2025年7月16日(水)

BBC News

2025年6月30日

ニック・ソープ・ブダペスト特派員

ハンガリーの首都ブダペストは、「パーティーの街」だと自己アピールする。そしてそのパーティーは28日には街頭にまで広がり、真夏の猛暑の中、エルジェーベト橋やドナウ川両岸の川沿い、さらには市中心部を占拠した。

ペスト側からブダ側へと、主に若者を中心とする10万人から20万人が、歌い踊りながら行進した。

ふだんは徒歩で20分ほどの距離を移動するのに、この日は3時間かかった。

ブダペストではこの日、性的マイノリティー(LGBTQ)の誇りを掲げる「プライド」パレードが行われた。以前は参加してこなかったという人たちは、オルバン・ヴィクトル首相による禁止措置を受けて、今年は参加することにしたのだと話した。昨年の参加者はわずか3万5000人だった。

今回のパレードでは、オルバン首相をからかうような内容の横断幕やプラカードがあちこちで目を引いた。オルバン氏が過去15年間にわたり「敵」と見なしてきた人々による、平和的な「復讐」のように思えた。

ある手作りのプラカードには、「歴史の授業で独裁を見抜く力は身につけた。わざわざ見せてくれなくてもいいよ、ヴィク!」と書かれていた。また別のプラカードには、「もうファシズムにはうんざり」とあった。

オルバン首相の顔に、鮮やかなアイシャドウと口紅を施したTシャツも、会場の至るところで見られた。

LGBTコミュニティーがカラフルな装飾と共にパレードの中心を担った一方で、今年のプライドは、人権と連帯を祝うイベントへと発展した。

ブダペストのカラーチョニ・ゲルゲイ市長は、ブダペスト工科経済大学前での演説で、「禁止されたようには見えないだろう!」と、笑顔を見せながら群衆に語った。

この日のパレードは、カラーチョニ市長の政治経歴における頂点として記憶される可能性がある。中央政府との対立が続き、資金難に苦しむ同市は、政府が禁止しようとしたイベントの開催に踏み切り、少なくとも現時点では勝利を収めた。

「むしろ私たちは、肥大した憎しみの権力に対して、平和的かつ自由に、堂々たるショーを披露しているように見える。このメッセージは明確だ。彼らには我々を支配する力はない!」と、カラーチョニ氏は続けた。

参加者の中には、フィンランドの欧州議会議員リ・アンダーソン氏の姿もあった。アンダーソン議員は、オルバン首相が家族の価値観を口実に行進を禁止しているように思うと述べた。

「私たちがここにいるのは、プライドだけが理由ではないと強調することが重要だ。これは私たち全員の、基本的権利に関わる問題だ」

今回の禁止措置は、オルバン首相率いる与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」が、議会で多数を占める中で可決された新法に基づくもの。この法律は、集会の自由を2021年に制定された「児童保護法」の下位に置く内容。2021年の児童保護法は同性愛を小児性愛と同一視し、子どもが目にする可能性のある場所での同性愛の描写や推進を禁止している。

警察は、子どもが行進を目撃する可能性があることを理由に、28日のパレードを禁止した。これに対しカラーチョニ市長は、2001年に制定された法律を引き合いに出し、「自治体が主催するイベントは集会の自由の対象外だ」と反論した。

最終的には、パレードに立ち会った警察官たちは控えめな態度を保ち、まるで自分たちが締め出されたパーティーを悲しげに見守っているかのようだった。

保守派の反応は

一方、市内の別の場所では、オルバン首相が新たに任命された警察官と税関職員、そして国家外国人警備総局の新任職員162人の卒業式に出席していた。

「秩序は自然に生まれるものではない。創り出さなければならない。秩序がなければ、文明的な生活は失われる」と、オルバン氏は学生とその家族に語った。

その前には、オルバン氏や与党幹部らが、自身の子どもや孫と一緒に写った写真をソーシャルメディアに投稿し、「プライド(誇り)」という言葉を取り戻そうとする動きを見せていた。

ブダペスト市議会のフィデス会派の代表は、「私たちが何を誇りに思っているか、写真を投稿して見せよう」として、「ハンガリー」と書かれた地味なTシャツを着た自分の写真をフェイスブックに投稿した。

28日のブダペストでは、警察の対応は抑制的だったが、パレードに先立ち設置された仮設カメラや警察車両の搭載カメラが、イベント全体を記録していた。

プライドの開催を禁止しようと3月に制定された法律は、警察に顔認識ソフトを使用する権限を与えた。この法律により、パレードの参加者には14ポンド(約2700円)から430ポンド(約8万3000円)の罰金が科される可能性がある。

親政府系メディアは、この日のイベントに対して痛烈な批判を展開。フィデス党幹部の発言をなぞる形で「この行進は集会の自由とは無関係な倒錯の祭典だ」と非難した。

政府寄りの現地紙マジャル・ネムゼトは、「ブダペスト・プライドで混乱」という見出しを掲げた。

同紙はまた、「悪名高い気候活動家で、最近ではテロリスト支持者ともされるグレタ・トゥーンベリが、自分のインスタグラムに『ブダペスト・プライドに参加している』と投稿した」と報じた。

政府寄りの政治アナリスト、キセリー・ゾルターン氏はBBCの取材に対し、「このデモの是非は今後、裁判所で争われることになる」話した。

「もし裁判所が市長やプライド主催者側の主張を認めれば、オルバン首相は『では、また法律を変えなくてはならない』と言うだろう」

一方で、裁判所が政府側の主張を支持すれば、プライドが実施された事実があったとしても、オルバン首相は自身が推進した法律に満足することになる。

(英語記事 Thousands party at Budapest Pride in clear message to Orban

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cev04vwj2zko


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