ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領（左）とアメリカのドナルド・トランプ大統領（6月）
ロシアによるウクライナ侵攻が激化する中、アメリカ政府は1日、ウクライナへの兵器供与の一部を停止したと発表した。
ホワイトハウスのアナ・ケリー報道官は、「国防総省による対外軍事支援の見直しを受け、アメリカの国益を最優先するための決定だ」と説明した。
2022年2月にロシアが全面侵攻を開始して以来、アメリカは、数百億ドル規模の軍事支援をウクライナに提供してきた。しかし、トランプ政権関係者の一部からは、国内の兵器備蓄が逼迫（ひっぱく）していると、懸念の声が上がっていた。
ウクライナ政府は現時点でコメントを出していない。アメリカ政府も、供与が停止された兵器の具体的な内容については明らかにしていない。
ロイター通信によると、影響を受けている兵器には防空ミサイルや精密誘導弾が含まれているとみられている。複数の米政府関係者は、今回の一時停止措置には、ウクライナに供与されていた地対空ミサイル「パトリオット」、精密砲弾、その他のミサイルシステムが含まれていると米メディアに語った。
この決定は、ウクライナにとって厳しいタイミングで下された。ウクライナ政府は先週末、全面侵攻開始以降で最大規模となる空爆を受けたと発表。ドローン（無人機）500機以上や弾道・巡航ミサイルによる攻撃があったという。
BBCがアメリカで提携するCBSニュースによると、兵器供与の一時停止は、米軍の兵器備蓄が危険な水準まで低下しているとの懸念に基づくものだと、米政府関係者が話した。
ただしケリー報道官は、「米軍の戦力は疑いようがない。イランに聞けば分かる」と強調した。
一方、エルブリッジ・コルビー米国防次官（政策担当）は声明で、国防総省は引き続き「大統領に対してウクライナへの軍事支援を継続するための強力な選択肢を提示している」と述べた。
ただし、コルビー氏は「国防総省は、米軍の即応態勢を維持しつつ、政権の防衛優先事項を達成するための方針を厳密に検証し、適応させている」と付け加えた。
ドナルド・トランプ大統領は先週、オランダで開催された北大西洋条約機構（NATO）首脳会議で、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談したばかり。両首脳はこの場で、防空システムについて協議した。
トランプ氏はその際、ウクライナへの追加のパトリオット・ミサイルシステムの提供についてBBCの質問を受け、「いくつか提供できるかどうか、米政府関係者が検討する」と述べていた。
また、ゼレンスキー氏との会談については、「時には少し険悪な場面もあったが、彼はとても礼儀正しかった」と語った。
両者は今年3月、ホワイトハウスの大統領執務室で激しい言葉の応酬を繰り広げた。その後、トランプ氏は、ジョー・バイデン前米政権が割り当てていたウクライナ向けの軍事支援を一時停止すると発表した。加えて、ウクライナとの情報共有も停止した。これらの措置はその後、解除された。
アメリカとウクライナは4月下旬、アメリカが軍事支援と引き換えにウクライナの鉱物資源へのアクセスを得るという協定に署名した。
マクロン氏とプーチン氏が直接対話
一方、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は1日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話会談を行った。両首脳が直接対話するのは、2年半以上ぶりとなる。
マクロン大統領の事務所によると、電話は2時間以上にわたり、同大統領はウクライナでの停戦と、「確固たる、持続可能な解決」に向けた協議の開始を呼びかけたという。
ロシア大統領府（クレムリン）は、プーチン大統領がマクロン仏大統領に対し、「西側諸国の政策こそが戦争の原因であり、それは長年にわたりロシアの安全保障上の利益を無視してきた結果だ」と伝えたと発表した。
ロシアで長期政権を率いるプーチン氏は先月、サンクトペテルブルクで開かれたフォーラムで、ロシア人とウクライナ人は「一つの民族」だと述べ、「その意味でウクライナ全体は我々のものだ」と発言した。
現在、ロシアはウクライナ領土のおよそ20％を支配している。これには、2014年に併合したクリミア半島も含まれている。
ロシア軍はここ数カ月、ウクライナ東部で徐々に前進を続けており、ルハンシク州を完全に掌握したと主張している。また、南東部のドニプロペトロウシク州でも領土を制圧したと発表している。
一方、ウクライナ軍は1日、ロシア中部イジェフスクにある、ドローンやレーダーを製造する兵器工場を攻撃。ロシアによると3人が死亡した。この都市はウクライナとの国境から1000キロ以上離れている。
（英語記事 US halts some weapons shipments to Ukraine, White House says）
