネイ師は26日の演説で、アメリカの攻撃はイランの核開発計画を中断させることにおいて、「何ら重要なことを成し遂げ」なかったなどと述べた。一方でアッバス・アラグチ外相は、「過大かつ深刻な」損傷を受けたとした。

すでに緊迫していたイランとIAEAの関係は、さらに悪化している。イラン議会は25日、IAEAがイスラエルとアメリカの側についているとして、IAEAとの協力関係を終了させる法案を承認した。IAEAによる核施設の査察を認めないことになる。

IAEAは被害を受けた核施設の査察を求めているが、イランは拒否している。アラグチ外相は、「保障措置を口実に、グロッシ氏が爆撃現場への訪問にこだわるのは無意味だ。むしろ悪意のある意図があるかもしれない」とソーシャルメディアに投稿した。

イスラエルとアメリカは、IAEAが先月、イランが核拡散防止義務に違反していると指摘したことを受けて、イランを攻撃した。違反が指摘されたのは過去20年で初めて。

イランは、自国の核開発は平和目的で、民生用に限るものだと一貫して主張している。

イランはIAEAへの協力を拒否している。それでもグロッシ氏は、核開発をめぐる交渉が今後も行われることを期待していると述べた。

「私はイランと腰を据えて、この問題を検討しなければならない。結局のところ、軍事攻撃の後であっても、長期的な解決策が必要だからだ。外交的な解決策でなければならない」

2015年にイランと主要国との間で締結された核合意では、イランはウランを3.67%以上の濃度に濃縮することを禁じられた。これは、商業用原子力発電所の燃料に必要な濃縮度だ。合意では、フォルド施設での濃縮活動も15年間は禁止された。

しかし、アメリカのドナルド・トランプ大統領は1期目の2018年にこの合意から一方的に離脱。合意は核兵器開発への道を十分に封じるものではないとして、対イラン制裁を再発動した。

これに対しイランは、特に濃縮に関する制限を次々と破る形で報復措置を取り、2021年にはフォルドでの濃縮活動を再開した。IAEAによると、イランは現在、60%濃縮ウランを核兵器9個分に相当する量まで蓄積しているとされている。

(英語記事 Iran could start enriching uranium for bomb within months, UN nuclear chief says

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cy0wje82rwno


新着記事

»もっと見る