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地球温暖化とのつきあいかた
杉山大志 著

目次 立ち読み

 

温暖化対策において、思い通りにいくものは何一つない。科学的不確実性は相変わらず大きい。人間行動は不合理極まりない。政治は迷走する。国際関係は油断がならない。世の中は、不確実性とリスクに満ちている。これを全て直視した上で、地球温暖化のリスクをどう管理したらよいか。平たく言えば、地球温暖化と、どう付き合えばよいか。これが本書のテーマである。IPCC(気候変動問題における政府間パネル)報告書の統括執筆責任者をつとめた温暖化問題の世界的エキスパートが語る、このやっかいな地球温暖化とのつきあいかた。

 

 

<書籍データ>
◇新書判 304ページ
◇定価:本体1,300円+税
◇2014年9月20日発売
◇ISBN: 978-4-86310-133-3

<著者プロフィール>
杉山大志(すぎやま・たいし)
IPCC第5次評価第3部会報告書 統括執筆責任者。(一財)電力中央研究所上席研究員。1991年東京大学理学部物理学科卒業。93年東京大学大学院工学研究科物理工学修士了、(一財)電力中央研究所入社。国際応用システム解析研究所(IIASA)研究員、国際学術会議科学執行委員、京都議定書CDM理事会パネル委員、産業構造審議会専門委員、IPCC第4次評価第3部会及び統合報告書主著者を経て、現職。

 

 

 

<立ち読み>

 

温暖化対策は、環境・経済・エネルギー安全保障のバランスをとらねばならない。必要な知識は気候科学、生態学、経済学、政治学など、広範な学問分野にわたる。このため、全貌をつかむのは容易ではない。
筆者は以前、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)で科学から政策までを包括する統合報告書の執筆に参加し、温暖化問題の専門家といっても、大抵は問題全体のごく一部の専門家であることを知った。そのような専門家が集団を作ると知識は増えるが、木を見れば森が見えるというものではない。知見を総合化し解決策を提示するには、それを正面から目指す個人の取り組みも必要である。以来筆者は、自分の天命と勝手に思って、地球温暖化問題の総合的な理解を目指し、あらゆる学問分野の資料を渉猟してきた。今日に至って、ある程度の成果が出たと思うので、それを読者と共有したい。
温暖化対策において、思い通りにいくものは何一つない。科学的不確実性は相変わらず大きい。人間行動は不合理極まりない。政治は迷走する。国際関係は油断がならない。世の中は、不確実性とリスクに満ちている。これを全て直視した上で、地球温暖化のリスクをどう管理したらよいか。平たく言えば、地球温暖化と、どう付き合えばよいか。これが本書のテーマである。
まずI章では、筆者がとりまとめに参加し、2014年4月末に発表された、IPCC第3作業部会のCO2排出削減策の報告を解説する。その際、舞台裏で、科学と政治の駆け引きがあったことを明かそう。地球温暖化を2度に抑えるシナリオは提示されたが、この実現可能性は乏しいことが分かる。
では2度を超えるとどうなるのか? Ⅱ章では、IPCC第2作業部会が2014年3月末に発表した環境影響評価について調べる。この報告書は、残念ながら、危機を警告しようという意識ばかりが先走っており、科学的知見を正確に伝えることができていない。この報告書を見ると、地球温暖化によって深刻な悪影響があるのかどうか、かえって訝しくなってしまう。
環境史の研究者たちが明らかにしてきたことだが、環境も人間の生活も、温暖化とは無関係にどんどん変わってきた。人間はその只中で生きてきた。なので、少々の温暖化であれば、人間はそれに適応してしまう。とくに日本のように経済力のある国では適応能力は高い。では「温暖化で水没するかわいそうな国」と思われているツバルはどうか、調べたのがⅢ章である。驚きの実態がある。温暖化はツバルの抱える問題の本質ではない。
結局のところ、温暖化の悪影響がどの程度なのか、今のところはっきりしない。ただそれでもなにしろ不確実性が大きいので、潜在的なリスクも大きい。世界各地で深刻な渇水が起きるかもしれない。万一に備えて、うまく管理する必要がある。このためには、CO2の排出削減だけではなく、温暖化する気候への適応、そして地球を冷やす気候工学が必要になる。その戦略をⅣ章で論じよう。
ここまでは地球規模での話であった。Ⅴ章以下では、日本の温暖化対策を考える。じつは、筆者が関わったIPCC第3部会のCO2排出削減策の報告には、政策のあり方について、大変に重要な知見がいくつも盛り込まれた。これは今までの日本の政策議論からはすっぽりと抜けていた内容であるが、今後への示唆するところ大なので、詳しく説明していく。
CO2を減らすためにはもちろん制度を整備しなければならない。これは市場まかせでは温暖化問題は解決しないという「市場の失敗」に対処するためである。だが変な政策が入ると費用はかかるしCO2も減らず、いいことがない。このような「政府の失敗」にも気をつけねばならない(Ⅴ章)。また省エネなら光熱費の節約になるからコストはかからないという話も、そうとは
限らない。これについては甲論乙駁の大論争があった(Ⅵ章)。
次いでエネルギー安全保障を詳しく取り上げる(Ⅶ章)。環境問題を扱う本で、エネルギー安全保障を正面から取り上げるのは珍しいと思う。だがじつは、世界の国々のエネルギー政策を決めているのはエネルギー安全保障と経済であって、環境の優先順位は低いのが実態である。日本も、いまの世界情勢においては、そうせざるを得ない。この現実を直視しないと、実施可能な、意味のある温暖化対策を語ることはできない。
最後に、日本の国際交渉のあり方(Ⅷ章)と、国内の温暖化対策についての提言をする(Ⅸ章)。
本書では、3掛ける2の複雑な主題がせめぎ合う。地球規模では、排出削減、適応、気候工学という三つの主題がある。次に日本規模では、環境、経済、エネルギー安全保障の三つの主題がある。三つの主題からなる曲が二つ絡み合う。どの一つを取り去っても完結しない。バッハのオルガン曲並みに大変な構成である。全くもって温暖化問題は単純な話ではない。また極めて広範な知識が要る。だからこそ解決は容易ではないが、知的には抜群に面白い。本書が、読者の知的好奇心を刺激できることを願う。

