ホーチミン作戦」とは何だったのか――。 1973年パリ和平協定が交わされ、アメリカ軍はベトナム全土から一斉に撤退。ニクソン大統領は「ベトナム戦争の終戦」を宣言した。翌年、ニクソン大統領はウォーターゲート事件により辞任、後を継いだフォード大統領はケネディ政権が推し進めたアポロ計画による膨大な出費、オイルショック後の景気停滞やベトナム戦争に対する膨大な戦費と不況の関係などの国内問題に集中しなければならなかった。
こうした状況下、北ベトナム政府はアメリカの再介入はないと判断し、パリ和平協定に違反して南ベトナム軍に対し全面攻撃(ホー・チ・ミン作戦)を開始した。
著者が日経新聞の特派員としてサイゴンに派遣されるのは、75年3月、ホーチミン作戦がまさに始まろうとする時期だった。国外強制退去となる10月までの半年あまり、一時はひそかに遺書をしたためる戦火のなかで見聞した「知られざるベトナム戦争」を臨場感あふれる筆致で回想したのが本書である。
南北ベトナムの統一へ向けた北ベトナムのしたたかな政治力。強権的に南北統一を成し遂げてゆく北ベトナム、そしてそのなかで翻弄される南ベトナムの市民たち。「ベトコン」の女兵士と結婚した元日本兵の銀行員との出会い、ボートピープルとなった画家との30年後の邂逅――。本書は、炎えたつような真っ赤な花が繁ったサイゴンのひと夏へ捧げる30年後の挽歌である。