パレスチナ・ガザ地区北部ガザ市から避難する住民（29日）
イスラエルは29日、パレスチナ・ガザ地区北部の一部地域に住むパレスチナ人に対し、軍事作戦の拡大に備えて南部へ避難するよう命じた。この命令は、ドナルド・トランプ米大統領が、イスラエルとイスラム組織ハマスに停戦合意の実現を迫る中で出された。
避難の対象となるのは、ガザ北部ガザ市とジャバリアの住民。イスラエル国防軍（IDF）は、軍事作戦を「激化させ、西方へ拡大する」ため、南部の沿岸地区アルマワシへの避難を求めた。
ハマスが運営するガザ保健省によると、29日正午までの24時間で少なくとも86人がイスラエルの攻撃で死亡した。
死者のうち3人は子供で、いわゆる「安全地帯」とされるアルマワシにいたところ、空爆があったという。3人の両親が明らかにした。
トランプ氏は、「ガザで合意を成立させ」、ガザで拘束されている「人質を返す」ことを繰り返し求めている。
トランプ氏は自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相がハマスとの合意について「今まさに」交渉中だと投稿した。
こうした中、IDFのアラビア語報道官アヴィチャイ・アドラエ氏は29日、IDFがガザ北部で「テロリストとそのインフラの排除」を目的とした作戦を展開していると発表した。
医療関係者や住民はロイター通信に対し、29日未明からガザへの爆撃が激化し、複数の住宅が破壊されたと証言した。
ハマスが運営するガザの民間防衛隊は、同日だけで少なくとも23人が死亡したと報道機関に伝えた。
また、南部ハンユニス近郊のアルマワシでは、避難民が暮らすテントがイスラエルの空爆を受け、5人が殺害されたと医療関係者が明らかにした。この地域は、ガザ北部の住民が避難先として指定されていた場所だった。
イスラエルの空爆では、子供3人を含むマアルーフ家の5人が殺害された。
母親のイマン・アブ・マアルーフ氏は、「地面で寝ていたところを爆撃された」と語った。「私たちは何も悪いことをしていないのに、子供たちは殺され、残りの家族は集中治療室にいる」。
父親のゼヤド・アブ・マアルーフ氏はロイター通信に対し、一家はイスラエルの指示で1カ月前にアルマワシに到着したばかりだと述べた。
この事案について問われると、IDFはBBCに対し、詳細な情報は提示しなかったが、「国際法を順守し、民間人への被害を最小限に抑えるための実現可能な措置を講じている」と述べた。
29日には、IDF兵のイスラエル・ナタン・ローゼンフェルド氏（20）もガザ北部で死亡した。
イスラエルとハマスの戦闘終結と、ハマスがガザで拘束する人質の解放に向けて、仲介役が新たな取り組みを開始する中で、イスラエルは軍事行動を強めている。
ハマス高官は26日、仲介役がガザでの新たな停戦と人質解放の合意に向けた取り組みを強化しているが、イスラエルとの交渉はいまだ停滞しているとBBCに語った。
カタールの仲介役は、イスラエルとイランの軍事衝突を12日間で停戦に持ち込んだアメリカが、ガザ紛争に対しても圧力を高めて、合意が実現することを期待していると語った。
ネタニヤフ首相は29日、イスラエルの治安組織「シンベト」の職員に対し、イランに対する「勝利」は多くの可能性を開くもので、「まず何よりも人質救出」への可能性が開かれたと述べた。
「当然、ガザの問題を解決し、ハマスを打ち負かす必要もあるが、我々はその両方の任務を達成できると信じている。さらには、広範な地域的な機会が開かれつつある。その大半に、そのほぼ全てにおいて、皆さんが関わっている」
トランプ氏は先に、来週中にも停戦合意が成立する可能性があると述べていた。
こうした中、ネタニヤフ氏の汚職事件をめぐる裁判が進められている。トランプ氏はこれを「政治的な魔女狩り」と批判。停戦交渉の妨げになっているとして、取り下げを求めている。
イスラエルの裁判所は29日、外交・安全保障上の理由から、ネタニヤフ氏の汚職裁判での証言を1週間延期することを認めた。
ネタニヤフ氏は2019年に収賄、詐欺、背任の罪で起訴された。同氏はすべての罪状を否認している。
イスラエル野党イェシュ・アティドのヤイル・ラピド党首は今週、「トランプ氏は独立国家の司法手続きに介入すべきではない」と述べた。
イスラエルは、2023年10月7日にハマス主導の越境攻撃を受けた。この攻撃で約1200人が殺され、251人を人質に取られた。イスラエルは対抗し、ガザで軍事作戦を開始した。
ハマスが運営するガザ保健当局によると、この戦争でガザではこれまでに少なくとも5万6500人が殺害された。
（英語記事 Israel orders evacuations in northern Gaza as Trump pushes for ceasefire）
