2025年7月16日(水)

BBC News

2025年7月5日

パレスチナ・ガザ北部のアルシャティ難民キャンプで、イスラエル軍の空爆によって破壊された建物をパレスチナ人男性が見下ろしていた(4日)

ラシュディ・アブアルーフBBCガザ特派員(カイロ)、ウィレ・デイヴィスBBC特派員(テルアヴィヴ)

イスラム組織ハマスは4日、パレスチナ・ガザ地区での停戦と人質解放に関してアメリカが示した新しい合意案について、「前向きな反応」を仲介国に示したと発表した。

ハマスは声明で、「直ちに交渉に入る真剣な用意がある」とした。アメリカの案を受け入れるかは、明らかにしていない。

交渉の経緯に詳しいパレスチナ高官はBBCに、ハマスは合意の全般的な枠組みは受け入れたものの、重要な修正をいくつか要求していると話した。

高官によると、ハマスは特に、1年8カ月続く戦争の恒久的な終結へ向けた協議が決裂したとしても、停戦期間の終了後にイスラエルが攻撃を再開しないよう、アメリカが保証すること求めているという。

これについて、イスラエルとアメリカは直ちに反応していない。ハマスによる過去の同様の要求には、両国とも積極的ではなかった。

ドナルド・トランプ米大統領は4日、ハマスから1日以内に返事を受け取ることを期待していると述べた。この3日前にトランプ氏は、イスラエルが60日間の停戦に必要な条件を受け入れたとし、その停戦中に、ガザでの戦争終結が協議されると説明していた。

アメリカの合意案には、イスラエルの刑務所に収容されているパレスチナ人収監者と引き換えに、ハマスがイスラエル人の人質10人と、遺体18体を段階的に引き渡すことが含まれているとみられる。

ガザでは現在も50人の人質が拘束されており、そのうち少なくとも20人は生存していると考えられている。

ハマスの重要な要求の一つに、ガザへの無制限の食料・医療援助の再開がある。アメリカ案には、十分な量の援助が国連と赤十字の関与で直ちにガザに届けられるという内容が含まれるとされる。

前出のパレスチナ高官はBBCに、ハマスは援助の配布について、国連とその提携機関のみが実施するよう要求しているのだと話した。イスラエルとアメリカが支援する「ガザ人道財団(GHF)」による配布は直ちに中止するよう、ハマスは求めているという。GHFについては、国連や国際人権組織などから批判が相次ぎ、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)報道官は4日、GHFの拠点や車列の近くで数百人が殺害されていると発表。これにGHFは強く反発している。

パレスチナ高官はBBCに、ハマスはさらに、イスラエル軍のガザ撤退についても合意案の修正を求めているとも話した。

アメリカ案には、イスラエル軍がガザの北部や南部から段階的に撤退するという内容も含まれているとされる。ただし、このパレスチナ高官によると、ハマスはイスラエル軍が今年3月に当時の停戦合意が破綻し、攻勢を再開する前の位置まで下がるよう、強く求めているという。

この高官はさらに、ハマスは60日間の停戦終了後にイスラエルの空爆や地上作戦が再開されないことの保証を要求していると話した。

アメリカ案では、戦争終結と人質解放に関する交渉は停戦初日に開始されることになるという。

ただしイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はこれまで、人質全員が解放され、ハマスの軍事・統治能力が破壊されるまで、戦争は終わらせないと、一貫して主張している。

GHFめぐる批判

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)報道官は4日、6月27日までにGHFの拠点の近くで少なくとも509人が殺害され、援助物資トラックの車列の近くで104人が殺害されたと報告した。

OHCHRのラヴィナ・シャムダサニ報道官は、この人数を確認し、殺害行為の当事者を特定するため弁務官事務所は動いていると述べたうえで、「物資配給拠点にたどり着こうとするパレスチナ人に向けて、イスラエル軍が砲撃し発砲しているのは明らかだ」と述べた。

これに対してGHFは、国連が挙げる数字はハマスが運営するガザの保健省から「直接」得たもので、ガザの保健省は信用できないと反論。GHFの活動に「うその汚名」を着せるため、意図的にこうした数字が使われていると主張した。

