中東の石油大国、サウジアラビアとイランの対立が深刻化する中、世界各地で過激派組織「イスラム国」(IS)のテロが相次ぎ、組織の本部のあるシリア・ラッカでは戦闘員が母親を処刑するという残虐な事件も起きた。劣勢にある戦況をはね返すようなテロとその残虐ぶりに、欧米各国はさらに大きなテロが起きるのではないかと警戒を強めている。 

IS領土、30%減少

 一連のテロの嵐は、パリの風刺新聞社シャルリ・エブド襲撃事件から1周年に当たる7日から始まった。まずはパリ北部の警察署にナイフを持った男が侵入、「アラー・アクバル」(神は偉大ななり)と叫びながら警官を襲撃しようとしたが、逆に発砲されて死亡した。

 男はモロッコ生まれの移民で、ISの旗やアラビア語の犯行声明を持っていた。現場は同新聞社や昨年11月のパリの同時多発テロの現場に近い繁華街の一角。テロへの厳戒態勢が続く中、警察署襲撃が起きた時はオランド大統領がパリ警視庁でテロで死亡した警官追悼の演説を行っていた。

 フランスと地中海をはさんだ対岸の北アフリカ・リビアの西部ズリデンでも7日、警察官の訓練施設に自爆車が突っ込み少なくとも65人が死亡、ISが犯行声明を出した。さらに同じ日、米東部、ペンシルベニア州フィラデルフィアでも、男がパトカーに乗っていた警官に近づいて発砲、重傷を負わせた。男はISに忠誠を誓っていたことが判明した。

 続いてエジプトでも、8日には紅海のリゾート、ハルガダで、武装した2人組がホテルを襲撃、オーストリア人ら外国人3人が負傷。9日には今度はカイロ近郊のピラミッドで有名なガザで、警官2人が射殺され、ISが犯行声明を出した。イラクのバクダッドでも11日、ショッピングモールに自爆車が突っ込むなど全土でテロが起き、約50人が死亡した。

 そして12日には、トルコ最大の都市イスタンブールの旧市街地で爆弾が爆発、10人が死亡した。ISの自爆テロと見られている。トルコでは、昨年10月、首都アンカラで100人が死亡するISによるテロ事件が起きている。

「呼応テロ」の色彩が濃厚

11日バクダッドで起きたテロ現場

 こうしたテロはほとんどがISの直接的な命令に基づいたものというよりも、ISのテロの呼び掛けに応じたローン・ウルフ(一匹狼)や分派組織による「呼応テロ」の色彩が濃厚だ。しかしテロが激化する背景には、ISが戦場で劣勢になり、それをテロではね返そうという意思があるのは明らかだろう。

 有志連合の報道官は、ISは昨年1年間で「イラクでは40%、シリアでは20%、全体で30%領土を失った」としており、イラクの戦略都市ラマディを含め各地で後退を余儀なくされている。

 こうした劣勢に挑むかのように、ラッカでは20代の戦闘員が自分の母親を公開処刑するという残虐な事件も起きている。ロンドンのシリア人権監視団によると、処刑があったのは8日。ラッカの中心部の郵便局前で、数百人が見守る中、この40代の母親が処刑された。

 母親はこの郵便局に勤めていたという。母親はこの戦闘員に「一緒に逃げよう。このままでは有志国に全員が殺されてしまう」と持ちかけたところ、戦闘員がこのことを指導部に報告し、公開処刑となった。

イラク戦争時の再現

 ISは11月のパリ同時テロ事件後、米、英、仏軍、並びにロシア軍が空爆を強化したため大規模な攻勢に出ることはできなくなり、地下壕に隠れたり、ラッカなどの都市部の住宅に移動して住民を盾にして立てこもることが多くなった。しかしこのところ、イラク北西部の同国第2の水力発電所のあるハディサを包囲し、連日攻撃を仕掛けるなど余力の残っているところを見せている。

 こうした中、オバマ政権は昨年末からイラクとシリアで特殊部隊によるIS幹部の暗殺・拉致作戦の強化に乗り出した。特殊部隊は現在、シリアに反体制派の支援や偵察などのために約50人が駐留。イラクでも第1陣として200人が投入され始めているが、その任務は「価値の高い個人や標的を狙う」(国防総省当局者)というものだ。

 米軍のイラク占領中の2007年当時、米軍と激戦を展開したアルカイダ系テロ組織を壊滅するため、特殊部隊が急襲を繰り広げた作戦と同じようなことが想定されているようだ。

 米軍がこうした作戦に期待しているのは、昨年5月16日の「デルタ・フォース」によるシリア東部のIS幹部アブ・サヤフへの襲撃。同幹部はISの秘密資金を仕切っていた経理マンでこの襲撃で殺害された。しかし襲撃の際に押収したパソコンや携帯電話などからISに関する貴重な情報が多数入手され、米側にとって大きな収穫となった。

 しかし一方で、10月のイラク北部のクルド人捕虜救出作戦では、特殊部隊の1人が戦死しており、リスクも高い。特殊部隊の投入はオバマ政権にとっては両刃の剣ともなる懸念もある。

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