チェス、将棋、そして囲碁の世界で人工知能(AI)対ヒトの対戦が注目を浴びるようになってしばらく経つが、投資業界でのコンピュータの活用も広まっている。事前に取り決めた条件で自動的に売買を行うアルゴ取引と言われるものから、市場やインターネット上の膨大なデータ(ビッグデータ)を瞬時に処理し、将来を予測する自動取引システムまで、ピンキリだ。

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 その中で、日本でも始まりつつある「ロボ・アドバイザー」という金融サービスについてご存じだろうか? スリーピース・スーツの金融マンやサスペンダーを付けたトレーダーでなくとも、年金や超低金利による不安を抱える大人であれば今後誰でも知っておくべきサービスだ。

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貯金はいくらありますか?

 他にも、毎月の支出、引退する年齢、家族構成、金融商品の知識レベル、リスク・リターン趣向(どれくらいの損失を覚悟し、それに応ずるどれくらいの運用収益を期待するか)等。真剣に悩んだとしても、10~15分程度の質問事項にWeb上で答えると、世界中の選択肢から貴方に最適な株や債券による運用をしてくれる、それがロボ・アドバイザーだ。

 日本が「おもてなし」の国として話題になってしばらく経つが、多くのロボ・アドバイザーのウェブサイトは衝撃的だ。思わず投資したくなってしまうようなデザインになっている。百聞は一見にしかず、ロボ・アドバイザーの会社名にはそれぞれへのハイパーリンクをつけてあるので是非ともダブル・クリックして覗いて欲しい。

欧米では運用資産が急増、日本もこれから!

 ロボ・アドバイザーは10年弱前に米国でFinTech(金融とIT技術の融合)ベンチャーとして始まり、既に欧米での総運用資産は世界中で200億ドル(約2.2兆円)を超えている。前年度比150%強の水準で増加しており、2020年には約2~3兆ドル(約242~330兆円:日本の家計金融資産における株・債券・投資信託の残高である約2.5兆ドルとほぼ同額)になるとも言われている。

 世界家計金融資産の2020年予想(注1)は345兆ドルだが、仮に株・債券・投資信託等での運用を約100兆ドル(全体の3割弱)とすると、ロボ・アドバイザーは資産運用業界で数%のシェアを取る想定となる。”我々はいつも2年以内の変化を過大に、10年以内の変化を過小に想定してしまう” (注2)という言葉を信じると、数10%水準にもなる可能性は否定できない。

 多くのロボ・アドバイザーは、ウォールストリートの金融機関で数年過ごしたトレーディング・電子取引・IT出身者と、世界最高峰の大学・大学院から卒業したての数理系天才達が融合して始まったFinTechベンチャーだ。ただ、数十人程度の従業員規模とはいえ、上位5社の運用預かり資産はそれぞれ10億ドル(約1100億円)を上回っており、既に大手金融機関とロボ・アドバイザーの提携、または吸収・合併のニュースが巷を賑わせている。

どんなロボ・アドバイザーがあるの?

 日本では株式会社お金のデザインがここ数年ETF特化型ロボ・アドバイザーを運用していたが、先月(2月16日)、その斬新な取組が露わになった。スマホからはじめる資産運用サービスTHEO(テオ)を開始。10万円からはじめられ、9つの質問に答えると、ロボ・アドバイザーが世界約6000銘柄のETFで一人ひとりに合わせた運用をするサービスだ。画家ヴィンセント・ヴァン・ゴッホを資金面・精神面、何があってもサポートし続けた弟のテオ(テオドルス・ヴァン・ゴッホ)が名前の由来とは、粋である。

 2015年4月設立のWealthNavi株式会社は昨年ベンチャー投資会社数社から資金調達。12月にはその資産運用シミュレーション・サービスを、ロボ・アドバイザリーによる資産運用サービス WealthNavi へと展開している。今年1月18日に招待制(メールアドレスを事前登録し、招待メールを待つ形式)で資産運用を実際にはじめた。

 日本では上記2社がFinTechベンチャーとして注目を浴びているが、既存の金融機関も含め、複数企業によるサービス参入が見受けられる。実際の運用まではしないが、推奨ポートフォリオを提示するものも多い。

 前述の通り米国ロボ・アドバイザー業界はもっと成熟している。2008年創業、大手のBetterment (ニューヨーク) はわずか6年弱で、12.5万件を超す顧客から合計30億ドル(約3300億円)を預かり、運用している。Webページは非常に美しくデザインされており、初心者が心地よく投資について学びながら運用する気持ちが理解できる。

 業界の雄としてよく比較対象に挙がるのはWealthfront 。2011年にシリコンバレーで創業し、わずか2年半で運用預かり資産を10億ドルまで拡大したことで注目を浴び、こちらも現在30億ドル(約3300億円)とのこと。

 世界最大のディスカウント証券会社であるCharles Schwabは昨年3月、そのロボ・アドバイザー・サービス Charles Schwab Intelligent Portfolios を発表した。ロボ系の総運用資産額は53億ドル(約5800億円)水準へ成長している。

 投資信託やETFで世界最大手のVanguard Groupは、170億ドルを2年かけて試験運用したのち、昨年5月にVanguard Personal Advisor Services というロボ・アドバイザー種のサービスを発表した。ロボ・アドバイザーと投資アドバイザー(ヒト)の組み合わせによるサービスで、運用預かり資産は現在310億ドル(約3.4兆円)まで拡大している。

「コンピュータvsヒト」という構図は愚問

 コラムのタイトルに「コンピュータvsヒト」うんぬんと書いておきながら恐縮だが、実はこの質問は愚問と考えている。それぞれ長所短所が異なる。

 ロボ・アドバイザーであれば(ヒトによる投資運用や投資アドバイスに比較して)低コスト、かつ定量的な分析に基づいた推奨が得られる。金融マンの定性的な推奨がどれだけ公正・賢明なのかに悩まされることはない。一方、予め定められたプログラムによる定量的判断でしかないのも事実だ。投資家の生活環境や趣向の変化、資産形成プランについても、詳細(個別企業投資、不動産、税、年金等)まで対応できる訳ではない。

 日本の場合、リスク資産(株・債券・投資信託)投資がそもそも個人金融資産の16.4%しかない(欧米は30-60%水準)。中長期的ではあるが、金融サービスのメニューに新たにコンピュータ(ロボ・アドバイザー)が加わる事により、むしろ預貯金からリスク資産へのお金の流れが生まれるのではないか。

(注1) Credit Suisse(2015年10月)
(注2) ビル・ゲイツ氏の言葉

おことわり:本コラムの内容はすべて執筆者の個人的な見解であり、トムソン・ロイターの公式見解を示すものではありません。

  
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