2024年5月20日(月)

BBC News

2024年5月7日

ローラ・ビッカー北京特派員

中国の習近平国家主席が5年ぶりとなる欧州歴訪をしている。5日にはフランスで、両国関係における「新たな展望」を歓迎した。今回の訪欧は、まるでチャーム・オフェンシブ(魅力攻勢。相手の心をつかむために意識的に親切に温かく接すること)のようだ。

欧州連合(EU)は、安価な中国製電気自動車(EV)が欧州市場に参入することを懸念している。習国家主席は、EUとの間に迫りつつあるこの貿易戦争の回避を目指すだろう。

西側諸国はまた、中国について、ロシア軍に技術や設備を提供し、ウラジーミル・プーチン大統領のウクライナ侵攻を助けているとも非難している。

どちらの問題も、アメリカがここ数週間、習氏に対して発している警告と共通する。しかし、それは習氏が中国の国民に、そしてフランス国民に聞いてほしい話題ではない。

習氏は代わりに、アメリカが語る文脈に対抗するため、フランスを味方につけ、欧州での中国の影響力を強化しようとしている。

今回の訪仏で、習氏はウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長とも会談した。フォン・デア・ライエン委員長は中国に対する「デリスキング」(リスク低減)を呼びかけている。中国との協議に厳しい姿勢で臨むとともに、中国からの輸出と技術への依存を減らそうという政策だ。

習氏は、フランスの後にセルビアとハンガリーを訪問する。中国の投資を欲しがっているロシアの友好国だ。

習主席は6日のほとんどをフランスのエマニュエル・マクロン大統領との会談に費やした。

中国には5月下旬にプーチン大統領が訪問する予定だ。マクロン大統領としては、中ロの友好関係、そしてウクライナ戦争を解決するためにどこまでやる用意があるのかについて、習氏に迫りたいだろう。

両首脳はフランス製ブランデーについても協議した。ブランデーは、中国が最も輸入しているアルコール飲料だが、EUの中国製EVに対する調査を受け、中国政府はこのブランデーに関税を課すと脅している。

先週、高関税は業界の未来に打撃を与えると述べたフランスのブランデーメーカーにとっては、憂慮すべき事態だ。

中国側も同じように、EV補助金に関するEUの調査結果を懸念しているようだ。大成功を収めている中国のEVメーカーにとって、欧州は重要な市場だ。

そういうわけで、盧沙野駐仏中国大使の言葉を借りるなら、中国が「反中的な関係に対抗する」には、マクロン氏を味方につけるのが肝要だ。

習氏はそのために、両国の外交関係樹立60周年を記念して、仏中関係を結びつける絆を強調している。

習氏は仏紙フィガロへの寄稿で、三つのメッセージを持ってフランスを訪れると述べた。中国がフランスとの関係において「新たな展望」を切り開く、世界に対して「これまで以上に広く」門戸を開く、そして世界の平和と安定を維持する――というものだ。

こうした政府のメッセージに沿うように、中国の国営メディアも明るい論調で報じている。

新華社通信は、「中国とフランスは歴史の松明(たいまつ)で前途を照らし、中仏関係の明るい未来を切り開き、世界の平和と安定、発展に新たな貢献をする」と伝えた。

また、習氏がフランス人作家やアーティストを好んでいることや、習氏の著作がフランス語に翻訳されたことなども報じた。

一方で警告もある。環球時報は社説で、欧州は自立し、「特に、いかなる第三者にも支配されない」ようにするべきだと、露骨にアメリカを意識した論を展開した。

フランスを味方につけるうえで、マクロン氏は習氏にとって好ましい相手かもしれない。

マクロン氏は過去に、対中政策でアメリカにならうことに反発している。昨年の訪中では、台湾について、欧州は「むやみに」アメリカに従うべきではないと述べて議論を呼んだ。

マクロン氏は、ここ数週間で中国を怒らせている一連の貿易措置の強力な支持者の一人だが、中国企業がフランスにEV工場を建設することを望んでもいる。

それでも、マクロン氏は決して簡単に言いくるめられるような人物ではない。マクロン氏は先週、先週、習主席の訪問の準備のさなか、チベット亡命政府の指導者であるペンパ・ツェリン首相(主席大臣)とパリで会談した。

マクロン氏の重要な優先事項の一つは、ウクライナ侵攻を進めるロシアを支援する危険性を、中国に警告することだ。

フランスとEUの大半の国は、アメリカと同様、中国がロシアへの武器部品供給を停止することを望んでいる。

2日発行の英誌エコノミストの取材でマクロン氏は、「中国を国際秩序の安定に関わらせることが、我々の利益になる」と語った。

「だからこそ、平和構築のために中国と協力する必要がある」

習主席は今のところ、ロシアのウクライナ全面侵攻を止めるためにいかなる措置を取ることも拒否している。

仏紙フィガロへの寄稿の中で習氏は、中国は「ウクライナ危機が欧州の人々に与える影響を理解して」おり、自分たちは「当事者でも参加者でもない」と強調したうえで、「中国は危機の平和的解決に向けて建設的な役割を果たしている」と語っている。

だが、今回の訪仏がどのような結果を生むにせよ、習氏のハンガリーとセルビア訪問は、中国がなお欧州の東端に友好国を持っていることを示すものとなるだろう。

追加取材:BBCモニタリング

(英語記事 Ukraine, brandy and EVs top the agenda on Xi's charm offensive

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/czq520y4vpeo


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