2025年7月16日(水)

BBC News

2025年7月2日

フランス・グラヴリーヌのビーチを出発する小型ボート

サム・フランシス政治記者、サイモン・ジョーンズ記者(BBCニュース、サウス・ウエスト)

今年上半期に小型ボートで英仏海峡を渡り、イギリスに到着した人の数は、1万9982人に達し、前年同期比で48%増加した。

英内務省の最新統計によると、6月29日以降だけでも約1500人が渡航しており、6月末までで2万人近くになった。

今年上半期の渡航者数は、2023年の同時期(1万1433人)との比較では75%増となっている。

最大野党・保守党はこれを受けて、「政府は新たな国家記録を打ち立てた。失敗の記録だ」と批判した。

与党・労働党の閣僚らはこれまで、天候が安定していることや、人身売買業者がより多くの人をボートに乗せる傾向が強まっていることが、渡航者数の急増につながっていると説明している。

労働党政権は昨年7月に政権を握って以来、密入国対策として、海上で他人の生命を危険にさらす行為を新たな犯罪とするなど、一連の措置を発表してきた。

現在議会で審議中の法案では、人身密輸業者に対してテロ対策法の適用を可能にする内容が盛り込まれている。容疑者は渡航禁止措置、ソーシャルメディアの利用制限、電話の使用制限などが科される可能性がある。

しかし最新の統計によれば、今年はすでに、英仏海峡を小型ボートで渡ってイギリスに到着した人数が、統計が開始された2018年以降で最多となっている。

保守党のクリス・フィルプ影の内相は、労働党政権が昨年7月の発足直後に、前政権によるルワンダ移送計画を「撤回した」ことが、移民急増の原因だと非難した。

フィルプ氏は、「これは記録上、最悪の年であり、完全な無法状態になっている」と述べた。

さらに、「すべての不法移民をヨーロッパ以外の場所に送還する抑止策が必要だ。そうすれば、渡航は急速に止まるだろう」と主張した。

これに対し、内務省の報道官は「政府は、あらゆる段階で密航ネットワークを解体するための本格的な計画を策定している」と述べた。

フランスとの協定案にEU加盟国が懸念

小型ボートによる渡航問題は、今週後半に予定されているエマニュエル・マクロン仏大統領の訪英時に主要な議題の一つとなる見通しだ。英首相官邸は先月、英仏海峡の状況は「悪化している」との認識を示していた。

フランス当局は現在、いわゆる「タクシーボート」が海岸から移民を乗せるのを阻止するため、警察や沿岸警備隊が浅瀬で介入できるようにする案を検討している。

さらに両政府は、英仏海峡を渡ってきた一部の移民をイギリスからフランスへ送還する一方で、イギリスにいる家族との再会を希望するフランスの難民申請者をイギリスが受け入れるという協定について交渉を進めていると報じられている。

欧州委員会は1日、イギリス政府に対し、この協定案の詳細について「説明を求めている」と発表した。欧州連合(EU)加盟国の5カ国が、この提案に懸念を示したという

英経済紙フィナンシャル・タイムズが入手した書簡によると、イタリア、スペイン、ギリシャ、マルタ、キプロスの5カ国は、英仏のこの協定により、移民がイギリスから自分たちの国に移送される可能性があるとして警告を発している。

欧州委員会の報道官は、英仏海峡を渡る移民の増加について「憂慮すべき状況だ」と述べた上で、「EU法の精神および文言に適合する解決策のみを受け入れる」と強調した。

「レッド・デー」が増加

フランス北部ダンケルク近郊で1日朝、BBCの取材班は約20人の移民を乗せたボートが海岸に向かい、さらに人を乗せようとしている様子を目撃した。しかし、ボートはエンジントラブルを起こし、漂流を始めた。

警察は乗っていた人々をボートから降ろしたが、事情聴取を行うことなく、そのまま町へ戻ることを許可した。

一方で、警察官らはこのゴムボートが再び渡航に使われないよう、船体を切断した。

この日、フランス北部の他の海岸や水路からも複数のボートが出航していた。

渡航件数は、天候やボート部品の供給状況などの要因によって変動する。

イギリスの内務省は先月、小型ボートによる渡航に適した気象条件の日「レッド・デー(赤い日)」の日数が、2024年から2025年にかけて過去最多となったとする統計を公表した。

しかし、英オックスフォード大学移民観測所の所長を務めるマデレーン・サンプション博士は、小型ボートによる渡航者数の長期的な増加について、「天候が主な要因であることを示す証拠はない」と指摘した。

サンプション博士は、「この公表データによれば、年間を通じた長期的な傾向として、渡航件数と『レッドデー』の日数との間に明確な相関関係は見られない」と述べた。

その上で、「イギリスを目指す人の数や、人身密輸組織の数、そしてその組織の専門化の度合いといった他の要因の方が、より重要である可能性が高い」と付け加えた。

(英語記事 Small boat crossings in first half of year up 48%

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cew0yxkkw4yo


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