中国人VIPは主にビジネスや親族を訪ねて来日している。一方、観光目的でやってくる中国人セレブの多くは宿泊費や食費を切り詰めた格安ツアーで来日するが、ことショッピングに関しては惜しみなくお金を使う傾向がある。「ビジネスシーンではお金にうるさい彼らも、日本のショッピングでは電卓をたたかない」といった声も聞こえてくる。いったい彼らの購買意欲を刺激するツボはどこにあるのだろうか。VIPの個人旅行を控えた今、セレブの消費行動からお金を落とすヒントを探ってみよう。

一、 日本ブランドが好き

 「他の外国人観光客との一番の違いは日本製にこだわる点です」

 中国人の消費行動をこう断言するのは、秋葉原にあるヨドバシカメラマルチメディアAkibaの今井勇次氏だ。特に腕時計コーナーでは、「中国人の観光客はまず、日本製はどこですかと聞いてくる」(販売員)ことが多いようで、ショーケースの中の商品には「Made in Japan」や中国語で「日本製」と赤字で書かれた札が、値札よりも目立つように添えられている。

ヨドバシカメラ秋葉原店では、外国人向けの売り場面積を倍に拡張した。
「Made in Japan」 の札が付いた腕時計の陳列。

 

 

 

 

 



また、中国にも進出しているブランドであっても、「日本人向けに日本国内で製造・販売されている商品の方が、中国で流通しているものより高品質で安全に違いないと考える消費者が多いのではないか」と専門家は中国人の消費心理を分析する。

 日本人が想像する以上に、中国人セレブたちは「日本ブランド」に対して一種の信仰心のような憧れが強いので、大いにアピールする価値はありそうだ。

二、とことん試す

 一方、百貨店の販売員は「衣服を脱ぎ散らかすだけでなく、試着する回数が多いんですよ」と漏らす。前述の今井氏も「見本品を触るだけでなく、新品の入った箱を開けたがる」と中国人客の特性を口にした。こうした声からも分かるように、決して「日本ブランド」というだけで、商品を見定めずに購入することはない。

 というのも、中国では一般的に、一度買った商品はたとえ不良品であっても返品することが難しい。海外旅行中ということも重なってか、商品購入時には欠陥がないかを入念にチェックする傾向がある。こうした事情を考慮し、「一度封を切ってしまうと、新品としての価値がなくなってしまうため、購入を前提に事前確認を認めている」(今井氏)と柔軟な対応を見せている。

 日本人にとっては戸惑いを覚えるかもしれないが、そうした商習慣の違いを理解しよう。「あまりにも目に余るときは注意しますが、素直に聞いてくれますよ」(百貨店販売員)というから、行き過ぎたときは注意しつつ、イライラせずに気持ちよく買ってもらえるよう心掛けることが必要だ。

三、新製品には弱い

 店内は白を基調とした色で統一され、天井から足元まで約3㌧ものクリスタルがちりばめられている。訪れたツアー客は異空間に来たのかと思わず溜め息をつく。ここは、クリスタルのジュエリー、アクセサリーやオブジェなどを販売するスワロフスキー銀座店。中央通りに面した同店は、旗艦店として08年春にオープンし、世界中の店舗のなかでここでしか買えない商品を5~6種類程度取り扱っている。

 「商品選びで迷われている方に限定品や新商品を勧めると、喜んで購入してくれる」(販売員)と商品ラインナップと顧客のニーズが見事に合致している。そんな評判が広がってか、全体の客の1割が中国人となったことから、急遽中国語が話せるスタッフ2人を雇用し、1人を常時配置したほどだ。

 また、ラッピングするリボンが銀座店のみ違うことから「日本の銀座で買った」という証となり、それも喜ばれている。

 中国人観光客の2人に1人が購入する化粧品(JNTO調べ)でも同様の動きがみられる。中国人に圧倒的な人気を誇る資生堂の三越銀座店マネージャー川村恭子氏は「日本だけで売られているブランドを提案すると、それを買っていく」とセレブたちのツボを押さえている。化粧品には15~17%関税がかかるため割安感が高く、「お土産として1人で1万円以上のセットを10個以上買うことも珍しくない」という。

