2025年7月16日(水)

BBC News

2025年7月5日

ウィンブルドンの線審はおしゃれな制服で知られた

テニスの4大大会の一つ、ウィンブルドン選手権が、7月13日まで2週間にわたり、ロンドン郊外のオール・イングランド・クラブで開かれている。今大会は、これまでと大きく違っていることがある。148年の歴史で初めて、線審が姿を消したのだ。

テニスの大会ではしばらく前から、アウトやフォルトの判定を電子機器が担うことが増えている。そのため、選手や主審らはすでに、線審がいない環境に慣れている。

だが、ウィンブルドンの緑の芝生のコートでは、広告ロゴは控えめで、選手は白いウェアを着ている。そのため、線審のいないがらんとした様子は、他の大会より少し意識しやすいかもしれない。

この時期は年休を取って仕事を休み、ウィンブルドンの線審を16年間務めてきたポーリーン・エアさんは、「(線審の)人々も、おかしな制服も、ウィンブルドンの伝統だった」と言い、「そうした小さなものが、ウィンブルドンらしさをつくっていたと思う」と話した。

「あらゆるスポーツの審判の中で、ウィンブルドンの審判こそ最高のいでたちをしていると、多くの人がそう思っている。その制服を着て、ウィンブルドンを象徴する芝のコートに歩み出る。それは実に、ほかでは得難いことだ」。英テニス審判協会のマウゴルザタ・グジブ会長は、BBCスポーツにこう話した。

伝統を好む人々が線審の消滅を惜しむ一方、テクノロジー好きは進歩だと歓迎しているだろう。

では、選手らにとってはどんな変化があるのか。

今大会も昨年までと同様、選手は判定に不服の場合、コートの大型スクリーンに、リプレー映像を映し出すよう求めることができる。ただそれは、単に際どいボールがどこに着地したかを確認するものであり、これまでファンを一喜一憂させてきたような、人間の判断に対する「判決」ではない。

線審がコートから姿を消したということは、選手が不満をぶつける相手が減ったということでもある。前出のエアさんは、選手らから「怒鳴られ」、多くのボールをぶつけられたことを覚えている。

選手による線審への不適切な行為をめぐっては、2020年の全米オープンで、ノヴァク・ジョコヴィッチ選手が誤って線審にボールをぶつけたとして失格になった例がある。昨年のドバイの大会では、アンドレイ・ルブレフ選手が線審の目の前で顔をにらみながら大声を上げ失格となった。

線審がいなくなったことで、選手は線審の腕の動きでボールがアウトかどうかを知ることもできなくなった。ウィンブルドンの直前の大会では、機器のコールが観客席からの声などにかき消され、選手がプレー中に混乱する場面も見られた。

線審を務めてきた人々は、今回の新システム導入の直接的な影響を受けている。

ただ、出番を失った線審300人全員が、ウィンブルドンでまったく働けなくなったわけではない。80人近くは、判定機器が故障した場合の要員や、選手がコートから出る必要が生じた場合の付き添い役などの「マッチ・アシスタント」として、大会を支えている。

だが、主要大会での線審の活躍の場は減り続けている。ウィンブルドンが今大会から電子機器による判定に移行したことで、グランドスラム4大会の中で電子機器に線審の役割をさせていないのは全仏オープンだけになった。

男子ATPのツアー、およびATPと女子WTAの合同大会も、今年からこの技術を導入している。WTAの大会も、そうした方向に進んでいる。

線審は主審への道だ。それだけに、電子機器導入による変化が、将来の主審の質に影響を与えるのではないかと、エアさんは懸念している。

線審の次には、主審もテクノロジーに取って代わられるのか。

2023年全仏オープン女子決勝で主審を務め、ウィンブルドンでも多くの試合で主審を担ってきトマス・スウィーニーさんは、「テクノロジーには限界があり、それに対応するには常に人間が必要だ」と話す。

「人生には、いくら準備してもしきれないことがいろいろある。選手のプレッシャーを受け止め、理解し、共感し、コートの運営を助け、導き、管理することができる人間が必要なのだ」

(英語記事 Why 'best-dressed officials' are missing from Wimbledon

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cew0nwy9jnzo


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