GHFのジョニー・ムーア代表は2日の記者会見で、「我々の配給拠点で暴力的な事案など、一度も起きていない。配給拠点のごく近くでも、暴力的な事案など起きていない」と主張していた。

イスラエル軍は、GHFの配給拠点に接近する民間人が被害を受けているという報告について、その内容を点検していると述べている。そのうえで、GHF拠点の近くで「多数の死傷者」が出ているという報告は「うそ」だと反論している。

イスラエル軍の空爆続く

こうしたなか、イスラエル軍はガザ各地で爆撃を続けている。

ハマスが運営するガザ保健当局は4日、イスラエルの攻撃により24時間で少なくとも138人のパレスチナ人が殺害されたと発表した。

南部ハンユニス地区では夜間、避難者が入るテント2張が攻撃された。地元のナセル病院によると、少なくとも15人のパレスチナ人が殺されたという。

きょうだいのマフムードさんを失ったマヤール・アルファーさん(13)は、「停戦になるというのに、私はきょうだいを失った。きょうだいを失う前に、とっくに停戦すべきだった」と、葬儀の場でロイター通信に話した。

おいのアシュラフさんを殺されたアドラール・ムアマールさんは、「私たちの心はぼろぼろだ。(中略)流血を止めてほしい。この戦争を止めてほしい」と言った。

イスラエル軍はこの空爆についてまだコメントしていない。ただ、同軍が「ハマスの軍事能力を解体するために活動している」とした。

赤十字は4日、ガザ南部ラファにある野戦病院のスタッフが流れ弾に当たったと発表した。容体は安定しているが、「容認できない」事態だと赤十字は非難した。

一方、医療慈善団体「国境なき医師団」(MSF)は、元同僚が前日に殺害されたと発表した。イスラエル軍がハンユニスで、支援物資を積んだトラックを待つ人々に発砲し、殺されたという。MSFはナセル病院のチームの話として、この際に少なくとも16人が殺されたとした。イスラエル軍はまだコメントしていない。

MSFのガザ緊急対応調整担当、アイトール・サバルゴゲアスコア氏は、「パレスチナ人を100日以上にわたり、体系的かつ意図的に、飢えさせようとしている活動のため、ガザの人々は極限まで追い詰められている」、「この殺戮(さつりく)は直ちに終わらせなくてはならない」と述べた。

イスラエルでは

ガザから約60キロしか離れていないイスラエル・テルアヴィヴでは、米大使館の支部の前で、今も人質にされている人々の家族とその支援者らが集会を開き、トランプ米大統領に人質全員の解放に向けた「合意を実現」させるよう求めた。

ガザで484日間拘束された末、今年2月の停戦中に解放されたイスラエル系アメリカ人のキース・シーゲルさんは、「キブツ・クファル・アザにいた私の友人の多くは、いまだ拘束されている」、「包括的な合意だけが、全員を自宅に帰らせ、中東によりよい未来をもたらすことができる」と訴えた。

多くのイスラエル人が最も懸念しているのは、残された人質の運命で、停戦が実現せずにネタニヤフ氏がガザ空爆の強化を命じた場合に人質に何が起こるかということだ。

人質の家族らは双方の合意と恒久的な平和を強く望んでいるが、過去に努力が失敗に終わっていることから、今回も実現しないかもしれないという不安も抱えている。

ネタニヤフ氏は3日、ガザとの境界に近いキブツ・ニル・オズを訪れ、残りの人質全員の解放を約束した。このキブツでは2023年10月7日、住民76人がハマスに拉致された。

ネタニヤフ氏は、「まず何より、人質全員を確実に戻すという深い決意を感じている」、「私たちは全員を連れ戻す」と述べた。

ハマスは2023年10月7日にイスラエルを攻撃し、約1200人を殺害、251人を人質に取った。これを受けてイスラエル軍はガザで作戦を開始した。

ガザ保健当局は、それ以来ガザで少なくとも5万7268人が殺害されたとしている。

追加取材:デイヴィッド・グリッテン(エルサレム)

(英語記事 Hamas says it delivered 'positive response' on Gaza ceasefire plan

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c98wer6yjp0o


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