
スティーヴン・マッキントッシュ、エンターテインメント記者
6月28日にイギリスで開催された「グラストンベリー・フェスティバル」で、英パンクデュオ「ボブ・ヴィラン」が物議をかもすパフォーマンスを見せた件について、英公共放送BBCは3日、このパフォーマンスの放送をめぐり、音楽およびライブイベント部門の管理職従業員に対し、日常業務から退くよう指示したと発表した。
ボブ・ヴィランは同フェスティバルのステージ上で、「イスラエル国防軍(IDF)に死を」と繰り返し唱え、その他にも侮辱的な発言を行った。このパフォーマンスは、BBCの動画配信サービス「iPlayer」を通じて生中継されていた。
BBCは3日の声明で、「反ユダヤ主義に居場所はない」と強調し、「放送に関与した責任者が適切な説明責任を果たすための」措置を講じていると述べた。
BBCは併せて、ボブ・ヴィランを含む7組の出演者を、イベント開催前の段階で「高リスク」と判断していたことも明らかにした。
BBCは、「今後、BBCが高リスクと判断した音楽パフォーマンスについては、ライブ放送およびライブ配信を行わない」とし、音楽イベントのライブ配信に関する「即時の変更」を実施すると発表した。
BBCのサミール・シャー理事長は、ライブ配信を中止しなかったことは「明らかに判断ミスだった」と述べた。
リサ・ナンディー文化相は3日の英下院で、この件に関するBBCの対応に満足していないと表明した。ナンディー文化相は、事前のリスク確認、上層部による監督体制、ライブ配信中止の遅れについてBBCに質問したと説明し、次のように述べた。
「事態の重大性を踏まえ、特にこの件が国内のユダヤ人コミュニティーに与えた衝撃的な影響について、下院でも証言があったことを踏まえ、(BBCの)最高レベルでの説明責任が果たされるべきだと考えている」
最大野党・保守党のスチュアート・アンドリュー影の文化相は、BBCの「遅すぎる対応は、警戒心と適切な監督体制の欠如を示している」と述べた上で、BBCには「ライブイベントを放送する際の明確な責任がある」と指摘した。
今回の件については、イギリスのエフライム・ミルヴィス首席ラビ(ユダヤ教指導者)もBBCを批判している。また、英メディア規制機関のオフコム(Ofcom)も、BBCには「説明すべき点がある」との見解を示している。
グラストンベリー・フェスティバルでのパフォーマンス中、ボブ・ヴィランのボーカルを務めるパスカル・ロビンソン=フォスター氏(ステージ名:ボビー・ヴィラン)は、かつて自身が所属していたレコード会社の幹部についても言及した。
ロビンソン=フォスター氏は、その幹部は「イスラエルへの支持を強く主張していた」と言い、アイルランドのヒップホップユニット「ニーキャップ」のグラストンベリー・フェスティバル出演を中止するよう求める書簡にも署名していたという。
ロビンソン=フォスター氏はステージ上で、「その署名の中に、かつて自分が所属していた会社の、あのはげ頭の(不適切表現)を見つけた。俺たちは何でもやってきた。バーで働いたこともあるし、(不適切表現)なシオニストの下でも働いたことがある」と語った。
BBCのティム・デイヴィー会長は3日、従業員向けのメッセージの中で、「このような不快で非道な行為がBBCで放送されたことを深く遺憾に思う。視聴者と従業員、特にユダヤ人の同僚およびユダヤ人コミュニティーに対して謝罪したい」と述べた。
BBCによると、ボブ・ヴィランはグラストンベリー・フェスティバルに出演する全アーティストを対象としたリスク評価の結果、「高リスク」と判断されていたという。
同グループは、他の6組のアーティストと共にこのカテゴリーに分類されていたが、BBCはそれら7組について、「適切なリスク軽減策を講じた上で、ライブ配信に適していると判断した」と説明している。
声明ではさらに、「グラストンベリー開催前、ライブ配信におけるコンプライアンス上のリスクは、言葉や内容に関する警告をリアルタイムで表示することで軽減可能であり、配信の遅延措置は不要と判断された。しかし、その判断が明らかに誤っていた」としている。
声明によると、ライブ配信は「合意されたコンプライアンス手順に従って」モニタリングされており、「複数の問題が報告に上がっていた」。配信中の警告表示は2回あったが、BBCは「編集チームは配信を中断しないという判断を下した。これは誤りだった」と説明している。
デイヴィー会長は、当日グラストンベリーの会場に滞在していたが、「後から事態を把握し、該当のパフォーマンスのいかなる部分も、今後の報道に含めないようチームに指示を出した」という。
BBCによると、現場のチームはこのパフォーマンスのオンデマンド配信を防ぐことを優先し、「iPlayer」や「BBCサウンズ」で個別に視聴できないよう対応した。
しかし、ライブ配信自体は4時間以上にわたって視聴可能な状態が続き、動画を巻き戻すことで問題の個所を視聴できたという。
BBCは「今回認められた一連の不備を踏まえ、ライブ放送における失敗の責任があるとされる関係者に対し、適切な説明責任を果たすための措置を講じている」と述べた。また、「現時点ではこれ以上の詳細についてはコメントしない」としている。
BBCのシャー理事長も声明を発表し、「ボブ・ヴィランという『アーティスト』がBBCの生放送で、到底容認できない反ユダヤ的な見解を表明することを許してしまったことについて、すべての視聴者、特にユダヤ人コミュニティーに深くおわび申し上げる」と謝罪した。
シャー理事長はさらに、「これは明らかに判断ミスだった」とした上で、「ティム・デイヴィー会長が現地でBBCスタッフを訪ねている間にこの事態を把握し、即座に対応して、オンデマンド配信からこのパフォーマンスを削除するよう指示したことを非常に心強く思っている」と語った。
複数の出演予定がキャンセルに
グラストンベリー・フェスティバル以降、ボブ・ヴィランは複数のイベントで出演予定をキャンセルされている。これまでに英マンチェスターやフランス、ドイツでのステージが取り消された。
こうしたキャンセルを受けて、同グループはソーシャルメディアに「沈黙は選択肢ではない。私たちは大丈夫だ。苦しんでいるのはパレスチナの人々だ」と投稿し、あらためて立場を表明した。
グラストンベリー・フェスティバルが開催されたエイヴォン・アンド・サマセットの警察は、ボブ・ヴィランの発言について刑事捜査を開始している。
また、ロンドン警視庁は2日、ボブ・ヴィランが5月にアレクサンドラ・パレスで行ったコンサートでの発言も捜査対象となっていると明らかにした。
ボブ・ヴィランは1日に声明を発表し、「私たちはユダヤ人、アラブ人、その他いかなる人種や集団の死を望んでいるわけではない。我々が求めているのは、暴力的な軍事機構の解体だ」と述べた。
「私たちは、これまで注目を浴びてきた人々と同様に、話題の本質ではない。私たちは(パレスチナという)物語から目をそらさせるための存在だ。私たちに対するいかなる制裁も、その手段に過ぎない」
(英語記事 BBC senior staff told to 'step back' from duties following row)