
パレスチナ・ガザ地区のガザ市にあるインドネシア病院の院長が、イスラエルによる空爆により、家族数人と共に死亡した。イスラム組織ハマスが運営するパレスチナ・ガザ地区の保健省が2日、発表した。
同省は、マルワン・スルタン院長について、長年にわたり医療分野で尽力してきた人物だとした上で、「我々の医療関係者に対するこの凶悪な犯罪」を強く非難した。
一方イスラエル軍は、ガザ市周辺でハマスの「主要なテロリスト」を標的に攻撃を行ったと発表。「無関係な民間人」が巻き添えになったとの主張について、現在調査中だとしている。
また、複数のメディアによると、ガザ南部の「安全地帯」とされるアルマワシ地区でも空爆があり、少なくとも5人が死亡、子どもを含む複数の負傷者が出ているという。
「部屋を狙った攻撃」だったと娘が証言
ガザ地区の保健省は、スルタン医師の医療従事者としてのキャリアについて、「継続的な侵攻の下、我々の人々が最も困難な状況と試練の時を経験する中で、献身と不屈、誠実さの象徴であり続けた」と述べた。
スルタン医師は、国連が「繰り返されるイスラエルの攻撃と構造的損傷の蓄積」と呼ぶ事態の中、保健省が機能停止と宣言したインドネシア病院の院長を務めていた。イスラエル軍は、同地域で「テロ組織のインフラ拠点」と戦っていると主張していた。
国連によると、ガザ地区北部の行政区域には現在、機能している病院が存在しないという。
保健省は、イスラエル軍が医療および人道支援チームを標的にしていると非難している。
これに対し、イスラエル国防軍(IDF)は声明で、「無関係な個人に被害が及んだことを遺憾に思う」とした上で、「そのような被害を最小限に抑えるよう努めている」と述べた。
IDFは、ハマスが「民間インフラをテロ活動に利用し、民間人を人間の盾として使用することで、国際法に体系的に違反している」と主張している。
一方、スルタン医師の娘、ルブナ・アル・スルタン氏はAP通信に対し、「F16戦闘機のミサイルが、父の部屋を正確に狙って直撃した」、「自宅のすべての部屋は無傷だったが、父の部屋だけがミサイルで破壊された。父はその部屋で殉教した」と語った。
ルブナ氏はまた、「父は何かの運動やそうしたものに全く属していなかった。戦争中も患者の命だけを心配していた」と述べた。
過去24時間で少なくとも139人が死亡
保健省によると、イスラエル軍の軍事作戦により、現地時間の2日正午までの24時間で少なくとも139人が死亡した。
南部ハンユニスのアルマワシ地区では、避難民が暮らすテントがイスラエルの空爆を受け、少なくとも5人が死亡、子どもを含む複数の負傷者が出たと、複数のメディアが報じている。
犠牲者の家族によると、空爆は現地時間午前0時40分に発生。住民らは寝ていたという。
タマム・アブ・リズク氏はAFP通信に対し、「地面が地震のように揺れた」と話し、「外に出るとテントが燃えていた」と述べた。
アルマワシ地区について、イスラエル軍は「安全地帯」と宣言していた。国連によると、ガザ地区の80%がイスラエル軍の作戦区域または避難命令の対象地域となっている。
マハ・アブ・リズク氏は、「ここが安全だと思って来たのに、みんな殺された(中略)彼らが何をしたというのか」と語った。
現場では、破壊された建物や散乱する私物の中で、一人の男性は紙おむつのパックを持ち上げ、「これが武器だとでも?」と問いかけた。
AFP通信が撮影した映像には、ハンユニスのナセル病院の前に車で到着した男性たちが、血まみれの子どもを抱えて病院内に駆け込む様子が映っている。病院内では、幼い子どもたちが泣き叫ぶ中、医師たちが治療にあたっていた。
別の映像では、病院で行われた葬儀の場面で、女性たちが遺体にすがって泣き崩れる様子が映し出されている。
空爆でいとこ数人を失ったエクラム・アル・アフラス氏は、「どの宗教の人であっても、行動を起こし、『もう十分だ、この戦争を止めろ』と声を上げるべきだ」と訴えた。
ガザ市では、別のイスラエルによる空爆が住宅を直撃し、同一家族の4人が死亡したと報じられている。
パレスチナの国営通信社WAFAによると、死亡したのはアフマド・アイヤド・ゼノ氏、その妻アヤト・ゼノ氏、娘のザフラ・ゼノ氏とウバイダ・ゼノ氏の4人だという。
BBCはこれら2件の空爆について、IDFにコメントを求めている。
ガザでも気温30度越える暑さ
国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」からガザ地区に派遣されているレイチェル・カミングス氏は、同団体が設置した子ども向け支援スペースで開く「願いごとの時間」では、最近では子どもたちが、亡くなった母親や父親に会うため、あるいは食べ物や水を得るため、「死にたい」と口にすることがあると記者団に語った。
イギリスや欧州で熱波が広がる中、ガザ地区でも気温が30度を超えた。
テントで避難生活を送る人々は、電力や扇風機が使えず、水の確保も困難な中で、暑さをしのぐのに苦労していると訴えている。
レダ・アブ・ハダイエド氏はAP通信に対し、「表現できない」暑さだと述べ、子どもたちが眠れないのだと話した。
「子どもたちは日中ずっと泣いていて、日没後に気温が少し下がるとようやく眠る。朝になると、また暑さで泣き始める」
イスラエルはガザへの空爆を継続するとともに、人道支援物資の搬入と配分を管理している。こうした中、仲介国による停戦案の協議が続いている。
ハマスは2023年10月7日にイスラエルを攻撃し、約1200人を殺害、251人を人質としてガザに連れ去った。
ハマスが運営する保健省によると、これに対するイスラエルの軍事作戦により、ガザ地区ではこれまでに5万7000人以上が殺された。そのうち1万5000人以上が子どもだという。
(英語記事 Gaza hospital director killed in Israeli strike, Hamas-run health ministry says)