突然の「水爆実験」

 1月6日、北朝鮮は突如として核実験を実施した。北朝鮮による核実験は2013年2月以来、ほぼ3年ぶりで、合計4回目(金正恩体制下では2回目)となる。

 これまでと異なるのは、北朝鮮当局がこれを「水爆実験」と呼んでいることだ。過去3回の核実験は、核分裂反応を用いる、いわゆる原子爆弾によるもの。一方、核分裂によって生じる熱と圧力を利用して核融合反応を起こす水素爆弾は、はるかに巨大な破壊力を発生させる。

 北朝鮮の主張は事実かブラフか、何故今なのか、国際社会への影響は…など今回の核実験は世界の注目を集めたが、ここではロシア側の反応を中心に紹介してみたい。後述するように、ロシアは北朝鮮の核開発に深い利害関係を有しており、その反応は決して小さなものではなかった。

「放射線環境に変化なし」

水爆実験に抗議するソウル市民

 北朝鮮で人工的な爆発が疑われる地震波が検知され、核実験が疑われると、ロシアのメディアは一斉にこれを速報した。北朝鮮北東部の核実験場はロシア国境からもほど近く、ロシアとしてはすぐ隣で起きた核実験である。また、核開発ではないが、2006年に北朝鮮が複数の弾道ミサイル発射実験を行った際には、コースを外れたミサイルのうち1発がロシアの排他的経済水域内に落下し、ウラジオストクの住民が北朝鮮領事館に抗議行動を行ったこともある。

 こうした環境もあって、事実だけを伝える速報が一段落すると、国営ノーヴォスチ通信は、「(北朝鮮に近い)沿海州の放射線環境に異常はない」という気象センターの談話を報じた。同センターによると、当時の沿海州の放射線強度は9マイクロレントゲン/時で普段よりも低いくらいであったという。いずれにせよ、陸続きの場所での核実験とあって放射能が心配されたのは自然な流れであろう。

 ロシア衛生・防疫庁も、全土の放射線モニタリング結果に異常は出ていないと発表している。

北朝鮮の「水爆」説には早くから冷淡

 北朝鮮が主張する「水爆」実験には、我が国や米国、韓国等で早い段階から疑問が投げかけられていた。韓国側の推定によれば、今回の北朝鮮の核実験は広島型原爆の半分にも満たない6キロトンほどの威力と推定されており、水素爆弾によるものとは到底考えにくい。核融合によって威力を増大させるブースト型原子爆弾の可能性もあるが、それにしても威力が小さすぎ、仮にブースト型原爆だとしてもそれも失敗したのだろうとされている。

 このような見方はロシア側でも早い段階から共有されていた。たとえば元戦略ロケット部隊司令官でロシア有数の核戦略家としても知られるヴィクトル・イェーシン氏は、インターファックス通信に対して「北朝鮮が核実験を行ったことはたしかだろうが、水爆かどうかは疑問だ。北朝鮮がどのような物理的インフラを持っているのかについては情報がない」と述べた。

 一方、前述のノーヴォスチ通信は、「爆発規模が小さすぎ、水素爆弾そのものとは言えない」としつつ、水素爆弾による実験を試みたが失敗した可能性や、水爆起爆用の小型原爆の実験だった可能性を指摘する原子力専門家の談話を掲載。国営TVの「チャンネル1」も、実験が失敗だったのでなければ、より強力な核兵器の開発を目指した要素実験だったのではないかとの別の専門家の見解を称した。

 水爆でないことは明らかだが、ただの失敗と片付けるのは尚早、というところであろうか。

ロシア政府は激しく反発

 ところでロシアといえば北朝鮮の友好国というイメージがあり、それはある程度まで事実でもある。しかし、弾道ミサイルや核兵器の開発に関してはロシアの立場は厳しく、2009年の2回目の核実験後は国連安保理で採択された制裁措置に対応し、北朝鮮に対する全面的な武器禁輸措置を現在まで続けている。

 今回の核実験に関しても、ロシア外務省は核開発を禁じた国連決議違反であるとして北朝鮮を厳しく批判するともに、地域の情勢が緊迫化する可能性があるとして周辺国に行動を抑制するよう求めた。さらにロシアは北朝鮮の核実験に対する国連の制裁強化に同意しており、近く安保理で制裁決議が採択される見通しである。

 ロシアが北朝鮮の核・弾道ミサイル開発に厳しい姿勢を示す理由は、ミサイルの破片や放射性物質が極東部に到達しかねないことだけではない。

 第1に、北朝鮮からの核技術流出によって核不拡散体制が動揺する可能性がある。これによって核保有国が増大すれば核大国としてのロシアの地位は相対的に低下する上、国際テロ組織の手に核兵器がわたった場合、ロシアに対する核テロの危険性が出てくる。ロシアは北カフカスでイスラム過激派に対する対テロ作戦を長年続けており、最近ではIS(イスラム国)にも多数の旧ソ連国民が参加していることから、テロへの懸念はますます高まっている。昨年末に改訂された安全保障政策の指針「国家安全保障戦略」でも、核テロが安全保障に対する懸念要因の一つに挙げられた。

 第2に、朝鮮半島における軍事的緊張の高まりは、米軍のプレゼンス増大を招く。そもそも中露が北朝鮮の体制を支持するのは米国の同盟国である韓国と直接に国境を接したくないという緩衝地帯的発想を基礎としているが、その北朝鮮のせいで米国の軍事プレゼンスが増大するのでは本末転倒である。

 また、北朝鮮の弾道ミサイル開発は、ロシアが反対する西側諸国のMD(弾道ミサイル防衛)システムの開発・配備を促すという側面も持っている。ロシアは、北朝鮮には長距離弾道ミサイル開発能力はないと度々主張しているが、これは北朝鮮のミサイル開発を擁護している訳ではなく、MD開発への牽制と見るべきであろう。

 今回の核実験直後、韓国は「戦略的アセット」の韓国配備に関する協議を米国との間で行っていることを明らかにした。これが以前から検討されていたTHAAD(終末高高度領域防空)システムを指す場合、北朝鮮の核実験が(ロシアにとっては望ましくない)アジア太平地域での米MD網増強を招いていることになる。

 要するに、北朝鮮の核・ミサイル開発はロシアにとって迷惑千万なのである。しかも今回、北朝鮮は初めて中国にもロシアにも事前通告を行わずに核実験に踏み切ったとされ、ロシアにとってはますます北朝鮮がアンコントローラブルな不安定要因になりつつあると言える。

露朝関係の今後は

 近年、中朝関係の悪化で空いた穴を埋めるように、ロシアは北朝鮮へのエネルギー支援や投資などを行ってきた。ロシア主導で朝鮮半島縦断パイプラインを建設する等、ロシアらしい壮大な構想も持ち上がった。ソ連崩壊後に失われた朝鮮半島での影響力を回復するという政治的理由ともに、アジア太平洋地域への経済的進出の足掛かりや極東振興のきっかけとしたいとの経済的思惑がこれらの背景にはあったと思われる。

 しかし、北朝鮮は昨年5月にモスクワで開かれた対独戦勝記念式典への金第一書記の招待を直前でキャンセルするなど、露朝間には微妙な隙間風が見られる。今後、ロシアが北朝鮮への制裁を強化することで露朝関係が緊迫化へ向かうのか、今後とも経済面での関係強化は続いていくのかなどが今年の注目点となろう。

  
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