大型バスが頻繁に停車し、中国人観光客の一行が銀座に繰り出していく。

 さらに、中国人の消費行動として「面子や見栄を大事にする」(旅行業界関係者)という側面があり、「新製品」「限定品」は、中国に持ち帰ってからも周囲に自慢する格好の材料となる。それゆえ「買い物した夜、ホテルで商品を仲間内で自慢しあい、自分が買ったものより新しいモデルがあると指摘されると、わざわざ翌日交換しにくることもある」(三越銀座店企画担当マネジャー仁田正俊氏)という。このように日本でしか手に入らないものには、躊躇なくお金を使うことも中国人セレブの特徴だ。

四、 象徴的なものが好き

 「以前は店の奥に置いてあったのですが、好評のため店頭に出すようになりました」

 前述のスワロフスキーの販売員はこうも語る。同ブランドのシンボルである白鳥をモチーフにしたネックレスは新作ではなく既存商品のため、お客様から問い合わせがある場合に見せていた。しかし中国人客から「もっとスワロフスキーで買ったと分かる商品はないか」との問い合わせが増えたため、ディスプレイを変更し、在庫数も通常の4倍近くにまで増やした。

 この販売員によると、クリスタルを小粒にして散りばめたものより、大きいクリスタルを加工した「いかにもクリスタル」と分かるネックレスや指輪が中国人に受けているという。「周囲に分かりやすく自慢できるからではないか」と分析している。

 中国人は見栄を張るだけでなく、義理も持ち合わせている。商品選びに迷っている様子の男性客に「中国の年配の方々に人気の商品で、お土産に最適ですよ」と声をかけられると、数万円するネックレスを2個購入したという。母親だけでなく義理の母にもプレゼントするためで、「両方の親の顔を立てなければならない」(前述の販売員)という心理が働いたようだ。そんな義理・人情を揺さぶるセールストークも身に付けてはどうだろう。

五、日本式接客に感動

 「百貨店の魅力をいかに訴求できるか。日本人に支持される店であれば、中国の方々にも支持されるはず」

 日本百貨店協会の西田光宏企画開発部長は、「指差し会話集」の導入など中国人の受入れ体制を整える一方で、これまで築いてきた百貨店ブランドを打ち出すことの重要性を説く。

 三越銀座店では店内表示の多言語化を進めているが、商品を売り込むための余計な中国語のPOPは作らない方針である。「中国のお客様は、日本人に認められている店で買うことがステータスと感じている」(仁田氏)という分析があるからだ。

 今年発刊された『ミシュランガイド日本版』で三ツ星を獲得した銀座の和食店「小十」でも同様の話を聞いた。1人当たりの平均予算は2万~2.5万円の高級店だが、ミシュラン掲載をきっかけに、外国人客が殺到し、全体の2割を占めるまでになった。外国人客の6割近くが香港からの観光客だが、シンガポールや中国本土の富裕層も目立つようになったという。店主の奥田透氏は「日本のことを知ろうと思ってきている。香港や中国本土のお客さんは味覚も日本人に近いので、特別なことはしていません」といい、日本人と同じコース料理を提供している。

 また日本流の接客は中国人にとってかなりの好印象を与えている。「何も買わなくても笑顔で接してくれるし、言葉が通じなくても親切に対応してくれる。商品を購入すると店の外まで見送ってくれるだけでも中国人は感動します」(中国の旅行会社)というように、当たり前の対応を心がければそれだけでも、満足度は高くなりそうだ。

六、効率的に買いたい

 都心から成田空港への途中にあるショッピングモール・ららぽーとTOKYO-BAY(船橋市)には、平日にもかかわらず観光バスが横付けされていく。旅行最後のショッピングを前に浮き足立つ中国人セレブたちは、五星紅旗を思わせるデザインの中国版店舗マップを手に取り店内になだれ込んで行く。

