プーチン・ゼレンスキー会談の高いハードル
そして、プーチン大統領とゼレンスキー大統領とによる首脳会談が近いうちに実現する可能性については、筆者はかなり懐疑的である。
確かに、8月18日の電話でプーチン大統領は、ゼレンスキー大統領と会う用意があるということを、トランプ大統領に伝えたのであろう。一連の外交努力がもたらした成果を強調したいホワイトハウスは待ち切れずに8月19日、「プーチン大統領とゼレンスキー大統領との会談が近日中に行われる」と発表した。
しかし、根拠はプーチン大統領との電話での会話だけであり、言った・言わないの世界である。実際のところ、プーチン大統領にしてみれば、「(お膳立てが整えばいずれ)ゼレンスキー大統領と会う用意がある」という程度の受け答えだったのではないか。
ロシアの公式筋では、プーチン大統領がゼレンスキー大統領との会談に同意したとの情報は、一切確認できない。むしろ、ウシャコフ大統領補佐官が、「ウクライナとの直接交渉において代表団のレベルを引き上げる可能性を検討するという提案を議論したにすぎない」と、はっきり述べている。
つまり、今年に入ってトルコ・イスタンブールで断続的に開催されてきたロシア・ウクライナの和平交渉は、外務次官レベルに留まっていたので、それをもっと高いレベル(ロシア側で言えば安全保障会議の書記とか)に引き上げようかという話にすぎないわけだ。
この問題でのロシア側のスタンスは一貫しており、プーチン大統領がテーブルに着くとすれば、それは最終的な合意文書に署名する時だけというものである。そして、現時点でロシア側が思い描いているのは、「特別軍事作戦」の所期の目的を達した上での決着であろう。「戦況がじり貧」だとか、「もう国内が持たない」という状況になれば別だが、今のところそうはなっていないので、今この時点でプーチン政権が中途半端な妥協に応じるとは考えにくい。
ちなみに、これはロシアによる全面軍事侵攻の前の話になるが、21年4月にゼレンスキー大統領がプーチン大統領に対し、ドンバス和平を話し合うため、実際に戦時下にあるドンバスで直接会談しようと呼び掛けたことがあった。しかし、プーチンは次のように述べて、冷たく突き放した。
「もしもゼレンスキー大統領が対露関係を再開したいのなら、ロシアとしては歓迎する。ただ、会談をして、何を話すのかが問題だ。ドンバス問題を話し合いたいのなら、まずはウクライナ当局がドネツクおよびルガンスク人民共和国指導部と会談すべきであり、ロシアなどの第三国が議論に参加するのはその後であろう。ウクライナ大統領との首脳会談については、いつでもモスクワで歓迎したい」
どうもかなり以前からプーチン大統領は、パフォーマンス過多のゼレンスキー大統領を嫌っていた印象である。同格の為政者としては見ていないフシもある。
もしもプーチン大統領がゼレンスキー大統領と会うことがあるとすれば、それは降伏文書に調印するためにモスクワに出向いてきた時だけではないのか。筆者には、そんな気さえしてくる。
