ハリケーンで破壊されたジャマイカの町
ブランドン・ドレノン BBC記者(ジャマイカ・ウェストモアランド)
ハリケーン「メリッサ」が記録的な勢力でジャマイカ西部を襲ってから5日が過ぎ、壊滅的被害を受けた沿岸部の地域では、今も住民たちが必死の思いで支援を待っている。
多くの道路はがれきでふさがれており、食べ物がほとんどないまま住民は孤立している。電力も水道も止まり、通常の暮らしがいつ戻るのか見当もつかない状態だ。
ジャマイカ政府は1日、ハリケーン「メリッサ」が最大級のカテゴリー5の暴風雨として持続的な風速約82メートル毎秒の勢いで襲来して以来、ジャマイカでは少なくとも28人が死亡したと発表した。確認された死者数は前日からほぼ50%増えたことになり、被災地域の捜索が今後進めば、人数はさらに増える恐れがある。
地元当局者のデイトン・キャンベル博士はBBCに対し、死者のうち10人がウェストモアランドで確認されたと話した。
ウェストモアランド教区は、島の南東にあるセント・エリザベスに次いで、未確認の死者数が2番目に多いと見られている。隣接する二つの教区の間が、ハリケーンに直撃された。セント・エリザベスでは、推定90%の住宅が破壊された。
ウェストモアランド教区へ西へ向かう長い道路は、木々の墓場のようになっている。枝や幹が折れ、ねじれ、数キロにわたり一帯の地面を覆っている。ハリケーン「メリッサ」は、カリブ海の島を襲った嵐としては近代史上最強だった。それがいかに激しいものだったかを、粉砕された木々が語っている。
教区の道路脇に、がれきが山のように積み上げられている。建物は壊れ、貨物コンテナが横倒しになっている。破壊の跡の周りをぬうようにして、住民が歩いている。
1日の朝、男たちは自分たちの腕と同じくらい太い枝をマチェーテで切り払い、交通が完全に停止していた道路の一部を開通させていた。
自動小銃を胸に装着した警察官は、ウェストモアランドへ向かう支援トラックの護衛部隊の一員として車両から降り、交通整理を手伝った。
「これからどうなるか分からない」と警官はBBCに言い、自分は「壊滅」を目にしたと表現した。
ウェストモアランド教区の端にある沿岸の町ホワイトハウスは、商業の中心地でもあるが、支援がなかなか届かないと住民はいら立っている。
ギャリー・ウィリアムズさんは、支援は必ず届くと言われたが、「何も来ない」と話した。
ウィリアムズさんは、屋根が完全に吹き飛ばされ、かろうじて建っている建物の玄関先で、即席のスツールに座っていた。これからどうしたらいいか、分からないという様子だった。
嵐で家を失い、「住む場所がない」のだとウィリアムズさんは言い、今いる場所で寝るかもしれないと話した。
匿名希望の別の女性は、「今の状況は言葉にならない。ひどすぎる。何を言えばいいのか分からない。今ここには、希望も助けも命もない人がたくさんいる」と述べた。
ジャマイカでは10月31日の時点で、約40万人が停電の影響を受けていた。携帯電話やWi-Fiにアクセスできず、外の世界から遮断されている人数は把握できていない。
ジャマイカのダリル・ヴァズ運輸相は1日、島内にスターリンク端末を数百台設置し、インターネット接続ができるように対応していると発表した。
運輸相は31日の時点で、政府の対応が批判されていることに言及し、援助の遅延には「燃料補給、着陸場所、アクセス性、タイミング/視界」という「複数の要因」があるとソーシャルメディアに書いていた。
ジャマイカのアンドリュー・ホルネス首相は、「当面の焦点はがれきの撤去、主要サービスの復旧、食料と医療品の提供」にあると強調した。
しかし、それでは問題の一部しか解決しない。
ホワイトハウスのすぐ外にある小さな集落では、ロバート・モリスさんが壊れたコンクリートの板にもたれて休んでいた。その背後に広がる漁村は、彼が生まれ育った場所だが、ハリケーンに破壊されてしまい、生活の糧が失われた。
「ここはみんな壊滅状態だ」とモリスさんは話した。ボート小屋が破壊され、今では「ぺしゃんこ」になっているという。
「メリッサが何もかも壊した」、漁船も「めちゃくちゃになった」のだという。
モリスさんもまた、「助けも、食料も、水もない」と話した。
「自分たちで何ができるか、何とかするしかない」と彼は言い、まだ無事な船を持っている誰かを見つけて、一緒に漁に出るつもりだと話した。
とはいえ、獲った魚をどこで売るかは分からないという。
この地域の人々は誇り高く、我慢強い。地元ラジオがそう繰り返しているし、実際にきわめて厳しい状況でも住民の多くが前向きだ。
ひどく損傷した建物の外で座っていたロイ・ペリーさんは、すべてを失ったが「信じ続けて、希望を持ち続けるしかない」と話した。
「諦めるなんて、できない。絶対に諦めない」と彼は言った。
農家のオレス・ジョーンズさんも、同じ姿勢だ。
彼はトラックの荷台に座り、洋梨やカボチャ、サツマイモなど、ハリケーン被害を免れた最後の作物を売っていた。
自分の農場については、「めちゃくちゃだ。全部やられた」と話したが、すぐに「生きていることに神に感謝しないと」と続けた。
ジョーンズさんは、ハリケーン・メリッサが襲来する前に自転車事故で右脚を骨折した。そのため、自作の副木を装着した状態で、ジャマイカ史上最強のハリケーンを生き延びた。
地域が今後どう立ち直るのか尋ねると、「祈るしかない。ほかにどうしようもない。何もできない」と答えた。
一方、外国からの支援はすでにジャマイカに到着し始めている。
米国務省は10月31日、災害支援対応チームが現地入りしたと発表した。イギリスを含む複数の国も、数百万ドル規模の支援金と緊急物資の提供を約束している。
(英語記事 'No help, no food, no water': Hurricane-hit Jamaican towns desperately wait for aid)