 

「はじめに」より。
続きは本書でご覧ください。

 

 

 




<目次>

 

 

はじめに
略語一覧

I IPCCの温暖化対策シナリオと政策評価
1 科学と政治の出会う場所
2 2度シナリオの特徴と限界
3 再生可能エネルギーと原子力の評価
4 エネルギー需給および排出の動向
5 政策の生態学
6 政策はどう評価されたか
7 今後の展望

II 温暖化の悪影響はどの程度か?
1 SPMにはどのような図があるか
2 生態系への影響
3 漁業への影響
4 農業への影響
5 結論:科学的知見を正確に伝えていない

III ツバルの危機とは何か?
1 はじめに:日本への温暖化影響
2 ツバルの通説
3 ツバルの真実
4 島嶼国の歴史
5 移住し続ける人々
6 グローバル経済に依存する究極の離島
7 島嶼国の将来像と移住

IV 地球規模のリスク管理戦略
1 温暖化の悪影響はよく分からないが
2 ・・・・・・リスクに備える必要がある
3 地球を冷やす気候工学(ジオエンジニアリング)
4 温暖化のリスク管理型枠組みの展開

V 市場の失敗と政府の失敗
1 温暖化対策パッケージの3本柱
2 政府の失敗
3 技術開発政策
4 日本における政府の失敗
コラム 専門家の活用法

VI 省エネルギーはコストゼロでできるのか?
1 コストゼロの省エネルギーとは
2 批判:「隠れたコスト」がある
3 擁護:コストゼロの省エネルギーの事例研究
4 政府の失敗
5 低い割引率は正当化できるか?
6 リバウンド効果
7 ダブルカウントの問題
8 ここまでのまとめ
9 日本はどうしたらよいか

VII エネルギー安全保障
1 エネルギー安全保障とは
2 ユートピア的な世界観と京都議定書
3 地政学の復活
4 米欧日の凋落
5 混乱の続く中東
6 中国の台頭
7 途上国の経済開発は進むのか
8 様変わりした技術移転
9 民主主義の堅持と日本の安全保障

VIII 国際交渉
1 国際交渉の現状
2 「国内の排出削減目標のみ」では意味をなさない
3 「行動へのコミットメント」とは
4 CO2は貿易に体化されている
5 三つの行動へのコミットメント
6 まとめ

IX 日本の温暖化対策のあり方
1 エネルギー安全保障を優先する
2 「2度」と「△80%」の見直し
3 温暖化の悪影響を管理する
4 日本の温暖化対策パッケージのあり方
5 政府の失敗を防ぐには
6 数値目標の法的位置づけを変える
7 コスト試算法の新提案
8 京都議定書でCO2は減ったのか?
9 2030年の数値目標のコスト

おわりに
参考文献

 

 


 


 

 

 

 

 

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