2024年5月18日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年4月24日

 フランスは、ウクライナ支援を強化し、エストニアとルーマニアに部隊を配置したことにより、同地域からの信頼を回復しつつある。一方、フランスは、言葉は立派であるものの、どこまで実施に移すかが疑問視されている。バルト諸国では、英仏よりも、ドイツによる地域的安全保障への貢献の増大に信頼を置いているとの見方もある。

 エストニアの安全保障専門家は次のように指摘する。「フランスとマクロン大統領は、信頼を回復するためには高い山を登らなければならない」「われわれはマクロン大統領が示した新たな考えはよいと思う。だが、フランスが集団としてロシアに対して取る本能的な対応に対するわれわれの不信を払拭するには時間がかかる」

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欧州における裂け目 

 この解説記事は、フランスのマクロン大統領が2月26日に行ったウクライナへの部隊派遣を排除しない旨の発言に対するバルト諸国、フィンランドの反応を伝えるものである。が、そこからは、ロシアの脅威に対する欧州内での温度差、アプローチの違いが浮かび上がってくる。米国による防衛コミットメントへの不安から、欧州独自の抑止力についての議論が出ているが、その難しさを痛感させられる。

 論議の的となったマクロン大統領の発言は、パリで開催したウクライナ支援の国際会合で欧州首脳が集まった会合の後の記者会見で行われたものであり、同大統領は、「派兵に関するコンセンサスは得られなかったが、ロシアが戦争で勝利しないようにするため、フランスは派兵の必要性を否定することはできない」と述べた。 

 このマクロン発言に対し、米政府はウクライナに派兵はしないと明言し、ドイツ、英国、イタリア、スペイン、ポーランドも火消しに回った。フランス側からは、地雷除去、サイバー攻撃防止、武器保管場所の警備といった分野での非戦闘部隊が念頭にあったとの補足説明がなされたが、欧州の主要国はフランスがこうした動きを進めようとしたことにこぞって水をかけたようだ。ロシアとの直接戦闘に発展する危険性があると判断してのことと思われる。

 この解説記事からは、ロシアの脅威、米国への不安を抱えながらも、欧州における幾つかの裂け目が見えてくる。一つは、地理的な位置に基づく切迫感の相違である。バルト三国は「ウクライナの次」があるとすると、自分たちがその対象となるのではないかとの深刻な危機感を抱いている。

 リトアニアとポーランドに挟まれたロシアの飛び地であるカリーニングラードに接する「スバウキ回廊」は有事の際の発火点となりかねない。バルト三国は、ロシアからの侵攻に備えてロシア国境、ベラルーシ国境に防衛施設を建設する計画を進めようとしている。同じ欧州でも、ロシアから地理的により遠い国には、ロシアとの最前線に立っている国のこうした危機感は共有されにくい。


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