最近の家電関連の展示会に行くと、モノではなく、部屋を見せられることが多くなった。家電単体での機能ではなく、人の生活スタイルに合わせ、家電が動作することを示すためだ。例えば、駅に降り立つと家の空調が作動し始める。家の前まで来ると玄関照明は明るくなる。鍵は指紋認証。歩く方向へ灯りが付く。部屋に入るとAIスピーカーから、

 「おかえりなさいませ。先ほど、奥様は社の用事で遅くなる。先に寝ていて欲しいとの伝言がありました。お風呂にしますか? 食事にしますか? 本日は、いいお魚が届いています。竹の子煮もできています」

 「風呂は沸いている?」

 「あと10分待って頂ければ、ご用意できます」

 「では、風呂が先、それから食事。ビールも1本付けてくれ」

 「かしこまりました」

 こんな具合だ。

AIスピーカーの実際

 昨年後半、Google HomeとAmazon Echoが導入され一気に認知が高まったAIスピーカー。ホームシステムを予感させるところもあり、注目を浴びた。しかし、今までリモコンで操作してきたことを、「声」で操作できるようにしただけという声も聞かれる。

 リモコンと違い、スマホ、AIスピーカーの場合、ネットを介するため、ホームシステムに近づいているのは事実。しかし、まだまだだ。ただ単に「して欲しいこと」をキーボードではなく、声で命令することができるようになっただけなのだ。このためスピーカーへの話しかけは「スピーカーへの呼びかけ」+「使用するスキル(アプリ)」+「して欲しいこと」で、ワンセットとなる。よく指摘される、「ヘイ、グーグル」とか「アレクサ」などは、ここから命令が始まることを宣言をしているようなものだ。

 本来理想とされるAIは、情報の入手、分析、そして考察、判断、処理ができるのだが、今は、人が処理まで指示している状態だ。

IoTでできること

(tommaso79/iStock)

 IoT/ホームシステムで期待されるのは、3つある。「徹底した自動化」「カスタマイズ化」「連係化」だ。「自動化」が「時短」になるのは、おわかりいただけると思うが、使う時間が短いと言うことは「節電」も意味している。重要なのは「放ったらかせる」ことだ。人が途中で介在すると、本当の時短にならない。そこのため必要なのが「ビッグデータ」と「ノウハウ」を駆使することだ。

 これに対し「カスタマイズ」は、「プライベートデータ」の蓄積と活用と言える。こちらは「個人の快適さ」だ。良い例が夏に寝る時の温度。A氏とB氏で快適と感じる温度が5℃も違うのはありがちな話しだ。A氏が涼しいのが好きな場合、室温27℃でも、風を送り25℃の体感温度を実現させるなど、細かい芸当となる。

 「ビッグデータ」で作るのが「製品」なら、「プライベートデータ」で行うのがカスタマイズだ。IoT時代のサービスは、より個人の好みがクローズアップされる。難しそうに見えるが、スマホをみて欲しい。買った時は、同じスマホだったのに、人ごとに、外観も、中身も違うはずだ。それの白物家電版と思ってくれればよい。

家電「連携」とはなにか?

 今、日本の家屋のほとんどは「省エネ」住宅。簡単にいうと「密閉度」が異様に高い。これは夏のエアコンの効率を考えてのことだが、日本住宅の密閉度は「北欧並」。ところが、この密閉度の高さと、生活の仕方が変わって、一般住宅の空気環境は悪化する一方、というと驚かれるだろうか?

 室内空調の要素は、「二酸化炭素量」「温度」「湿度」「空気中の浮遊物」。浮遊物には、物理的に小さい「PM2.5」、その他「黄砂」「花粉」「アレルゲン」「黴菌」「ウイルス」「有機化学物質」などがあげられる。

 空調というのは、これら全てを人間が住む上で適切にコントロールすることだ。一番よい空調とも言えるのは自然の森で、植物が実に見事にコントロールしてくれる。実は、これを人工的にコントロールしようとすると大変なのだ。

 「二酸化炭素」だが、今の密閉度だと、まだ生命の危険にさらされることはないにしても、ちょっと狭い部屋だと、数時間で「頭がぼんやりする」レベルまで上がる。空調家電で有名なのはエアコンであるが、エアコンには二酸化炭素を統べる機能はなく、これは換気するしかない。ところが花粉の季節だと、花粉症の人は窓を開けたくないという矛盾にみまわれる。花粉を除去するには空気清浄機に頑張ってもらう必要がある。

 また冬場、空気は乾燥する。女性なら肌の手入れも兼ねて、加湿機を作動させるところである。ところが温度が低いと、空気が保持できる水分量は減る。結局、大量の結露を招くことになる。高温多湿の日本は、空気中を浮遊するカビの胞子は、他の地域より多く、水と栄養素さえあれば、冬場でもかびる。ちなみに換気がしっかりしていない仮設住宅で天井一面がかびているのを見て、ぞっとしたことがある。密閉度が高いと、カビの浮遊量は直ぐ上がる。「アスペルギルス症」などカビ起因の病気が出てくることになる。これも温度が下がるのを感知して、除湿に切り替われば、カビの発生を抑えることができる。ところが生活習慣が変わり、都会では洗濯を部屋干しするのが主流。密閉度が高いため、逃げ場のない湿度は水となり、カビをますます増長させる。

 これに対し、空調家電の基本機能を考えると、換気扇が二酸化炭素量と除湿、エアコンは温度管理と除湿、加湿器は加湿、除湿器は除湿、空気清浄機は浮遊物除去とバラバラ。外気の浮遊物の状態と換気のタイミング、温度と湿度の適切なコントロールなど、色々な連携が必要なのに家電は複合機能を持たない。となると、これこそAIによる家電連携が望まれる。

 「省エネ住宅」は、連携空調によりはじめて「健康住宅」になる。

ホームシステムの下準備

 実用化されると便利なホームシステムだが、実用化までに克服しなければならない問題が幾つかある。1つめはネットへの常時接続だ。今用いられているのは「Wi-Fi」だが、Wi-Fiは大量の情報を流せるため、強い電波が必要とされる。微弱になると直ぐ切れてしまう。家の全部屋、十分な電波を届けるのは、ちょっと一苦労。場合によっては、中継時に電波増幅したりしたりする必要もある。コンセント数も問題だ。何より、接続の確実性をどう保証するのかは、大きな課題になる。

 先月、パナソニックは、NTTとLPWA(Low Power Wide Area)の実証実験することを発表した。1つの手だと思う。しかし海外メーカーがWi-Fiでホームシステムを構築しつつある今、LPWAの入り込む余地は残されているのだろうか?お得意の「ガラパゴス化」になる可能性はどうなのだろうか?

 また、家電にWi-Fiなどの通信システムを組み込むことが必要になる。家電の価格が高くなるか、何か機能が削除される可能性がある。その上、導入しづらいのも事実だ。例えば、注文住宅でホームシステムを入れたいとした場合、ハウスメーカーはかなり入れやすいですが、昔の流れを汲む工務店は、新システムは苦手なことが多い。