
ケイト・ワンネル政治記者、ブライアン・ウィーラー政治記者
イギリスの下院は1日、福祉給付制度改革法案を75票差で可決した。政府は土壇場で法案をめぐって大きく譲歩したが、与党・労働党から多くの造反議員が出た。
政府は先週の時点ですでに、低所得者向け給付制度「ユニバーサル・クレジット」の削減を一部撤回したほか、現在の個人独立支援手当(PIP)の受給者に対しては現行の支給額を維持する方針を示していた。
しかし、一部の労働党議員はなお、PIPの新たな受給基準が、見直しの提言が実施される前に導入されないかと懸念していた。
これを受け、政府は採決での屈辱的な敗北を避けるため、さらなる方針転換を発表。見直しの結論を検討するまでPIPの規則を変更しないと明言した。
しかし、こうした修正や直前での譲歩があったにもかかわらず、49人の労働党議員がなお、反対票を投じた。採決の結果は、賛成335、反対260だった。
土壇場での方針転換により、ユニバーサル・クレジットとPIPに関する今回の法案は、最も重要な施策が骨抜きとなった。
この動きは、最近相次ぐ方針転換により指導力が疑問視されているキア・スターマー首相の権威を損なうものであり、リズ・ケンダル労働・年金相の立場にも影響を与えている。
福祉法案の採決後、ケンダル労働・年金相は「別の形でこの結論に至りたかった」と述べた。
また、「この過程から学ぶべき教訓がある」としつつも、法案については就労可能な人々を支援するための「非常に重要な改革」を盛り込んでいると擁護した。
そのうえでケンダル氏は、労働党議員らが「首相を100%支持している」と強調した。
法案は9日に下院に戻され、審議が続けられる予定。
度重なる譲歩や変更
政府は今年3月に、福祉制度の大幅な見直し計画を発表した。この中には、イングランド、ウェールズ、北アイルランドでの主要な障害者給付であるPIPの受給資格を制限する措置や、ユニバーサル・クレジットの健康関連加算の凍結が含まれていた。
併せて政府は、障害者や長期疾患のある人々の就労支援を目的とした10億ポンド(約1980億円)規模の支援パッケージを約束していた。
政府は、給付受給者が急増する中、制度の持続可能性を確保するには改革が不可欠だと主張。また、現行制度は人々を福祉に依存させ、就労支援が不十分だと指摘していた。
しかし、労働党内では数週間にわたり、この法案が人々を貧困に追い込むのではないかとの懸念が高まり、不満が広がっていた。
先週、120人を超える議員が法案に反対する構えを見せたことを受け、政府はPIPの受給者と、ユニバーサル・クレジットにおける健康手当の受給者について、現行の支給額を維持すると発表。今後の手当削減は、将来の新規申請者にのみ適用されると方針転換した。また、PIP申請の要件の厳格化も、新規申請者のみを対象とするとした。
政府は、こうした修正によって態度を決めかねていた造反議員の支持を得られると期待していたが、審議では多くの議員が依然として懸念を表明した。
最終採決のわずか2時間前、障害担当相のサー・スティーヴン・ティムズが、政府がさらなる妥協策として、PIPに新たな受給資格規定を導入する条項を法案から削除すると発表。「政府は包括的な見直しに直ちに着手し、その結果を踏まえてPIPの受給資格や評価基準の変更を行う」と説明した。
採決直前の変更には、複数の議員が怒りや困惑を示した。労働党のポーラ・バーカー議員は、「譲歩には感謝するが、この過程の支離滅裂さと混乱ぶりが一層明らかになった。これほど見苦しい光景は見たことがない」と非難した。
同じく労働党のメアリー・ケリー・フォイ議員も、「さっきバナナを食べようと少し席を外し、戻ってきたらまた状況が変わっていた。何に投票しているのか、ますます分からなくなった」と語った。
最大野党・保守党と野党・自由民主党もこの過程を批判し、法案を全面的に撤回すべきだと主張した。
当事者団体の反応
採決後、多発性硬化症(MS)協会のシャーロット・ギル氏は、「先週のいわゆる譲歩も土壇場だったが、今回の慌ただしい変更も、拙速で練られていない法案の本質を変えるものではない」と批判した。
学習障害の支援団体「メンキャップ(MENCAP)」のジョン・スパークス最高経営責任者(CEO)は、今回の変更は「前向きな内容」だと思うと述べ、「政府が意見に耳を傾けたことを歓迎する」と語った。
障害者支援団体「スコープ(SCOPE)」のジェイムズ・テイラー事務局長は、この法案は「将来のユニバーサル・クレジット受給者から数千ポンド規模の支援を奪うことになる」と指摘し、政府に「当事者と対話」するよう求めた。
(英語記事 Labour rebellion clouds welfare bill win despite concessions)