2025年9月22日(月)

プーチンのロシア

2025年8月25日

 トランプ政権側は、この電話の中で、プーチン大統領がゼレンスキー大統領と直接会談することに同意したとしている。その場に居合わせたルビオ国務長官も、「確かにプーチン大統領はそう言っていた」と証言している。

 かくして、8月18日のホワイトハウスでの会談により、①トランプ政権がウクライナに不利な和平を押し付ける恐れは遠のき、②ウクライナへの安全の保証に米国も参加する見通しとなり、③早期のプーチン・ゼレンスキー会談が実現する可能性が出てきたという、希望の持てる流れが生じたわけである。

事態は本当に好転したのか?

 残念ながら、筆者には、8月15、18日の一連の外交交渉により、ロシア・ウクライナ戦争の出口が見えてきたとは、とても思えない。

 確かに、トランプ大統領のスタンドプレイにより、膠着していた情勢が、にわかに流動化したことは事実である。たとえそれが「ノーベル平和賞を獲りたい」という個人的な功名心によるものであっても、結果的に紛争解決に繋がるのであれば、悪いことではない。しかし、プーチン政権幹部らの言動、ロシア公式メディアの報道振りなどから見て、少なくともロシアの側が方針を改めたとは思えないのである。

 8月15日の米露首脳会談の前後に、プーチン大統領が強調していたのが、紛争の「源泉」という語である。プーチン・ロシアは、ウクライナのNATO加盟がロシアの生存にとって脅威であること、ウクライナのネオナチ政権が国内でロシア系住民を迫害していること、ロシア人とウクライナ人は本来一体の存在なのに恣意的に引き裂かれていることなどを大義名分に掲げ、ウクライナ侵攻を開始した。ここに来てプーチン大統領が繰り返している「源泉」も、同じことを意味しているはずである。

 プーチン大統領のこれらの言い分は、そもそもフィクションであるがゆえに、欧米やウクライナ側が対応するのが困難である。ウクライナのNATO非加盟だけは、そういう決定を下すこと自体は可能であろう。ただ、NATOがそれに代わる安全保障の枠組みをウクライナに提供するために、たとえば地上軍をウクライナに派遣しようとすると、ロシア側が「それは我が国にとって深刻な脅威だ」とゴネることは、目に見えている。

 実際、ロシアのラヴロフ外相は、欧米諸国が進めようとしているウクライナへの安全の保証に関し、ロシア抜きで決めようとしていることを厳しく批判し、「必ずロシアの関与が必要である」と釘を刺している。

 国営RIAノーヴォスチ通信のコラムニストであるP.アコポフは、「恒久的な和平のためには、ウクライナにとってだけでなく、西側との関係でロシアにとっても、満足の行く安全の保証のあり方について合意する必要がある」と警告している。つまり、ロシアは「我が国こそ安全を脅かされている」と言い張って、和平交渉を難航・長期化させようとしているわけである。

 NATOに代わるウクライナへの安全保障提供に、米国も参加するという方向に関しても、過度な期待は禁物ではないかという気が、個人的にはしている。トランプ大統領は、8月18日のホワイトハウス会談後、ウクライナへの安全保障の提供には米国も関与するが、米軍の陸上部隊をウクライナに派遣することはないと述べ、空からの支援に限定されるとの立場を示した。

 これまでのトランプ流の延長上で推察するならば、米国製防空システムを供与し、運用ノウハウの提供や情報面での支援は行うが、その費用は欧州諸国に負担させるといったところが、現実的な線ではないか。むろん、そういった支援もウクライナの安全確保には不可欠ではあるが、米軍パイロットが直接ウクライナの空を守るといったことは想像しにくい。


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