2025年7月16日(水)

BBC News

2025年7月5日

MI5のケン・マッカラム長官は、組織内の新たな監察に全面的に協力すると述べた

ダニエル・デ・シモーニ調査担当編集委員

イギリス高等法院は2日、イギリス情報局保安部(MI5)が複数の裁判で虚偽の証言をしていた問題について、新たに「強固かつ独立した」組織内の監察調査を実施するよう命じた。高等法院は、この件についてMI5がすでに提出した2件の公式報告を、重大な「欠陥がある」として退けている。

BBCは先に、MI5工作員でネオナチの男性による女性虐待事件に関連し、MI5が3件の公判で虚偽の証言を行っていたと報じた。MI5はその後、これについて監察2件を行っていた。

MI5の偽証と監察報告について審理した判事3人は今回、新しい監察が完了するまで、特定人物に対する法廷侮辱罪の審理を開始するかどうかを判断するのは「時期尚早」だと述べた。

MI5による監察2件のうち外部監察は、イヴェット・クーパー内相の指示で行われた。いずれの報告も、MI5およびその職員による故意の不正行為を否定していた。

しかし今回の判決では、「これまでMI5が実施してきた調べには重大な手続き上の欠陥がある」と指摘し、「その結論を信頼することはできない」と明言した。

一方で判事たちは、「この件を明るみに出した」としてBBCの報道姿勢を「称賛」した。

イングランドおよびウェールズの最高位判事であるスー・カー女男爵、高等法院国王座部長官のデイム・ヴィクトリア・シャープ、およびマーティン・チェンバレン高等法院判事の3人は、判決文の中で、「このような事態が二度と繰り返されないことが望ましい」と述べた。

判事らは新しい監察について、MI5による監視活動を監督する調査権限委員会(IPCO)を率いるサー・ブライアン・レヴェソンの下で実施されるべきだとしている。IPCOも、今回の件でMI5から虚偽の証拠を提供されていた。

レヴェソン委員長は、「今回の件で、MI5が法定義務を順守していなかったのは明らかだ」と述べた。新しい監察はIPCOが行うべきだという高等法院からの勧告については、「首相からの指示」を待つとしている。

MI5のケン・マッカラム長官は、「一連の裁判における誤りについて、全面的かつ無条件に謝罪する」とあらためて表明した。

マッカラム長官は、この問題の解決が「MI5にとって最優先事項だ」と述べ、IPCOに全面的に協力するとした。

「MI5の任務は国の安全を守ることで、その任務のためには、裁判所の信頼を維持することが不可欠だ」と、長官は述べた。

BBCの広報担当は、「このような判断が下されたこと、そして本件を明るみに出した我々のダニエル・デ・シモーニ記者の重要な役割が、判事によって認められたことを歓迎する」、「本件に関する我々の報道は常に、公共性の極めて高いものだったと確信している」と述べた。

報道の阻止を画策、その後に偽証

この事件は2022年、MI5の男性工作員「X」に関するBBCの報道をMI5が阻止しようとしたことから始まった。この問題は、裁判所がMI5とその証拠の信頼性を問う重大な試金石となっている。

MI5は3件の公判で、「X」が工作員かどうかについて、「NCND(neither confirm nor deny、肯定も否定もしない)」というMI5の基本的な秘密保持方針を一度も破ったことはないと証言していた。

しかしBBCは今年2月、MI5との電話の録音やメモをもとに、この証言が虚偽だと証明した。

私が取材したMI5職員の一人は、「X」に関する取材を中止するよう私を説得しようとする中で、「X」が工作員だと認めていた。

Xは暴力的かつ女性蔑視の思想を持ち、MI5での立場を利用して、元交際相手のベスさん(仮名)を脅迫し、恐怖に陥れていたとされている。

ベスさんの代理人を務める、女性のための司法センター所属のケイト・エリス弁護士は、これまでのMI5の説明を今回の判決は「明確に退ける」もので、MI5に対する「重大な警告」だと評価した。

エリス弁護士によると、判事らはMI5がNCND方針の背後に「容易に隠れる」ことができた点に懸念を示したという。また、「誠実性の高い基準」がなければ、MI5に説明責任を果たさせるためのどのような安全策も適切に機能しないと警告した。

高等法院が批判したMI5の監察報告2件は、MI5による監察と、政府の首席法務官だったサー・ジョナサン・ジョーンズによる外部監察をもとにしていた。後者は、クーパー内相とMI5のマッカラム長官が委託したものだった。

高等法院の判事たちは、「(ジョーンズ弁護士に)委任された調査内容には、根本的な矛盾があると我々は判断した」と判決に書いている。

判決によると、ジョーンズ弁護士は何が起きたのか、事実確認を求められたものの、「特定の人物がなぜある行動を取ったのか、あるいは取らなかったのかを特定すること」は求められていなかった。

それでもジョーンズ弁護士は、中心人物のMI5職員に聞き取りをせず、BBCが提示した重要な追加証拠も考慮しないまま、裁判所をわざとだまそうとした者はいないという「結論に至った」のだと、高等法院は指摘した。

判決ではさらに、MI5の指揮系統で3番目の地位にある戦略担当局長が、証人陳述書の中で裁判所をミスリードするような説明をしていたことも明らかにされた。

同局長は、当初行った説明が、その時点では未開示だった秘密資料の「公正かつ正確な説明」にあたると述べていた。

これについて高等法院は、政府とMI5に秘密資料の提出を命じた。その結果、判事らは、MI5の説明が「公正かつ正確」ではなく、さらに「いくつかの重要事項が省かれていた」と結論づけた。MI5が裁判所に提出した報告からは、IPCOがミスリードされていた事実や、複数のMI5職員がどのタイミングで何を知っていたかといった内容も、省略されていたという。

判決は、「MI5がこの法廷に対して行った説明は断片的かつ不十分なもので、しかも、法廷が繰り返し介入してようやく提示されたものだった。これは、遺憾なことだ」と述べている。

さらに、「なぜ虚偽の証拠が法廷に提出されたのか、その本当の経緯に関する説明は、MI5が自発的に提示したのではなく、裁判所が引き出す必要があった。そのような印象が出来上がっている」とも指摘した。

MI5に対してきわめて厳しい今回の判決では、以下の点も明らかにされた。

・この件について、MI5は高等法院の調査権限審判所とIPCO、そしてBBCの代理人を務めた弁護士に対し、誤った説明を行っていた

・工作員の地位に関するMI5の中核的な秘密保持方針であるNCNDは、「もはやその維持に正当性がなくなった」後も、長期間にわたり法的手続きに適用され続けていた

・BBCと私、さらにその弁護士や特別弁護士らが、今回の問題を明るみに出す上で「中心的な役割」を果たしたとして、「称賛」に値すると評価された

判決では、公式調査における「重大な」欠陥の一つとして、当事者である私に直接、接触しなかった点が挙げられている。

判事らは、私が提出した、両調査に虚偽の記述が含まれていたことを示す記録やメモなどの追加証拠を「慎重に検討した」とした上で、MI5が提示したものとは「著しく異なる実態」が浮かび上がると指摘した。

一方で、MI5の内部監察の担当者と、外部監察を行ったジョーンズ弁護士が、後に私の証拠を「誠実に」検討したことは認めるとした。

しかし、どちらの調査の担当者もすでに、意図的に裁判所をだまそうとした者はいないという結論に達していたため、その結論の根拠を「根本的に揺るがす」証拠を前にしても、結論を修正するのは「必然的に困難だっただろう」という見方を、高等法院は示した。

(英語記事 Judges order 'robust' inquiry into MI5 false evidence

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cgq74n43v89o


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