 マップを開いてみると、全部で540ある店舗のうち、店舗名が載っているのはレストランと僅か20ほどのテナントのみ。その代わり、掲載されているテナントは全て写真付きである。「限られた時間の中で、いかに買い物をしやすくするかを考えた結果」と、ららぽーとマネジメントの雀部優・運営企画部長はその狙いを説明する。

 彼らの買い物時間は1.5~2時間と少ないため、中国人に人気の店をピックアップすることで、店探しにかかる時間を省いている。買う気満々のセレブたちに効率良く買い物をしてもらえれば売上げにも直結し、店舗長からも好評を得ている。「今後空き店舗が出れば、各テナントの売れ筋商品をそこに集約することも検討している」(同)とさらに動線短縮の試みは続く。

 もちろんセレブのニーズを外すと大損失にもなりかねないため、バスに戻った買い物客へのアンケート調査も定期的に行っている。ちなみにその際に配る、施設ロゴが入ったボールペンやクリアファイルが大人気という。

七、決済はスムーズに

 中国人観光客に大金を落としてもらおうと考えるならば、銀聯カードの導入をお勧めしよう。銀聯カードとは「中国人旅行者のほとんどが決済に利用している」(仁田氏)というほど、セレブたちの間でポピュラーな中国版デビッドカードである。

 中国では1回の出国につき1人5000米ドルが上限の外貨持ち出し制限が課せられており、ATMでも1日に1万元(約15万円)しか引き出せない。こうした事情により、現金を持ち歩く必要がなく、銀行口座の残高分だけ買い物ができる銀聯カードが海外旅行には今や必需品となっている。

 現在、中国を中心に香港・マカオなどの200以上の金融機関が加盟し、08年末で約18億枚発行されている。銀聯カードの決済業務を行う三井住友カードによると、日本では09年3月時点で1万2700のホテルや商業施設などが加盟しており、この3年で37倍に急増している。それに合わせ、取扱高も06年の約10億円から08年には130億円にまで伸びている。銀座、秋葉原、心斎橋など中国人観光客の人気スポットでは、多くの店舗で銀聯カードのマークが目に付く。

 またヨドバシカメラでは全店で銀聯カード利用者に対して5%割引を実施したり、ドン・キホーテでも新宿店、銀座本店などの5店舗で、オリジナル手拭いを進呈したりと、利便性を高めるだけでなくカード利用者に付加価値を付けることで購買意欲を刺激しているところもある。

八、日常にも商機

 仕事帰りのサラリーマンが集う、新宿駅西口近くにある「思い出横丁」。客が10人入ればいっぱいになるような居酒屋が軒を連ね、焼き鳥の香ばしい匂いが食欲をそそる場所だが、日本人に交じってカメラを手にして歩き回る中国人観光客の姿がチラホラみられる。中国人の友人を何度か観光案内したことのあるジャーナリストの有本香氏は「日本の文化にも溶け込みたいようで、『居酒屋に連れて行ってくれ』と頼まれる」と語る。何気ない日常のワンシーンにも消費対象は潜んでいるようだ。

 また、若い女性を中心に最近、デパ地下でケーキを買い込んで夜ホテルで食べるというパターンが見られるようだ。品揃え豊富であれこれ見比べる楽しみもあり、何よりも「信じられないくらいおいしい」(旅行業界関係者)というのが専らの評判だ。

 こうしてみると、何も中国人セレブは高級品だけに関心があるのではないことがわかる。ジャーナリストの莫邦富氏も「日本人が売りたいものを売りつけるだけではダメ。中国人が消費する必然性がないといけない」と指摘するように、セレブの深層心理にいかに迫れるかが課題である。

「WEDGE」2009年7月号では、この8カ条のほか、萌芽がみられるVIP向けビジネス最前線、歓迎一色とは言い切れない行政や旅行業界の事情、中国人セレブマネーを狙う世界各国の動向など、より多面的に特集しています。ぜひご覧ください。

 

 

 
 

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