
アメリカのドナルド・トランプ大統領は4日、「一つの大きくて美しい法案」と名付けた大型減税法案に署名し、法律として成立させた。昨年の大統領選で公約してきた大型減税、防衛費の増額、移民取り締まりの強化など、トランプ政権が推進する重要政策の法制化が実現した形になる。
法案は2日に連邦議会上院が、3日に同下院が、それぞれ僅差で可決した。
トランプ大統領の法案署名は、アメリカの独立記念日にあたる4日にホワイトハウスの南庭で行われた。署名直前には、イランの核施設空爆作戦に参加したのと同型のB-2爆撃機2機が、F-35およびF-22戦闘機に護衛されて上空を飛んだ。
法案署名にあたりホワイトハウスでは祝賀ムードが漂い、署名後の行事には、イラン空爆作戦に臨んだパイロットたちも参加した。
トランプ氏は南庭を臨むバルコニーから、集まった共和党議員たちを前に演説。法案成立への尽力に感謝し、新法に盛り込まれた減税措置の意義を強調した。
新法については、与党・共和党内でも大型減税が財政悪化につながるのではないかと懸念されているほか、野党・民主党はそれ以外にも、社会保障や食料支援、メディケイド(低所得者向け公的医療保険)などの予算削減につながり、支援を必要とする人たちに大打撃を与えると非難している。
しかしトランプ氏はそうした懸念を一蹴し、「史上最大の歳出削減になるが、そんなこと誰も気づかないはずだ」、「国民は喜んでいる」と主張した。
さらに、この新法によって国境警備と移民取り締まりの予算拡大、サービス提供者が受け取るチップ、残業代、高齢者の社会保障について、課税が廃止されると強調した。
870ページに及ぶこの法律には以下が含まれている:
- 第1次トランプ政権が2017年に導入した減税措置の延長
- 低所得者や障害者向けの公的医療保険「メディケイド」の大幅削減
- チップ収入、残業代、社会保障への課税廃止
- 国防費の1500億ドル増額
- バイデン政権時代のクリーンエネルギー税控除の削減
- 移民関税捜査局(ICE)の予算1000億ドル増
3日に下院で法案が可決された数時間後、トランプ氏はアイオワ州デモインで演説し、アメリカ独立250周年を祝う長期イベントの開始を宣言した。
「アメリカへの最高の誕生日プレゼントは、数時間前に達成したこの驚異的な勝利だ」とトランプ氏は集まった支持者に告げた。
ホワイトハウスは、新法による各種の減税措置が経済成長を促すと見込んでいる。一方、多くの専門家は、それだけでは財政赤字の拡大を防げず、公的債務が増大すると懸念している。
議会予算局(CBO)の分析によると、減税措置は初年度には黒字を生む可能性があるが、その後は財政赤字が急増するとされている。
ワシントンにある超党派シンクタンク「タックス・ポリシー・センター(税制センター)」によると、新法に含まれる税制変更は、低所得者よりも富裕層に恩恵をもたらす。分析によると、新法の恩恵を受ける国民の約60%が、年収21万7000ドル(約3140万円)以上の層だという。
BBCは、食品購入補助が削減される可能性のあるアメリカ人に取材した。
子供が2人いるジョーダン氏(26)は、SNAP(補助的栄養支援プログラム)の受給者4200万人の一人だ。新法はこのSNAP予算を大幅に削減する。
ジョーダン氏と妻は月に約700ドルを受け取り、家族4人の食費に充てている。もし今後、受給額が減ることになるなら、副業を始めるつもりだという。
「家族を養うため、できることは何でもするつもりだ」
新法ではこのほか、低所得者、高齢者、障害者を支援する公的医療保険制度「メディケイド」の仕組みを変更する。議会予算局は、今後10年間で約1200万人が保険を失うと試算している。
これに対して共和党は、新法のメディケイド改革は、受給の就労要件を強化することで、不正受給や制度の乱用に対処しているのだと主張する。
法案の議会通過前に行われた世論調査では、国民の支持は低く、反対が多数を占めていた。クイニピアック大学が6月26日に発表した調査では、法案を支持する人は29%にとどまった。共和党支持者の間では3分の2が支持していた。
ただし、法案の内容があまり周知されていない可能性もある。ロイター通信によると、アイオワ州での3日夜の集会で取材したトランプ支持者の多くは、法案についてほとんど知らなかったという。