2024年5月5日(日)

BBC News

2024年4月24日

2021年の東京オリンピック(五輪)を前に行われたドーピング検査で、中国の競泳選手23人が陽性となりながら、大会への出場が認められていた。検体の「汚染」が原因だとする中国の反ドーピング機関(CHINADA)の判断を、世界反ドーピング機関(WADA)も容認していた。独放送局ARDと米紙ニューヨーク・タイムズが20日に報じた。

報道などによると、中国の競泳選手たちは東京五輪の7カ月前に実施されたトレーニングキャンプ中のドーピング検査で、狭心症を防ぐ薬物トリメタジジンが検出され陽性となった。

しかし、CHINADAは選手たちが同薬物を意図せず摂取したとして、いかなる処分も科さないことを決めた。

30選手からなる中国競泳チームは、東京五輪で金メダル3つを含む6個のメダルを獲得した。

米反ドーピング機関(USADA)のトラヴィス・タイガート会長は、五輪開催前に陽性反応が出ていたとの報道を知って「がっかり」したと述べ、WADAが役割を果たしていないと批判した。

タイガート会長はWADAとCHINADAが「世界中の全ての人に適用される国際的ルールに公平かつ一様に従うことを怠り、陽性反応が出た選手たちのことを隠ぺいした」と批判。「この潜在的な隠ぺい工作によって影響を受けた」アスリートたちは「このシステムに深く、痛ましく裏切られた」と述べた。

そして、「陽性反応を覆い隠し、勇気ある内部告発者の声を抑圧するという汚い手を使う者は全員、規則と法律の及ぶ限り責任を負わなければならない」と付け加えた。

東京五輪の競泳男子100メートル平泳ぎでイギリス初の金メダルを獲得したアダム・ピーティ氏は、なぜもっと早く情報が公開されなかったのかと疑問を呈し、「WADAにはとても失望した」と述べた。

WADAと中国の主張

WADAは、USADAのタイガート会長の声明を受け、「とんでもない、完全に誤った中傷的な発言」とコメント。同会長の「WADAに対する非常に重大な非難に驚いた」とし、タイガート氏の発言を弁護士に照会したと付け加えた。

さらに、「タイガート氏の主張は政治的な動機に基づくもの」で、「有害なコメントが、何の裏付けもなく発信されている」とした。

タイガート氏はWADAが「脅迫と脅しの戦術」を取っていると非難している。

WADAは先に、BBCスポーツに対し、2021年6月にCHINADAが出した決定について通知されていたことを認めていた。

この件についてWADAは「慎重に検討」し、「汚染説を検証する」ために、独立した専門家と外部の法律顧問に相談したと説明した。

WADAは「トリメタジジンが検出された原因が汚染である可能性を反証する立場にはなく」、アスリートたちには「何の落ち度もなく」、CHINADAの決定に対する異議申し立ては「正当化されない」と結論づけた。

WADAの科学・医学担当シニアディレクターのオリヴィエ・ラビン氏は、「汚染があったというシナリオは、(検出された)トリメタジジンの濃度が一貫して低いこと、数日間にわたって採取された複数サンプル(検体)の結果が陰性と陽性の間を変動している選手が複数おり、ドーピング・パターンがみられないことなどから、その可能性がさらに裏付けられた」と述べた。

中国外務省は22日、ニューヨーク・タイムズとARDの報道は「フェイクニュース」で「事実ではない」と主張した。

同省の汪文斌報道官は北京で記者団に対し、中国の反ドーピング機関がこの件について「綿密で詳細な」調査を実施したとし、アスリートたちの行動は「ドーピング違反にはあたらない」と述べた。

「反ドーピング規則に誠実に従った」

ワールド・アクアティクス(世界水泳連盟)も2021年に、中国競泳選手の「違反が疑われる分析報告」(AAF)について通知されていた。

この件は、同連盟のドーピング・コントロール審査委員会によって「慎重に検討された」という。

「ワールド・アクアティクスはこれらのAAFが、世界アンチ・ドーピング規程など適用しうるすべての反ドーピング規則に従い、誠実かつ専門的に取り扱われたと確信している」と、同連盟は付け加えた。

CHINADAはニューヨーク・タイムズに対し、同機関は競泳選手たちが反ドーピング規則に違反していないことを確認しており、選手の同意なしにこの件の詳細を公表する義務はないとした。

2022年に疑義示される

WADAが出した結論は、国際オリンピック委員会(IOC)の独立機関、国際検査機関(ITA)に共有された。ITAは2022年、トリメタジジンが検出されたサンプルに関する報告に誤りがあるかもしれいないと問題提起した。

2023年4月、USADAはWADAに対し、トリメタジジン陽性の事例が隠ぺいされているとの情報を得たと連絡した。

WADAは同機関の情報調査部門が「適切な手続きが取られ、不正行為があったことを示す証拠はなかったと結論づけた」とした。

WADA情報調査部門の責任者ギュンター・ヤンガー氏は、「我々が保有しているデータは、陽性反応について隠ぺいしようとする試みが無かったことを明確に示している。陽性反応については、中国当局から通常の方法で報告された」と付け加えた。

ITAは2021年夏に、陽性反応に関する「機密かつ匿名の情報」を受け取ったとしている。

「現在も有効な情報についての完全な評価と並行して、ITAは2021年、2022年、2023年、そして今日に至るまで、的を絞った追跡調査ミッションを数多く実施してきた」と、ITAは付け加えた。

過去の事例

アスリートの検体からトリメタジジンが検出された例は過去にもある。2022年の北京冬季五輪中には、ロシアのフィギュアスケート代表のカミラ・ワリエワ選手が大会前の2021年12月に提出した検体からトリメタジジンが検出されて陽性となった。

当時16歳未満だったワリエワ氏はWADA規則の下の保護対象者にあたるとして北京大会への出場が認められた。しかし、スポーツ仲裁裁判所(CAS)は今年1月、ドーピング検査が実施された2021年12月から4年間、資格停止とする裁定を出した

これを受け、国際スケート連盟(ISU)は同30日、北京五輪フィギュアスケート団体で暫定2位だったアメリカが金メダル、3位だった日本が銀メダルにそれぞれ繰り上がると発表した。

2012年ロンドン夏季五輪の競泳男子1500メートル自由形で金メダルを獲得した中国の孫楊選手は2014年、トリメタジジンが検出されて陽性となり、3カ月間の出場停止処分を受けた。同選手は2018年のドーピング検査で検体容器を破壊し、2020年に8年間の出場停止処分を科された。CASへの上訴により停止期間は4年3カ月に短縮された。

(英語記事 Tokyo 2020 Olympics: Chinese swimmers were cleared to compete despite failed drug tests

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/crgy6pyzyygo


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