
ハフサ・ハリル、BBCニュース
アメリカのドナルド・トランプ大統領は6月30日、シリアに対する制裁を終了させる大統領令に署名した。ホワイトハウスは、シリアの「安定と平和への道」を支援するものだと説明している。
この制裁は、昨年12月にシリアの反体制派が打倒したバッシャール・アル・アサド前大統領の政権に対して科していたもの。外国からの一切の資金調達を阻止するなどしていた。
ホワイトハウスは、シリア新政府の行動を監視していくと説明。「イスラエルとの関係正常化に向けた具体的な措置」、「他国のテロリストへの対応」、「パレスチナのテロリスト集団の締め出し」などに注目するとした。
シリア暫定政府のアサド・アル・シェイバニ外相は、同国の経済復興への「障害を取り除き」、同国を国際社会へと開くものだと述べた。
一方でアメリカは、アサド氏とその関係者、武装勢力イスラム国(IS)、イランの代理勢力に対する制裁は維持する。
トランプ氏は5月、シリアの反体制派を率いてきたアフメド・アル・シャラア新大統領とサウジアラビア・リヤドで会談するのに先立ち、シリアに対する制裁を解除する考えを示していた。この表明は、シリアの首都ダマスカスの街頭などで人々を歓喜させた。
シャラア氏が率いる、アサド政権を倒したイスラム組織「ハヤト・タハリール・アル・シャーム(HTS、シャーム解放機構)」は、2016年まで武装勢力アルカイダの系列組織だった。国連やアメリカ、イギリスなどは現在も、HTSをテロ組織に指定している。
今回の大統領令に伴い、マルコ・ルビオ国務長官がHTSの指定を「見直す」ことになる。また、ISの囚人が収容されているシリア北東部の収容所について、アメリカはシリア新政府に管理を引き継がせたいとしている。
ルビオ氏はこれまで、シリアの暫定政府への支援を呼びかけている。経済的に前進できなければ「壮大な規模の本格内戦」が起こりかねないと警告している。
少数派の間で恐怖が広がる
シリアでは13年にわたった壊滅的な内戦の末にアサド政権が打倒されたとき、人口の9割が貧困ラインを下回っていた。
新指導者は国内の少数民族の保護を約束したが、3月に西部の海岸地帯で、新政府の治安部隊とアサド氏支持者らとの衝突が発生。アサド氏支持の少数派アラウィ派の民間人が何百人も殺害された。これを受け、少数派コミュニティーの中で恐怖心が強まっている。
また、イスラム主義武装勢力と治安部隊、少数派の宗教集団ドゥルーズ派の戦闘員の間でも衝突が起こり、死者が出ている。6月にはダマスカスの教会で自爆攻撃があり、少なくとも25人が殺害された。
ホワイトハウスのキャロライン・レヴィット報道官は30日の大統領令署名に先立ち、トランプ氏はシリアの安定と和平を支援するという約束を実行に移すと、記者団に説明。「これは、中東地域の平和と安定を促進するため、この大統領が誓い、そして守ったもう一つの約束だ」と述べた。
アメリカのトーマス・バラック・シリア担当特使は、「シリアにはチャンスが必要であり、それが今回起きたことだ」と記者団に話した。
シリアではアサド前大統領の政権下で、60万人以上が殺され、1200万人が家を追われたとされる。